詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好…

詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好きばかりで毎日を過ごせたらいいなと思っています。

記事一覧

蝉の断章の記憶 第7話

 全集を読み終えると季節は夏だった。強い陽射しが朝の窓から入り込む。蝉の合唱が始まって蒸し暑くなった。あれから自分の作品のことはすっかり忘れて、読者として人生を…

詩と少年
22時間前
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【詩】時・か・ん・

時・か・ん・ 都会から田舎へゆくと 感じられるもの 時・か・ん・ 悲しくなると 考えたくなくなるもの 時・か・ん・ 嬉しくなると 抱きしめたくなるもの 時・か・ん…

詩と少年
1日前
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蝉の断章の記憶 第6話

 明け方の弱い光が樹葉の隙間から漏れ。それは幹に張り付く蝉の幼虫の背中を立体的に見せた。父とわたしは息を潜めてじっと見ていた。幼虫の背中が音もなく割れた。時間が…

詩と少年
3日前
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蝉の断章の記憶 第5話

 本は部屋に並べると宝物みたいにキラキラと輝いた。ウッドの香りがほんのりと漂う。部屋の明かりを暗くすると、林の中にいる気分になった。わたしはリラックスして椅子に…

詩と少年
3日前
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蝉の断章の記憶 第4話

 そこは古書を扱っている店だった。外から見るよりずっと広かった。店内は外の明るさとは対照的に、暗くひんやりしていた。それに何十年も前から有るようにカビ臭い匂いが…

詩と少年
4日前
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【詩】危ない

あの目は危ない 開いているが何も見ていない あの耳は危ない すましているが何も聞こえない あの鼻は危ない 嗅いでいるが何も匂わない あの口は危ない 開いているが何も…

詩と少年
5日前
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蝉の断章の記憶 第3話

 わたしの孤独な性格は、大人になるまで変わらなかった。孵化してから成虫になるまで無変態の生き物みたいだった。 どんな人間にも出会いはある。わたしも例外ではなく、…

詩と少年
7日前
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【詩】カオス

カオスな顔 カオスな夢 カオスな人生 カオスな通りで 地番のない歩道が工事中 踏むと沈む 商店街に立つ灯籠が 夜に笑う Y字路は毎夜赤く点滅 歩くとできる道  足跡は…

詩と少年
7日前
4

蝉の断章の記憶 第2話

(* 過激な表現が有ります。)  中学校では、部活動をきっかけに何人かの男子や女子のグループに分かれた。あるいは、隣同士で友達に。だが、わたしはクラブに入らず、…

詩と少年
8日前
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【詩】三種の神器

面接の最後に採用担当者は尋ねた 君の三種の神器は何ですか 九回裏ツーアウト満塁のこの場面で 一打一発逆転を狙う僕は 投手の決め球がストレートで ここでそれを…

詩と少年
9日前
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蝉の断章の記憶 第1話

 (あらすじ建設中)人付き合いが苦手で大人しいわたしは・・・                              蝉の断章の記憶    わたしは自分を蝉だと…

詩と少年
10日前
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【詩】システム梗概

これはシステムという物語のあらすじです。 これは物語ですが、本当にあったお話です。 本文は至る場所に在り、万物の中に格納されているので、読むのに何億光年もかかる出…

詩と少年
12日前
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初恋 第28(最終)話

 父の専門は遺伝子工学だったが、僕も同じ分野で活動している。そんな僕が、時々体育館に行くのは、お目当ての子がいるから。彼女はバスケットが堪能で、プロのチームから…

詩と少年
13日前
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初恋 第27話

 さて、新型ペストは世界中でワクチンの反撃を受け、三年で普通のインフルエンザ並みの威力に格下げされた。もう、今では誰もそれに目鯨を立てるものはいなくなった。そし…

詩と少年
2週間前
2

初恋 第26話

 最後に言っておくと、——これは僕が大学生になってから知ったのだが——というのも僕が政府のある研究機関に数学の専門家として招かれた折に偶然知り得た——、ラストは…

詩と少年
2週間前
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初恋 第25話

 時間は待つと長いのに、楽しむとすぐ経つのは何故だろう。ルイスもそうだろうか? マークも? ラストは? 猫のようで猫でない彼もそう感じるのだろうか? いや、やっ…

詩と少年
2週間前
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蝉の断章の記憶 第7話

蝉の断章の記憶 第7話

 全集を読み終えると季節は夏だった。強い陽射しが朝の窓から入り込む。蝉の合唱が始まって蒸し暑くなった。あれから自分の作品のことはすっかり忘れて、読者として人生を満喫した。

しかし、ただ漫然と日々を過ごしていたのではなかった。読んだ本には文字の形をした原石が埋もれていた。それを採集し、記憶の標本箱に陳列し、時々、出しては眺めた。飽きると、公園のベンチで太陽の光を浴び、好奇心で近づいてくる小鳥に微笑

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【詩】時・か・ん・

【詩】時・か・ん・

時・か・ん・
都会から田舎へゆくと 感じられるもの

時・か・ん・
悲しくなると 考えたくなくなるもの

時・か・ん・
嬉しくなると 抱きしめたくなるもの

時・か・ん・
寂しくなると 忘れたいもの

時・か・ん・
旅行していると キラキラと輝いているもの 

時・か・ん・
会いたい人を待つと 鼓動を激しくさせるもの
 
時・か・ん・
芝生に寝転んで空を見ていると 掴める気がするもの

時・か・ん

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蝉の断章の記憶 第6話

蝉の断章の記憶 第6話

 明け方の弱い光が樹葉の隙間から漏れ。それは幹に張り付く蝉の幼虫の背中を立体的に見せた。父とわたしは息を潜めてじっと見ていた。幼虫の背中が音もなく割れた。時間が静止する。驚きがわたしの内部一杯に満ちた。

裂け目が縦に広がって、少し揺れてから、それは見えない扉を開けるように頭を出した。世界を伺うように。初めて試す呼吸。純白な二つの目。汚れていない神秘が初めて触れる世界。その目はまだぼやけていて何も

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蝉の断章の記憶 第5話

蝉の断章の記憶 第5話

 本は部屋に並べると宝物みたいにキラキラと輝いた。ウッドの香りがほんのりと漂う。部屋の明かりを暗くすると、林の中にいる気分になった。わたしはリラックスして椅子にもたれた。読破するのにどの位かかるだろうか。二ヶ月? いや、三ヶ月? あるいは半年?  まあ、どうだって良いじゃないか。もう時間に追われることはないのだ。そのために今まで我慢して働いて来たのだから。そして今、ここに自由がある。

「ど・れ・

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蝉の断章の記憶 第4話

蝉の断章の記憶 第4話

 そこは古書を扱っている店だった。外から見るよりずっと広かった。店内は外の明るさとは対照的に、暗くひんやりしていた。それに何十年も前から有るようにカビ臭い匂いがした。入れ替わりに客が出ていったので、店には、奥で背中を丸めて座っている店主以外誰もいなかった。

コの字型に配置された本の壁の中を、わたしはゆっくりと見て回った。文庫本や新書が綺麗に並べられていた。美術書や学術書、絵本、画集、漫画、雑誌、

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【詩】危ない

【詩】危ない

あの目は危ない
開いているが何も見ていない

あの耳は危ない
すましているが何も聞こえない

あの鼻は危ない
嗅いでいるが何も匂わない

あの口は危ない
開いているが何も語らない

あの手は危ない
握っているが何も掴まない

あの足は危ない
歩いているがどこへも行かない

あの神経は危ない
感じているが反応しない

あの脳は危ない
記憶しているが何も考えない

あの心は危ない
暖かいが何も感情がな

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蝉の断章の記憶 第3話

蝉の断章の記憶 第3話

 わたしの孤独な性格は、大人になるまで変わらなかった。孵化してから成虫になるまで無変態の生き物みたいだった。

どんな人間にも出会いはある。わたしも例外ではなく、高校時代に、女の子に声をかけられ、デート(?)に誘われた。気難しい本好きの、殆ど笑わない人間も、好奇心の対象としては価値があったのかも知れない。わたしの初めてのデートは、百貨店を一周しただけで終わった。二回目、別の女の子とのデートは映画館

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【詩】カオス

【詩】カオス

カオスな顔
カオスな夢
カオスな人生

カオスな通りで
地番のない歩道が工事中
踏むと沈む

商店街に立つ灯籠が
夜に笑う

Y字路は毎夜赤く点滅
歩くとできる道 
足跡は消える

見ないと聞こえる
描かないと動く

カオスな風の 議論
雨の模索

答えのない笑い
聞こえないリズム

時間を食べる猫が
小さく笑うと泣く子犬

青い雪 黒い雲の願望
命が掛かる老いから逃走する時間を追いかける記憶が死

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蝉の断章の記憶 第2話

蝉の断章の記憶 第2話

(* 過激な表現が有ります。)

 中学校では、部活動をきっかけに何人かの男子や女子のグループに分かれた。あるいは、隣同士で友達に。だが、わたしはクラブに入らず、誰とも話が合わず、相変わらず一人だった。休み時間に一人で本を読んでいた。縮れ毛のリョウは空手が得意でいつもそれを見せびらかしていた。いきなり、わたしの机に片手を撃ち下ろすと小さなヒビが入った。彼は唇を歪めながら、
「なあ、金貸してくれない

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【詩】三種の神器

【詩】三種の神器

面接の最後に採用担当者は尋ねた

君の三種の神器は何ですか



九回裏ツーアウト満塁のこの場面で 一打一発逆転を狙う僕は

投手の決め球がストレートで ここでそれを投げてくると

百パーセント確信していた

予想通り百五十キロの球がど真ん中に 迷わずバットを振り抜く



僕は即答した

それは赤青黄の三原色の信号でも

見ざる聞かざる言わざるの事勿れ主義でも

天地人を愛する詩人でも

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蝉の断章の記憶 第1話

蝉の断章の記憶 第1話

 (あらすじ建設中)人付き合いが苦手で大人しいわたしは・・・

           
 
               蝉の断章の記憶

   わたしは自分を蝉だと思った。
   自分の人生を蝉の一生に重ね合わせたのだ——。

 あの頃、朝、目を開けると闇が広がっていた。世界はいつも闇から始まる。わたしは、いつも目が開かないことを願った。しかし、朝、目が開くとわたしの始めたくない時間が動き出すの

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【詩】システム梗概

【詩】システム梗概

これはシステムという物語のあらすじです。
これは物語ですが、本当にあったお話です。
本文は至る場所に在り、万物の中に格納されているので、読むのに何億光年もかかる出来事です。
ですが、これはあらすじなのでこの原稿用紙数枚です。
正確には、主人公=僕が生まれてから死ぬまで耳に目にした四半世紀の一部を十枚に圧縮します。
こんなことを書いていても仕方がないので早速始めます。

目覚める
スマートフォンを布

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初恋 第28(最終)話

初恋 第28(最終)話

 父の専門は遺伝子工学だったが、僕も同じ分野で活動している。そんな僕が、時々体育館に行くのは、お目当ての子がいるから。彼女はバスケットが堪能で、プロのチームから声がかかっている。何しろジャンプが人間離れしているのだ。体の柔軟性も俊敏さもずば抜けている。僕はいつもその子を一番上の席から観察している。赤い髪でそばかす。もう、お分かりだろうか。

彼女の名はラメラ——じゃない。高校生活での多くの人との出

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初恋 第27話

初恋 第27話

 さて、新型ペストは世界中でワクチンの反撃を受け、三年で普通のインフルエンザ並みの威力に格下げされた。もう、今では誰もそれに目鯨を立てるものはいなくなった。そしてあの新薬は使われなくなり、その後どこかへ消えていった。

新型ペストで減少したのは、六十歳以上の人間が殆どで、その結果某国は若返ったし、人口も半減した。そして、僕らのようなこれから社会を担う若者達がその国の舵をとるのは明白の理だった。

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初恋 第26話

初恋 第26話

 最後に言っておくと、——これは僕が大学生になってから知ったのだが——というのも僕が政府のある研究機関に数学の専門家として招かれた折に偶然知り得た——、ラストは国の極秘プロジェクトのメンバーだった。それは次のようなものだった。

 この国と同盟関係にある某国では異常な勢いで高齢化が進んでいた。若い人たちは子供を産まなくなった。それは、経済的理由あるいは個人の自己実現のためだろうと言われた。逆に、

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初恋 第25話

初恋 第25話

 時間は待つと長いのに、楽しむとすぐ経つのは何故だろう。ルイスもそうだろうか? マークも? ラストは? 猫のようで猫でない彼もそう感じるのだろうか? いや、やっぱり猫だろう。人間でないことは外見から確かだけど、中身は人間? 

まあいいや。ルイスとマークは結婚式の会場をどこにするか、招待状を誰に出すか何やかやの準備に忙しかった。
(ようやくラストの失踪宣告が認められて、二人は晴れて結婚できるように

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