マッチングアプリ交遊録 Vol163
Vol 163 長い人生、短文でも良いじゃないっすか。
金曜日の夜に新宿には行きたくなかったが、前日マッチしたA子さんが希望するんだから仕方ない。
職場の渋谷からチャリを飛ばすこと30分、トーヨコに着いた。全人類がホストの取巻きなんじゃないかと思う程に、似通った雰囲気を帯びている。
辟易として、地下の駐輪場にチャリを止めた。
念の為24時間100円の駐輪場を日がなチェックすることは、こういうときに役立つ。
暇なサラリーマンってのも良いもんで、土曜日を前にした僕は余念がない。
そして、雑念もない。
混じり気のないピュアな心情は、チェリーボーイと称されても差し支えないだろう。
でもやっぱ新宿はやだな。こういう時、丁度良い店を見つけられない。
どうでも良いことに用意周到でもデート前の店選びは怠る。そんな信条は、チェリーボーイのそれと肩を並べることだろう。
いくつになっても、俺はそういう人間だ。
って、言い返せる大人でありたい。
なんて、頭の中で言い訳を連ねて、適当に西口で見つけた店に入る。
今日のマッチン女子は酒が強い。メガハイボールをグイグイ飲んだ。釣られて飲むが、この店酒が異様に濃い。おまけに料理が高くて全然出てこない。
結果、スマートじゃないところも、チェリ…
まあ、いいか。
気付けば彼女は酩酊していた。
カラオケに誘うが、落ち着きたいようで、なし崩し的についていくことに。
道中、彼女は言う。
「私まだ話してないことたくさんあるんだ」
はぁ。最近のマッチングは妙に重たいことに繫がるな。歳のせいか。
家に着き、いたたまれず尋ねる。
「で、話してないことって何?」
ここで詳細に書くことを控えたくなるほど、壮絶な過去があった。幼少期に受けた親からの虐待で、今精神の病に悩んでいるとのこと。同い年でこうも異なる環境で育ち、苦しみながらも生きる人がいるのか。
朝、帰りしなにアパートを振り返る。見送られることもなかった。駅まで一人、歩く。朝日は強い。土曜日なのに小学校に集まる親子達。運動会でもあるのだろうか。それにしても暑い。眩しい。彼らたちが30歳になった時、マッチングアプリで何を得て、感じ、語り合うのだろうか。
30回目の夏が来た。チャリ、安いとこ止めといて良かった。
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