創作サークル 大切な花

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  • 創作サークル 大切な花について

    メンバーの自己紹介や大切な花について説明しています。

最近の記事

【短編小説】『ひいばあちゃんの桜』土梅実

(一) 大学の卒業式を終えた、少し肌寒い3月の終わり。朝のニュースは満開を迎えた標本桜のことを伝えた。 今年もそろそろ連絡が来る頃だ。 ニュースで標本桜の満開を伝えるその日に、おばあちゃんから必ず電話がある。 「もしもし、凛ちゃん。今年もひいばあちゃんをお花見に連れて行ってくれない」 ひいばあちゃんは私の生まれたときから、おばあちゃんだった。 毎年必ず、ひいばあちゃんはお花見をしり。 私が高校生になってから、お花見の案内係を母から引き継がれた。 ひいおばあちゃんは、おばあち

    • 【短編小説】『やまねこ座のそばで』葉桜ことり

                      昼下がりの霧雨が秋桜を濡らしている。  頬にあたる水滴は繊細で柔らかく、髪に、首すじに、唇にとあらゆるところに潤いを与えながら溶けていき、ゆっくりと私の乾いた心の奥へと流れて泉をつくる。  鮮やかな花びらはしっとりと水分を含み、やがてリズム的に左右に揺れはじめ、歓びのワルツを奏でる。  生きているものすべてに季節だけは平等に巡り、慌ただしい都会の真ん中でもこうして淡い記憶をみつけることができる。   いまだに提出できない離婚届けを筒状にして

      • 【短編小説】『ぱゆパむ』NUE

         なんだ、ありゃ。  大熊課長の黒いリュックに何やらファンシーなキーホルダーがぶら下がっている。  どぎついピンク色で、綿菓子みたいなふわふわした不定形……何かのキャラクターか?  そんなものが素っ気ないツラした黒いナイロン生地をバックに揺れている。  どんなに控えめに言っても似合わない。  大熊課長という男はどこまでも典型的な中年サラリーマンだ。歳は五十。  毎日夜十時まで働き、休日はゴルフに出かけるのが生きがい。家庭はさぞかし極寒の様相を呈しているであろう。ただし、パワハ

        • 【短編小説】『東京OL Lifeブログ』を閉鎖します。 富喜ちひろ

          今日は皆さんにお知らせがあります。タイトル通り、このブログを閉鎖することにしました。 いやあ……こういうときって、何書いたらいいのか迷っちゃいますね。いつもブログを書くときは、結構すんなり書けちゃうんです。けど、今日ばっかりはPCを前に半日くらい「ああでもない、こうでもない」って液晶とにらめっこしてました。 このブログを始めて4年が経ったみたいです。今日、もう最後だなと思って一番最初の投稿を読み返していました。何が言いたいんだかさっぱり分からない、トイレの落書きみたいな日

        【短編小説】『ひいばあちゃんの桜』土梅実

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          2本

        記事

          三題噺SS『禁愛の果て』 葉桜ことり

          お題目 「ガマガエル」 「入浴」 「スローモーション」 禁愛の果て  ばあちゃんがドロン。  ばあちゃんの剥いた落花生の殻が低いテーブルの上でサグラダ・ファミリアのようにそびえ立っている。  いびつでありながらも美しいソレは、今、また超超超低速スローモーションで傾き始めた。  陶芸や絵画を愛していただけに凡人離れした芸術的殻山だけを残し、忽然と姿を消した。  僕はまったく油断していた。  でも、今さらだけど、思い起こせば予兆らしきものは確かにある。  ばあちゃんは

          三題噺SS『禁愛の果て』 葉桜ことり

          三題噺SS『ハルキムラカミツンドクのタタリ』 NUE

          お題目 「ガマガエル」 「入浴」 「スローモーション」 ハルキムラカミツンドクのタタリ  夜、唐突に呼び鈴が鳴った――。  視線だけ動かすと、青一色に染まったドアモニの液晶が目に入った。  ――通話――  カメラ映像に切り替わらないところを見るに、客人は一階エントランスではなく、この部屋の前に居るらしい。  時刻は夜の九時を過ぎている。一体、誰だこんな遅くに。 「はーい、どなたでしょうか?」  用心の為にチェーンを掛けてから、俺はゆっくりドアを開いた。  すると目に飛び

          三題噺SS『ハルキムラカミツンドクのタタリ』 NUE

          三題噺SS『私のガマ合戦』 土梅 実

          お題目 「ガマガエル」 「入浴」 「スローモーション」 『私のガマ合戦』 土梅 実 思春期の女の子と言うものは、心が不安定なもので私のようなインチキ拝み屋のもとにも、定期的に悩みを抱えた娘がやってくる。  今日来た娘は凛香という名で、美醜にコンプレックスがあり自分のことを「ガマ憑き」だといっている。  横幅の広い顔にくっきりした二重で目玉はやや前方に飛び出ており、両目が離れている。愛嬌があり可愛らしい顔つきであるが、同級生から「ガマガエル」と揶揄われたことに傷つき、十五

          三題噺SS『私のガマ合戦』 土梅 実

          三題噺SS『新釈 カエルの王子様』 加藤冬夏

          お題目 「ガマガエル」 「入浴」 「スローモーション」 『新釈 カエルの王子様』加藤冬夏 「いや、ないわ~」  約束の時間通りに城を訪れたはずなのに、やたらと待たされた挙げ句現れたのは婚約者である王子ではなくガマガエルだった。  申し訳なさそうにカエルを連れてきた大臣曰く、おそらく西の魔女の呪いではないかと。  王家お抱えの占い師曰く、呪いを解くには愛する者の接吻が一番だと。  かくして銀のお盆に乗せられたカエルは私の目線の高さにうやうやしく掲げられたのだった。 「ない

          三題噺SS『新釈 カエルの王子様』 加藤冬夏

          三題噺SS『ガマカエルの鳴き声〜研究室にて〜』富喜ちひろ

          お題目 「ガマガエル」 「入浴」 「スローモーション」 『ガマカエルの鳴き声〜研究室にて〜』富喜ちひろ 「退屈だな」 アズマが、濡れた蛍光灯を見上げながらぼそりと呟く。この研究室では、全てがスローモーションのように一日が流れていく。単調な日々だ。 「あれって、生活上必要なものなのかな。それとも娯楽か?」 話題を絞り出し、僕はアズマに話しかける。笹森という女の研究員が水槽を洗っていた。いつも笹森は、長い髪を頭の高い位置で一つに結わえている。歩くたびに揺れるそれには、

          三題噺SS『ガマカエルの鳴き声〜研究室にて〜』富喜ちひろ

          夏季企画“三題噺ショートショート”

          三題噺はじめます 創作サークル『大切な花』では、今夏に“三題噺”を企画しました。 三題噺って? 本来は落語の形態の一つ。寄席で観客に適当な題目(言葉や名詞など)を3つ出させ、その3つの題目を織り込んだ落語を即興で演じることです。 転じて、ショートショートなどの短編小説の創作手法に取り入れられています。 出版社の入社試験にも取り入られているそうですが、本来はレギュレーションの中で即興性を楽しむエンターテイメントです。 その三題噺を、今回約1ヵ月という期間の中でメンバー全

          夏季企画“三題噺ショートショート”

          【短編小説】回想、月の都より NUE

           回想、月の都より NUE   あれは忘れもしません。  震災翌年の西暦一九二四年の夏のことでした。  その日、私は浜の岩場で尻餅を着いておりました。  地面から焼けた鉄板のような熱がお尻に伝わっていたはずなのに私はすっかりすくみ上って動けませんでした。  犬よりも大きな生き物が目の前に横たわ

          【短編小説】回想、月の都より NUE

          【短編小説】いきちがい 富喜ちひろ

          いきちがい                         富喜ちひろ  夜中に少し腹が減ったからと言って、近くのコンビニに行ったのが間違いだった。大人しく寝ていれば良かった。しかし、今更後悔しても遅い。  私は横断歩道に倒れている自分を見下ろしていた。  少し離れたところには、派手にブレーキ痕を残した水色の軽自動車が止まっている。倒れている自分を見下ろしていると、軽自動車から人が降りてきた。同い年くらいの女性だった。小さな子供を連れ、倒れている私を見ると両手で顔を覆い膝

          【短編小説】いきちがい 富喜ちひろ

          【短編小説】無敵の美学 加藤冬夏

          無敵の美学 加藤冬夏     どうしようもない恋の話をさせてほしい。  つまり私の恋の話なわけだけど。     ▼  まず手始めに初恋について。     ▼  それが恋だったのかどうか、正直なところ今でも私にはよく分からない。だけど話を簡単にするために、とりあえずそれを恋ということにしておく。  相手は中学校の同級生

          【短編小説】無敵の美学 加藤冬夏

          【短編小説】堀川守さん支援記 土梅実

          「堀川守さん支援記」                     土梅実   今年9月30日(金)12:30  ケアマネジャー佐藤綾、警察署での関係者事情聴取  堀川守さんを担当しています、大切な花介護支援センター、ケアマネジャーの佐藤と申します。  ケアマネジャーの仕事ですか、介護保険サービスの計画作成が主な業務です。利用者さんに困りごとがあれば、お話を聞いてどうするかどこに相談するかを一緒に考える仕事ですね。  ヘルパーの永岡さんは鼻から左頬の部分を堀川さんに殴られたと

          【短編小説】堀川守さん支援記 土梅実

          【短編小説】合歓の葉 葉桜ことり

          合歓の葉                  葉桜ことり  精神科医はそれを幻聴と名付けたが、夢や幻ではなく紛れもない真実である。  証明できないものは、どんなに大切なことであろうと、明日には消されてゆく。  葉山凛子  43歳。    ここ数年、目覚めると夢か現実か曖昧な時がある。  元々の妄想癖も手伝い、特に低気圧の朝は自分がどこの誰で、どんな暮らしをしていたのかも判断がつかない。  単身なのかパートナーがいるのか、はたまた、子持ちなのかの確認は、流しの食器や洗濯物を

          【短編小説】合歓の葉 葉桜ことり

          短編小説公開のお知らせ&メッセージ

           10月7日(金)の夜を皮切りに、毎週金曜日順次サークルメンバーの小説を公開していきます。  個性豊かなメンバーの繰り出す、予測不可能なストーリー。今回は特段テーマを設定せずに、各々自由に短編小説を書きあげました。 下記、短編小説公開スケジュールとメッセージ。 【第一弾】10月7日(金) 「合歓の葉」 葉桜ことり この世界は誰のものでしょう? 自分の中に明確な答えはありますか? 今、ここに生きている「自分」と「自分以外」、この「自分以外の声なき者たち」にスポットを与え

          短編小説公開のお知らせ&メッセージ