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【読書ノート】51 「黄色い家」川上未映子


2023年作品。初めて川上未映子の小説を読んだ。中年の主人公が未成年だった90年代を回想する形式で、恵まれない下層環境に育った未成年の主人公(ダメな母親、水商売、貧困家庭)が母の友人の黄美子と知り合い、生きていくために他の2人の少女と共に水商売やカード犯罪に身を投じていく話。読み安い軽妙な語り口だが重い内容。

細かい描写や心理はどれも非常にリアルで、著者は高卒でキャバクラなどで働いた経歴があるようなので、犯罪以外の部分は著者自身の青春時代の経験が反映されているのかもしれない。

主人公の花は、救いをお金そして家(家族)に求めてきた。生きるためにはお金が必要なため孤独な主人公は共同生活でいわば疑似家族のようなものを作り水商売や犯罪に精を出すが、そこにはやはり不安定な汚れたお金と仮初めの信頼関係や愛情しかなく、当然救いなどない。「黄色い家」とはこの歪んだ家族を象徴するとも言えるのではないだろうか。

注視すべきは主人公の花は他の女性登場人物たちと異なり処女で男関係も全くない。恐らく主人公の恋愛まで描くと物語が複雑になり焦点がぼやけてしまうからかもしれない。この話はあくまで「生きるためにはお金が必要な未成年の主人公が水商売や犯罪に手を染めながら懸命に生きていく姿」に焦点が置かれており、恋愛その他の要素が割愛されている印象がある。

カード犯罪を主導するヴィヴさんの金持ちたちのお金をちょろまかす言い分は明快かつリアルで、これは現在の振り込め詐欺を行っている「持たざる者」の若者たちにも共通している心理なのではないだろうか。

20年の時を経ても主人公の花も黄美子もその周囲の人々も、結局は負の連鎖から逃れることが出来ず年をとっていく。救いがある話ではないが、ある階層のその時代の現実を見事に切り取って小説化したと言える。

著者は過去に日本人でありながらブッカー賞候補に挙がり、多くの著書が既に多くの言語に翻訳されている。若いが実力のある書き手という印象で今後どのような作品を描くのか興味深い。

(2024年1月29日)


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