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光輝に照らされて

4年前、不思議な人と出会った。

周囲には騒がしい人が多い中で、
極めて物静かで、
スマートな出で立ちだけど、
近寄りがたい影が映る、
妙に印象に残る人だった。

その人とは、その年、
一言二言しか、会話を交わさなかった気がする。




3年前、私の同期を中心とした、ある事件が起こった。

人間関係のいざこざ。
当時の研究室は、どす黒い雰囲気だった。

その人も、その渦中に巻き込まれた。

いや、わざと入ったのかもしれない。
私の同期を助けるために。

私も、同期を助けるために、可能な限り、尽力した。

それをきっかけに、
いつも短い時間だったけれど、
濃くて深い話をするようになった。


そして、その年の末、
その人は、進学か就職か迷う私に、

僕は、あなたに、ドクター(博士後期課程)へ進学してほしい。

と言って下さった。

とても嬉しかった。
最も尊敬する先輩に言ってもらえて、本当に嬉しかった。
こんな自分でも、必要とされていると思えた。

結果として、今、私がここにいるのは、この言葉のおかげ

私は、この日から、博士号を取得するまで、
この先輩の下で勉強したい、
そして、力になりたいと強く思った。




2年前、突然のコロナ禍。

お互いに、実験ができず、苦しい時だった。
いや、先輩の方が、苦しかっただろう。
詳細は言えないけれど。

直接、みんなが会っていなくても、
いや、会っていないからか、
それでも、トラブルは起きる。

そのトラブルを少なくするため、
私と同期と先輩は、裏で、コンタクトを取り合った。


その甲斐あってなのか、
私は同期たちと一緒に、修士号を取得でき、
そして、私は、同期たちの新たな門出を祝った。




1年前、活動制限が続いていた頃、
ついに、私の心身が悲鳴をあげ始めた。

その年の春、
さっきまで傍にいた、同期たちがいない喪失感、
先の見えない不安に飲み込まれ、
深すぎる闇に飲み込まれ、
左半身の倦怠感、頭痛、不眠など、
鬱っぽい症状、心身症に近い症状に見舞われた。

これらの症状が、ストレスだと気づくのは、
この年の末だった。

後輩たちの叫びを聞き、動けなくなった。

その場には、先輩もいた。
先輩も静かに話を聞いていた。


その後、涙が止まらなくて、悔しくて、
どうしたらいいのか、分からなくて、
ずっと悩んだ末、
春に経験した痛みに襲われ、
立ち上がるのが困難になった。

なんとかしないと、なんとかしないと、なんとかしないと、

そればかり、頭の中で渦巻いていた。

そして、手を打とうと決意し、行動した後も、
力が抜けて、立てなくなった。

漸く、立つことができたけど、
まだ、ストレスが抜け切れていない時に、
私は、ある決断をしようと迷っていた。

それは、当時、属していたグループを離れ、
先輩のいる別のグループへ移ることだった。

先輩には、心身のことも、ほとんどすべて打ち明けて話した。

先輩は、静かに聞いてくれた。
その後に、心身の労いとその決意を後押しして下さった。

その時に、ようやく本当の意味で、
先輩の下で勉強できると思えた。




先輩の下で、ようやく勉強できると思っていたけれど、
決断するのが、少し遅かったようだ。


先輩は、極めて優秀な方なので、早期での博士号取得をされる。

だから、早くて10月、遅くて来年の3月には、お別れすることになる。

遅かれ早かれ、迎えることなのだけど、
ようやく、ようやく、と思っていた。

今は、ただただ、そのことが悲しくて仕方ない。

先輩がいらっしゃらない環境を想像するだけで、
急激な不安に襲われる。


その瞬間に、私にとって、先輩が、
どれほど大切で、尊敬できる人だったたか、
を改めて、気付かされる。


そんな先輩と、最近、チャット上でよく話すのだが、
「ありがとう」「ごめんね」とずっと仰って下さる。

それを言われる度に、少し心が軋む。


先輩の言葉に、どれだけ救われたことか。

先輩の背中に、どれだけ学ばせて頂いたことか。

先輩の優しさに、どれだけ心温まったことか。


本当は、声に出して伝えたいのに、
こみ上げる感情のふくらみに抗えず、上手く言えない。


恋愛感情を抱いている訳ではないが、この歌詞がふとよぎった。

ありがとう、と君に言われると
なんだかせつない
さようならの後も解けぬ魔法
淡くほろ苦い

Flavor Of Life





私は、先輩には、到底なれない。

だから、私なりに、
先輩がいない研究室を守らなければならない。
先輩がいない研究室を回さないといけない。

その不安と重圧に、最近は、ずっと押しつぶされるばかりで、
そんな暇はないと頭では分かっていても、
ずっとクヨクヨしてしまう。

たぶん、再び、喪失感で落ち込む時期がやってくるのだと思う。


でも、先輩が創り上げて下さったこの環境。

先輩の光輝ぬくもりで照らして下さったこの環境。


私が守らずして、誰が守るのか、
私が伝えずして、誰が伝えるのか。


私の役割は、これからだ。


せっかく、
先輩から頂いた時間いのちだから、
私も、次に伝える時間に使わないと。



限りある人生の中で、
先輩と出会えたことが、私にとって、この上ない歓びです。

中でも、先輩の光輝に照らされながら、過ごした時間は、
かけがえのない時間でした。

言葉で表しきれない程の感謝をここに。

そして、私の誓いをここに。


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