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心の亡い時間は死んでいる

忙しい、時間がないと思っていた私たちに
今、「時間」が予告なく贈られた。

そう思ったのは、「モモ」という本を読んだからだ。ミヒャエル・エンデというドイツの児童文学作家の作品。
「時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語」のお話である。

子供向けに作られた作品だが、これこそ大人が読むべき作品だと思った。

この本の中では、灰色の男という登場人物によって、人間は時間を盗まれる。時間を節約して、貯蓄すれば、未来にはたくさんの時間が貯まる、と騙されて。
騙された人間は、自分にとって大切な時間は何かを考える余地もなく、全てを効率化していくのです。

もちろん節約した時間が返ってくることはありません。灰色の男たちは、人間の死んだ時間で命を繋いでいるのです。
灰色の男たちが増えることは、人間の死んだ時間が増えているとも言えるでしょう。

そんな灰色の男たちに時間を盗まれた人はというと、

なにかにとりつかれて盲目になってしまったようなものです。そして、毎日毎日がますますはやくすぎてゆくのに気がついて愕然とすることがあっても、そうするとますます死にものぐるいで時間を倹約するようになるだけでした。(P.102)

あぁ騙されているよ。
って他人事に思うかもしれませんが、
心にチクッとくるのは、心当たりがあるから。

忙しい忙しいと実際時間に追われていた人もいれば、「外に出なきゃ、だれかと会って繋がっていなきゃ、何かで時間を埋めなきゃ」と自ら忙しくしている人もいたのではないでしょうか。
”本当の大切”に向き合わなくていいように。

忙しいとは、心を亡くすこと。
同じ時間でも、心ではなく、頭に時間を使っていたのかもしれません。だから時間そのものは減っていないのに、”心のある時間“はどんどんと減っていく。

本の中でもこんなふうに言っている。

光を見るためには目があり、音を聞くために耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある。そして、その心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないもおなじだ。(P.236)

ないとも同然かもしれない時間。
立ち止まることのない日々。
そんな日々を過ごす中で、私たちにふと時間が贈られました。緊急事態宣言による自粛です。自粛生活がはじまり、全ての人とは言えないが、時間ができた人が多いのではないだろうか。

そんな最中にこの本を読んだから、
「あれっ、もしかしたら、ぬすまれた時間をモモが、今、人間にかえしてくれたのではないか」
と思ったのだ。

自粛になってできないことは増えました。
でも同時に、やるべきだと思い込んで支配されていた時間は減りました。

その中で、”みんなにとって”ではなく、
私にとって"必要なこと、必要ではないことに、ハッと気づかされた瞬間はなかったでしょうか?

私はありました。不要不急なことと言われても、私にとってこれは必要でしかないと思えることだったり、人にとってはどうでもいいことでも、私にとっては生きる上でこれは「心のある時間」だと思えることだったり。
生きることができる時間は、限られているのかもしれません。

考えることが増え、無駄な時間、大切な時間が必然的に浮き彫りになったはず。
自粛解除になりましたが、生きた時間を取り戻すタイミングは今がチャンスなのかもしれません。

ちなみに余談ですが、「忘れる」も心を亡くすって書くんですね。「忙」は外的要因というような意味に比べて、「忘」は自分で自分の心をなくすような意味らしく、より厄介な気がします。

本当は分かっているのに、忘れたふりをしていることって、ありますよね。

モモの作品には、他にも心に残った部分があるので、また続きを次に書こうと思います。

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