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ビンの中に地球をつくる。

毎年4月22日はEarth Dayであり、ニューヨークのローカルスクールでも子供達は地球環境にちなんだことを学びます。

ローカルスクールで英語で学んだことが、土曜日の日本語の学校でもでてくると、子供達の中での学びが深まりやすいということもあり、僕の教える中等部のクラスでは毎年この時期の3週間を「地球は誰のもの?」というテーマ(単元)に費やします。

これは、僕の好きな授業の一つでもあるんですが、今年は残念なことにニューヨーク中がリモート授業になってしまい、この中で行うはずだった「ボトルの中に地球をつくる」という体験型アクティビティができなくなってしまいました。

悔しいのでご紹介したいと思います。

「ボトルの中に地球をつくる」は名前の通り、ジャムなどをつくるための大きめの密封ボトルの中に、地球を模して植物が育ち続ける環境を作るという授業内のプロジェクトで、アイデアのもとにしたのはこちらの話。

50年以上植物が生き続けているという、このおじさんのボトル。

一度も開けたことがないにもかかわらず、ボトルの中ではバランスのとれた生態系が維持され続けているという驚きの話であり、クラスではこれをベースに、生態系における物質循環について学びます。

またその真逆の例として、人間を含めた生態系と物質循環をつくろうとして失敗した実験、Biosphere 2 についても学びます。

こちらは、その失敗の原因について考察していきながら、閉ざされた空間内での物質循環について理解を深めます。

そして、いよいよ子供達は自分のビンを持ち、校庭で自分の地球づくりに挑戦するわけですが、ビンの中の基本構造はこんな感じです。

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小石を探して敷き詰めた後は、あらかじめ用意した炭を各自砕いて浄化層をつくります。

その上に土の層を作ったら、地面を掘り起こして見つけたミミズ土の中に入れ、最後に校庭の端の方でみつけた雑草を植えてできあがりとなります。

もちろん、ニューヨークで育つ都会っ子の彼らは、土を掘り起こすだけでも大騒ぎです。笑

小石、墨、土、空気と、各レイヤーをどの程度の厚さにするか、また、植物の量やミミズの大きさなどは、全て子供達自身が決めます。

土の中にも空気が含まれているから空気の層は少なくても大丈夫とか、大きなミミズを入れることで土の栄養価をあげるとか、子供達はそれぞれが、自分の考えのもと、ビンの中の地球を作っていきます。

こうしてできあがった「ビンの中の地球」は、各自がうちに持ってかえって、年度が終わる6月末まで、毎週の授業で観察報告をすることになります。

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もちろん、中身の割合、植物の種類や量、ミミズの大きさやビンを置く場所の日当たりなど、様々な要素が絡み合うため「こうすれば成功する」というマジックレシピはありません。

結果として、毎週の観察報告では「ビンの中が水滴だらけになってきている」「植物が枯れてきた」「植物がすごい勢いで生長している」「ミミズが全然動かない」などなど、それぞれの子供達のビンでは、全く異なることが起こり、みな一喜一憂しながら観察報告を行い、なぜそうなったのかについてを、みんなで話し合います。

中には年度の最終日どころか、新年度が始まっても「ビンの中の地球は環境」を保てているという成功例もあり、子供達は、年度明けに嬉しそうに写真を見せてくれてたりしますが、もちろん完全に荒野と化した地球を悲しい顔で見せてくれる子もいます。

冒頭にも書きましたが、実際の授業は、全3週で行われます。

1週目には太陽系と地球の誕生や生命が生まれるまでについてを学び、「ビンの中の地球づくり」は、2週目に行う「地球に存在する生命と人間の影響」の中で行われるアクティビティです。

炭を砕いて、土を掘って、ミミズを捕まえて、という授業ではありますが、実は、最も時間を割くのはディスカッションで、とにかく3週間、子供達は授業内ででてくる色々な事柄について話し合いを行います。

生物圏(Biosphere)での物質循環やフードチェーンなどについては、既に現地校で英語で学んでいる子供が多く、かなり理論的な議論が(みな懸命に日本語を探しながら)行われます。

その反面、例えば生命や地球、宇宙の誕生などについては、それぞれの宗教観をベースとした意見や、ユニークな論点が次々とでてきて、ニューヨークらしさ満点です。

そんな話からディスカッションのテーマが脱線していくこともままありますが、脱線は大歓迎。子供達にはいつも徹底的に話をしてもらいます。

親の宗教の話や、自分と友達の違い、ローカルスクールであった出来事や、自分がいま感じている不安など・・・子供達はみな、心の中の様々な思いを懸命に言葉にのせながら、ニューヨークで暮らす日本人・日系人として、自分の等身大をぶつけ合います。

生命や宇宙のような話と、自分たちの日常や気持ちを、同じテーブルの上で、ダイレクトにつなげて話すことができるのは、子供達が持つ特権。

「ビンの中の地球」は、そんな彼らの思いや言葉を引き出しやすいアクティビティであり、僕の好きな授業の一つです。

ちなみに、その後に続く3週目の授業では、物語文である「海の命(立松和平)」を題材に、人と自然について子供達と一緒にあらためて考えます。




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