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ブックレビュー:THE MODEL

セールスの時代は終わった。
市場にはモノが溢れ、仕事も人も溢れ、生きるために必要な労働は縮小。
必要ないものを必要そうに見せながら、何とか食いつないでいる。
本当に必要な心みたいなものはどこかに置いてきた。
その方が都合がいい。

だから少なくともモノやサービスの売り方は変えなくてはならない。
悪いものよりは良いものが売れるのは当然だが、良いものともっと良いものの比較は困難だ。ちょっと良いくらいでは万人が選ばれる理由にならない。
2割を3割に上げることはできるかもしれないが、6割や7割に引き上げるためには現状の延長線上ではない。

毎日来るメール、SNSやWebサイト上の広告、通知、番組の間に流れるCM、看板に挟まれて立つ男、延べ一日5000件。
わたしたちはもうそれに対抗するすべを知っている。流すことだ。
流れてくる広告を読み飛ばし、耳に入ってくる不要な音声を聞き流し、必要な情報だけを検索し、その中でも特に都合の良さそうなものだけをクリックする。
高度な情報社会に呑み込まれないように高度な情報リテラシー教育を施されたわたしたちは、自分にとって有益で適切な情報を選び取ることでなんとか自我の境界線を保つことができる。できているつもりで今日も生きている。

目の前の5000件の中の光を放つ数件、
それこそがエンゲージメント(愛着)だ。

無意味な4990件をかき分けて10件を見つけ出す。
それは自分にとって有意義だから愛着を持つ。自分の必要としているものをくれるから信頼して開く。自分を愉しませてくれるから読む。自分にメリットがあるから触れる。
それこそがこれからの時代のセールスのあり方である。
そしてそれは一部の限られた「優秀」なビジネスパーソンによって生み出されるものではない。エンゲージメントを創り出し、継続的に関係を構築するためのMODELがそれを可能にする。

戦場の英雄が現代の大量殺人鬼であるのと同じで、熱意と勇気あるセールスマンは今や迷惑だ。企業は受付を設けるだけでは飽き足らず、ビル前にセキュリティゲートを設け、さらにガードマンなんかを置くくらいには迷惑だ。
電話も勝手につながらないように自動音声が流れてスクリーニングされる。

もはや誰も受動的に何かを欲しいと思わない。もはや誰も売り込んで話を進めてほしいと思わない。
ではどうするか?欲しいと思ったタイミングに「偶然」居合わせることだ。
それは今も昔も変わらない。

本質は変わらないが時代は変わった。モノは潤沢な代わりに労働力が潤沢でないのだ。わたしの会社にセールスが1億1千万人いたら、日本中の人たちにぴったり張り付かせて朝晩監視して何か欲しいと思った瞬間を見逃さずに売り込む機会をうかがわせるだろう。でもそれは無理だ。
だからテクノロジーとそれを運用するMODELを使う。張り付かせることはできなくても、買い手の側から張り付いてきてもらえばいい。


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