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蝉の断章の記憶 第7話
全集を読み終えると季節は夏だった。強い陽射しが朝の窓から入り込む。蝉の合唱が始まって蒸し暑くなった。あれから自分の作品のことはすっかり忘れて、読者として人生を満喫した。
しかし、ただ漫然と日々を過ごしていたのではなかった。読んだ本には文字の形をした原石が埋もれていた。それを採集し、記憶の標本箱に陳列し、時々、出しては眺めた。飽きると、公園のベンチで太陽の光を浴び、好奇心で近づいてくる小鳥に微笑
蝉の断章の記憶 第2話
(* 過激な表現が有ります。)
中学校では、部活動をきっかけに何人かの男子や女子のグループに分かれた。あるいは、隣同士で友達に。だが、わたしはクラブに入らず、誰とも話が合わず、相変わらず一人だった。休み時間に一人で本を読んでいた。縮れ毛のリョウは空手が得意でいつもそれを見せびらかしていた。いきなり、わたしの机に片手を撃ち下ろすと小さなヒビが入った。彼は唇を歪めながら、
「なあ、金貸してくれない
初恋 第28(最終)話
父の専門は遺伝子工学だったが、僕も同じ分野で活動している。そんな僕が、時々体育館に行くのは、お目当ての子がいるから。彼女はバスケットが堪能で、プロのチームから声がかかっている。何しろジャンプが人間離れしているのだ。体の柔軟性も俊敏さもずば抜けている。僕はいつもその子を一番上の席から観察している。赤い髪でそばかす。もう、お分かりだろうか。
彼女の名はラメラ——じゃない。高校生活での多くの人との出