詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好…

詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好きばかりで毎日を過ごせたらいいなと思っています。

最近の記事

初恋 第26話

 最後に言っておくと、——これは僕が大学生になってから知ったのだが——というのも僕が政府のある研究機関に数学の専門家として招かれた折に偶然知り得た——、ラストは国の極秘プロジェクトのメンバーだった。それは次のようなものだった。  この国と同盟関係にある某国では異常な勢いで高齢化が進んでいた。若い人たちは子供を産まなくなった。それは、経済的理由あるいは個人の自己実現のためだろうと言われた。逆に、医学の進歩で病気は駆逐され、ねずみ算式に老人が増え続けた。 これでは、あと数十

    • 初恋 第25話

       時間は待つと長いのに、楽しむとすぐ経つのは何故だろう。ルイスもそうだろうか? マークも? ラストは? 猫のようで猫でない彼もそう感じるのだろうか? いや、やっぱり猫だろう。人間でないことは外見から確かだけど、中身は人間?  まあいいや。ルイスとマークは結婚式の会場をどこにするか、招待状を誰に出すか何やかやの準備に忙しかった。 (ようやくラストの失踪宣告が認められて、二人は晴れて結婚できるようになった。普通なら七年かかるところを、五年で認められた。) 僕も喜んで手伝った。

      • 初恋 第24話

         一つだけ気になることがあった。それは、父のラストがいなくなってから入れ替わりのように彼が現れたことだった。 彼はとても親切だし、とても頼もしい。僕は彼が大好きだ。僕はできれば父として彼を迎えたい。(マークは別として。) でも彼にはどこか秘密めいたところがある。仕草が父に似ていて、父のように頭が良い。これが単なる共通点だと言えるだろうか?  ラストは一体何者なのか? 父の生前の異常な用心深さ、誘拐事件、添乗員の失踪——そういったことが何か一つの糸で繋がっているような気がする

        • 初恋 第23話

           翌日、ルイスは僕を連れてラメラの家に謝罪に行った。ラメラの母親がすぐに帰宅しなかったら、僕は危ないところだったらしい。僕はお小遣いを召し上げられて花瓶と額縁の代金を半額弁償させられた。ラメラの家に訪問禁止のおまけ付きで。(なぜかピーターは許された。)それから不本意だけど、ピーターと仲直りの握手をさせられた。 夜、僕はラストに愚痴を言った。 「君の言うとおり、彼女と付き合おうとしたらこのざまさ。どうしてこんな目に?」  ラストは前足を頭の後ろで組んだまま僕を見ていた。笑って

        初恋 第26話

          初恋 第22話

           自転車で十五分走るとクリーム色の家が見えた。僕は頭の中で百通りくらい「君が綺麗だ」というセリフの言い換えをリハーサルしていた。ドキドキしながら呼び鈴を鳴らす。女の子の家に初めて行くのだ。ラメラが現れる。黄色いブラウスのフリルが風で揺れた。途中で買ってきた彼女の好物のドーナツを渡す。ラメラは嬉しそうな顔をする。 「上がって」  彼女の後に続いて階段を登る。彼女の長い足が僕の前を歩く。白い靴下にもフリル。部屋にはレースのカーテン。ピンク色のシーツのベッド。机の上にはたくさんの

          初恋 第22話

          初恋 第21話

           ラメラに、明日の放課後、家に来てと言われた僕は、彼女に負けた悔しさも有ったけれど、自分の意思を遥かに超えて身体が動いたのにびっくりしていた。あんなにジャンプできるなんて。バスケットの勝負をきっかけに彼女にもっと気に入られることを願ったが、負けた僕はそんな立場ではないような気がした。 結局、僕はカッコよく終われなかった。それからあの、僕を呼ぶ声が問題だった。長い間忘れ去っていた嫌な記憶を再び甦らせるそれは、僕に言いようのない不安を与えた。 家に戻った時、ラストがいつもの姿

          初恋 第21話

          【詩】大金持ちの詩人になる夢

          大金持ちの詩人になると決めたら 君はもう大金持ちだ Why because 時間をお金よりたくさん持っているから 見えないくせに 意識あるかぎり 使える財産だから 無意識でも 使える時間を使えるから だ・か・ら・ 君はお金持ちの大詩人になった

          【詩】大金持ちの詩人になる夢

          初恋 第20話

           勝負は一方的だと思われた。体育館のコートは日曜日で、がらんとしていた。学校のバスケットクラブのメンバーは試合に行って留守だった。一年上のケリーが審判をした。と言ってもそんな大袈裟なものじゃない。立会人みたいなもので、ラメラがドーナツ一個を餌に頼んだから来たのだ。彼女は上級生とも付き合いがあった。二十一ポイントをどちらが先に取るか。ゴールは一つで、ポイントごとに攻守が入れ替わる。 ラメラは余裕だった。僕が持っている動きの全てを最初の数ポイントで把握した彼女は、自由自在に動き

          初恋 第20話

          初恋 第19話

          「いい? 同じタイミングで飛ぶの。スリーツーワーン!」  ラメラが縄を高速で回し始めると、僕は縄の回転のリズムに集中した。彼女が跳ねるタイミングで飛んだ。しかし、縄が引っかからないためには、できるだけ彼女に身体を近づけなければならない。いきおい、二人は向かい合ったまま密着するような形になる。 ラメラの赤い唇や燃えるピンクの頬がすぐ目の前で上下した。僕の顔は、のぼせたように真っ赤になっていた。それが、縄飛びのせいか、心の動揺のせいかは不明だ。彼女の息や視線が僕の顔にかかると僕

          初恋 第19話

          初恋 第18話

           ここで僕は再び、「恋」に巡り会った。誘拐事件と父の失踪で記憶のボードから消し去られたあの言葉——「恋」——が再び僕の前に姿を現した。徐々に蘇るアフリカの記憶。クレジオとアメリのバスの中でのじゃれ合い。僕は夢の中でラメラに理科の補習をしていた。そうだ、旅行の前にはよく、ラメラが僕のところへ算数の問題を聞きに来ていた。あれはひょっとすると、彼女が僕に関心があったから? 算数は単なる口実?  今、僕の目の前に多くの恋の物語が広がっていた。それはかつてのように単なる言葉と想像だけ

          初恋 第18話

          初恋 第17話

           墓碑ができてから、僕は墓地公園へよく遊びに行った。公園は、東西に伸びる広い砂利道の両側に芝生が敷き詰められていて、離れ小島のように墓碑が配置されていた。東の端の南側の隅が父の場所だった。ピアノも椅子も大理石でできていた。僕は椅子に座り、父の好きだった『ケ・セラ・セラ』を弾いている振りをする。すると緑の芝生はアフリカの草原に早変わりした。 空はあのアフリカの空。日差しを遮る桜の木の影が伸びて、その縁からこぼれるピンクの花びらが、風で舞い上がると視界が過去を呼び戻す。湖面から

          初恋 第17話

          初恋 第16話

           一つだけ、変な出来事が有った。飛行機墜落事故の二日後、白い乗用車が家の前に泊まった。灰色のスーツを着た三人の男が、玄関のベルを押した。母が出ると、彼らは父の友人だと名乗った。 「大学の方?」 「ええ、実はちょっとお話ししたいことが……」  彼らは応接間に入ると、ルイスが進めるソファーには一人だけ座り、残りの二人は別々の椅子に分かれて座った。変だなと僕は思った。 「ラスト氏はあなたと空港で別れる前に、あなたに何か預けませんでしたか?」 「いいえ」 「重要なことをあなたに何か

          初恋 第16話

          初恋 第15話

           帰りの飛行機はルイスと二人だった。ラストは僕達と別れてスイスに向かった。旅行で全エネルギーを使い果たした僕はすぐに眠ってしまった。  夏休みが終わる前にラストは戻るはずだった。しかし、夏休みが終わってもラストは戻らなかった。彼の乗った飛行機が途中で墜落したのだ。 学会が終わって、これから帰るという連絡が入ったその日、彼がジュネーブからロンドンまで飛んだところまでは僕も母も知っていた。その後、乗り継いだ飛行機が何らかのトラブルに巻き込まれ、大西洋に沈んだというニュース

          初恋 第15話

          初恋 第14話

           ホテルの警備員がやって来てから、父は彼とずっと話をしていた。少し経ってお医者さんもやってきた。僕はお腹を押さえながら母のそばにいた。母はまだ眠っていた。父は手にかすり傷を負っただけで、どこも怪我をしていなかった。 ドクターは僕と母を診察した。母に向かって言った。 「睡眠薬を飲まされましたな」 お医者さんと警備員は同時に言った。三時間ほど経って母が目覚めた。それから父と母はずっと相談していた。僕はまだ、体の震えが止まらなかった。  次の日、僕達の旅程は変更になった。父は

          初恋 第14話

          初恋 第13話

           その夜、甘美な夢を見た。僕はラメラに理科の問題を教えていた。僕が化学反応式をすらすら書いたら、彼女は僕を尊敬の眼差しで見た。そうか! 尊敬や憧れから一緒にいたい気持ちが生まれるのかもしれない。 運動神経が優れていたり、物腰や仕草がカッコ良かったり、いつも明るい雰囲気でみんなを楽しませるといった、穏やかな継続的な関係こそ人を結びつける重要な要素だと思った。 僕は、恋という言葉は知っていたが、まだ実物に触れていなかった。気の合う奴が友達という観点からしか人間を見ていなかった。

          初恋 第13話

          初恋 第12話

           順風満帆だった旅行に暗雲が俄かに差し始めたのは、終盤に入ってからだった。フラミンゴのツアーは僕の暗い気持ちを一気に吹き飛ばしてくれた。生命の讃歌を堪能した僕は、物語のハッピーエンドよろしくウキウキしていた。感動が何度も僕の目の前で映し出された。あの何百万色もあるピンクが、グラデーションをなして無限の自由さで舞い上がる様子は、天国に一番近い飛翔だと僕には思えた。 夕食には、いつものバーベキューに、ウガリと言ってアフリカ東部の主食の、とうもろこしのお粥みたいなものが出された。

          初恋 第12話