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創作まとめ

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ストーリー性のある詩や童話のまとめです。
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【創作童話】ネモフィラの花言葉③

【創作童話】ネモフィラの花言葉③

(前回の続きです)

しかし人にしろ花にしろ、この世に生きとし生けるものは、必ず行いに対する報いを受けます。

青年が過去にネモフィラに与えた救いが、救いとなってネモフィラから返されたように。

花たちに背を向けた時は、花たちに背を向け返されたように。

一心にネモフィラを想い続けた青年のもとには、想像もしない報いが訪れました。それは、なんと王家からの使者でした。

どうして王都に行ったこともない

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【創作童話】ネモフィラの花言葉②

【創作童話】ネモフィラの花言葉②

(前回の続きです)

他の全ての花に見捨てられた青年に、ネモフィラだけが「良かったら私を植えて」と協力してくれました。

可憐な姿に反して『どこでも成功』という花言葉を持つほど丈夫で繁殖力の高いネモフィラは、剥き出しだった大地をたちまち青く染め上げました。

以前の華やかで賑やかな景色とは違い、一面にネモフィラが咲く様子は、気持ちを高揚させるのではなく、心を洗うような美しさがありました。

咲く花

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【創作童話】ネモフィラの花言葉①

【創作童話】ネモフィラの花言葉①

昔々、王都から遠く離れた村に、不思議な力を持った青年が居ました。青年は花に触れることで、花の心を知ることができました。しかしそんな力を持つ人は、少なくとも青年の知る限り自分だけ。

自分の能力が特別だと知らなかった頃。
まだ子どもだった青年は無防備に

「花が水を飲ませて欲しいって」
「ちゃんと外に出して日に当ててと言っているよ」

と花たちの要望を周囲の人に伝えていました。

すると大人には

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【創作童話】鏡のとりこの物語:後編

【創作童話】鏡のとりこの物語:後編

(前回の続きです)

しかし自分を愛していないことが
分かり切っている相手に
こちらだけが愛しているとは言えず
ただ真夜中に会いに行くだけの
関係が数年続きました。

その間に少女は成長し
まるで満月の化身のように
いっそう美しい女性になりました。

年頃になった彼女のもとには
たくさんの男性が求婚しに来ました。

怪物は彼女が他の誰かのものに
なってしまうことを恐れて

「お前は人間の男と結婚す

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【創作童話】鏡のとりこの物語・前編

【創作童話】鏡のとりこの物語・前編

昔々あるところに怪物がいました。

普段は化け物らしく人目を避けて
深い森の奥にある
真っ暗な洞窟に住んでいますが
人が三度は生まれ変わるほどの時間を
ずっと一人で過ごすのは退屈です。

なので暇を持て余した怪物は
世にも恐ろしい姿に化けて
人から食料や金品を脅し取る以外にも

美男美女に化けては
恋人たちや聖職者をたぶらかして
嘲弄する遊びをしに
よく人里に出かけていました。

常に暇つぶしの種

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【創作童話】国でいちばん高くて低い③

【創作童話】国でいちばん高くて低い③

(最後です。前回)

再び部屋に閉じ込められた娘は

「ちょうだいちょうだい出してちょうだい」

と、しばらく訴えていましたが
そのうち何も言わなくなりました。

今度こそ娘のためにだけ用意された
食べ物にも贈り物にも手を付けないまま。

施し先を封じれば
自分で消費するだろうという
王様と家臣の見立ては大間違いで

もともと痩せてみすぼらしかった娘は
見ているこちらが怖くなるほど
いっそう衰えて

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【創作童話】国でいちばん高くて低い②

【創作童話】国でいちばん高くて低い②

(前回の続きです)

ところが王様の期待を裏切るように
城に来てからしばらくは

「要らない要らない何も要らない」

と言っていた娘は、ある時から急に

「ちょうだいちょうだい。
新しい靴下をちょうだい」

「ちょうだいちょうだい。
手荒れを治す薬をちょうだい」

「ちょうだいちょうだい。
美しい髪留めをちょうだい」

部屋に閉じこもって何も要らないと
言い続ける日々から一転

部屋を飛び出して

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【創作童話】国でいちばん高くて低い①

【創作童話】国でいちばん高くて低い①

昔々あるところに若い王様が居ました。

この王様は年齢こそ若いものの
生まれつき優秀でした。

ですので
病によって早くに亡くなった
先王と変わりなく国を統治し
裕福に暮らしていました。

しかし王様には一つだけ
困った点がありました。
それはなかなか王妃をもらわないことです。

女性嫌いというわけではないのです。

むしろ美しいものや
価値あるものは好きですから
金銀財宝や芸術品を集めるように

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【創作童話】金の冠と二人の男

【創作童話】金の冠と二人の男

昔々あるところに
二人の男が居ました。

外見も性格もそっくりな二人は
弱者にはいばり
強者には媚びる
勉強嫌いの怠け者で

約束もほとんど守らず
平気で人に迷惑をかける
とても困った男たちだと
町の人たちから嫌われていました。

それでも誰にも
尊敬されない代わりに
誰にも気兼ねすることなく

好きな時に起きて
たまに働き
遊んでは寝るだけの
気ままな生活を
本人たちは楽しんでいました。

そん

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【創作詩】桜の下に埋めたのに

【創作詩】桜の下に埋めたのに

地面を覆う花弁を集め
小山のように高く盛った。

あの子からもらった
いくつかの思い出を
葬るためのお墓のように。

あの子から
もらったいくつかの宝物。

一言二言書かれただけの
メモのような短い手紙。

いいなと言ったらあげるとくれた
ツルツルのおはじきと
お菓子の消しゴム。

僕をかたどったという
紙粘土で作った小さな人形。

全部全部、今日捨てる。

あの子と一緒だった時は
とても嬉しかっ

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【創作詩】アイツが先にやったのさ!

【創作詩】アイツが先にやったのさ!

俺は何も悪くない!
アイツが先にやったのさ!

アイツが足を踏んだから
俺は背中を押したのさ。

(アイツが背中を押したから
俺は胸倉をつかんだのさ)

アイツが胸倉をつかんだから
俺は体を突き飛ばしたのさ。

(アイツが体を突き飛ばしたから
俺は顔を殴ったのさ)

アイツが顔を殴ったから
俺は首を絞めたのさ。

(アイツが首を絞めたから
俺は必死にもがいたのさ)

アイツが必死にもがくから
俺は

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