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ぼくの人間失格

恥の多い生涯を送って来ました、という書き出しのパロディは星の数ほど見たことがあるけれど、人間失格を全編通しで読んだことはなかった。仮にも国文科に在籍するものがこれではいけないと思って、ブックオフで110円の文庫本を買って読んだ。

ぼくなんかの分際で偉そうな文学評などできるわけもなく、ただ鈍い感受性なりに感じたことを書くしかないのだが、そんなものを書く気になるくらいには、この小説には心に残るところがあったようだ。

主人公は基本的に人間を信用しない。それは単なる人間不信ではない。かれにとって「普通の人間」というものが、わからない。得体のしれないものだから、信用できないのだ。「普通の人間」の感覚がわからないから、自分が異常だと見透かされないように、ビクビクしながら道化を演じる。

この主人公ほど極端じゃあないし、女にもモテないけれど、ぼくも似たようなことを日々の生活で感じる。暗澹たる義務教育期間を経たなかで、どうやらぼくも「普通」から少しずれてしまったようである。

普通の人はどうやって知らない人に話しかけるんだろう、普通の人はどうやって異性と話しているんだろう、普通の人は忙しそうにしているラーメン屋の店員に、どうやって両替を頼むんだろう、普通の人はどうやってトレーに雑に置かれたお釣りを気まずくならないように高速で回収しているんだろう……毎日をそんな引っ掛かりの中で過ごしている。

一挙手一投足が「ズレているんじゃないか」という不安。それをからかわれた日には、その場ではヘラヘラしているけれども、結構真剣に傷ついたりもする。かといって集団に埋没するのも良しとせず、変に個性派を気取っている(そのくせミスIDをバカにしている)。厄介なものである。

以上のように、ぼくにだってリトル太宰治の素質はあるはずなんだが、こうもモテないと嫌になる。田中みな実に飼われたい。





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