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ニンゲンの根源的欲求からみる隣国。『性と欲望の中国』安田峰俊


安田峰俊さんはBlog時代からのファン。書かれた本はだいたい読んでいます。その中でも、他の中国クラスタの追随を許さないのが「エロ」部分。

女性ライターの福島香織さんにも、女性側のルポがあるけれど、やはり彼女は女性視点。中国の厳しい女性の現状で、やむにやまれず売春しないといけない女性や、政治状況の中で犠牲になった女性にフォーカスした取材が多いです。

安田さんは男性的視点でblog時代から日本製のAVや女優さんについて書かれていますが、女性目線への配慮もあるので、私でも読める内容です。そして、特定の地方都市でどうして性的な産業が発展したのかという歴史的、社会的背景や中国の伝統文化との関係、なにより政治と軍事に関わる問題をしっかり外さないで書いているので、そこが他の男性ライターの書く風俗記事と異なる部分だと思います。

第一章 拝金の性都・東莞の興亡
第二章 人民解放軍に翻弄された「世界最大の売春島」
第三章 AIとエロの奇妙な融合
第四章 貴州ラブドール仙人
第五章 LGBTの葛藤と受難
第六章 日本人AVブームの光と影

私がおもしろいと思ったのは、ラブドールをめぐる一連の話です。日本に留学して最先端のAIを学んだ学生が、バイトで始めた代行輸入から中国社会にある日本製ラブドールへの需要の高さに気づき、中国でラブドール生産の企業を立ち上げたそうです。そして、それが発展して、今度は人間型のロボット産業につながっていき、IT企業の大手と組む話は驚きました。

日本のように若者が減り、人口が縮小する一方の社会では生まれない、新しい産業と工夫、そして予想外の発展が見られてうらやましいと思います。

一方で、ラブドールの購入者も、決して本来のラブドールの用途で使うばかりでないというのがおもしろいところ。とある地方の農村の男性は、ラブドール愛好家で、人形を娘のように大事にしていろいろコスプレさせ、季節毎の写真をとってインターネットでアップする有名人なのだとか。

取材のためにご本人を訪ねと、ネットの「ラブドール仙人」は普通の引退した村の名士で、彼の家族やご近所との関係のお話が微笑ましいです。日本だと、ちょっとラブドールのイメージがマイナスに振りきれているのですが、中国ではまだメジャーじゃない(?)のでぬいぐるみとかアクリルスタンドみたいな感じで。

もちろん、安田さんの文章力で、ソフトにレポートされているからということもあるのですが、中国独特の文化や社会状況を紹介しつつ、新しいものや日本と違うものをフラットな視線で紹介してくれるライターさんが、もっと増えるとうれしいです。


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