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聖杯戦争候補作

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つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
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#小説

【聖杯戦争候補作】Temple of the Black Pharaoh

アラもう聞いた?誰から聞いた? そのウワサ もっぱらのウワサ 皆ご存知 知らないなんてオクレテル! ウワサによればね… (誰もほんとは知らないの その本質がなんなのか  誰が流して、誰が得する? 信じるばかり?疑わないの?) ジークハイル! ○ ● 夕暮れの見滝原。とある博物館の一室で、その男は不意に記憶を取り戻した。今までの平和な人生が偽りで、その記憶の方が本物だと直感する。 これから争奪するのは『聖杯』だ。万能の願望器。世界を手に入れることも可能な聖遺物。 「

【聖杯戦争候補作】When the Saints Go Marching In

"キリスト・イエスに属する者は、自分の肉を、 その情と欲と共に十字架につけてしまったのである。" ―――新約聖書『ガラテヤ人への手紙』5:24 わたしは『罪』を背負っている。拭えない……誰にも告白できない罪を。 神には、キリストには、告白出来るだろうか? いや、神は全知だ。わたしの罪を知らないはずはない。そして、罪人を罰さないはずも、悔い改めた者を赦さないはずもない。 世の中にはいろいろな罪を背負った人がいる。わたしより重い罪を背負った人だって、罰も赦しも受けず、幾らで

【聖杯戦争候補作】Save My Soul

夜、ベッドの上で不意に目が覚めた。 今までの人生が偽りで、思い出した記憶が本当の人生だったと、すぐに理解できた。身を起こし、顔を洗う。 記憶は鮮明だ。死の瞬間まで。夢ではない。 ■ 僕は、生前の父を知らない。 僕が生まれる前に、父は死んだ。新婚旅行の時に豪華客船が爆発、沈没し、母だけが生き残った。正確には、母の胎内に宿っていた僕と……父が救い、母に託した赤ん坊、エリザベスも。 成長した僕は、全てを知った。吸血鬼ディオのこと、吸血鬼が作り出す屍生人(ゾンビ)のこと、

【聖杯戦争候補作】The Frog and The Scorpion

◆ 「ハルミ……! サトシ……!」 忘れはせぬ。あの絶望を、怒りを、苦悩を。殺され、復讐を誓い、地獄から甦った時を。当の仇に謀られ、必要なき殺しを行い、さらなる悲劇を生んだとしても。地獄で死んで、神々の奴僕となっても。俺の生前の記憶が薄れ、死後の記憶が薄れても、なお。妻と子を、その死を、忘れた時はない。 復讐。復讐こそが、今の俺の存在理由だ。地獄の力で奴を殺す。そのためだけに……! 『……では、ひとつ機会を与えよう。とある戦場が用意されている』 これは、俺か。あるい

【聖杯戦争候補作】Two Heads are Better than One

夜。見滝原に聳える高級マンションの一室。シャワーの音、乙女の影。 「♪んふふー・んふふー・ふんふふふー……ふふふー・ふふふー・ふふんふふー……」 鼻歌を歌いながらシャワーを浴びる乙女。読者の皆様にはシルエットだけでご勘弁頂きたい。やがてシャワーは止まる。……しばらくして、バスローブを纏った乙女がベッドルームへ。黒髪の東洋人。なかなかの美少女だ。年は16、17といったところか。 「ふわーあ……。そうだ、寝る前に、アレをしましょう」 はらりとバスローブをはだけ、肩から背中

【聖杯戦争候補作】Disposable Heroes

「……以上の件について、報告を終わります。では……」 見滝原を一望できる超高層ビルの一室。大きく重厚な机と立派な椅子に座るのは、40がらみの偉丈夫。眉目秀麗な男性秘書の報告を聞いていたその男は、差し出された書類に判を押した。 「ご苦労。下がってよろしい」 「はい。それでは、失礼致します。CEO」 秘書は、男の放つ威圧感に冷や汗をかきつつ、完璧な所作でお辞儀し、退室した。 男は視線を背後の窓の外、夕景に移す。記憶はあるのに、記憶にない街だ。 立ち並ぶ高層ビル。最先端技術を

【聖杯戦争候補作】Umbra Nigra

■ 山の中で泣いている子供が見える。 回転する紋様。 床を埋め尽くす無数の白骨。 母の死。 海辺。 電車。 禍々しくうねる空。立ち並ぶ石碑。奇怪なオブジェ。……いつか、見たことがある夢。 【おお……あなたには、すごい力が秘められているのね。素晴らしいわ】 知らない女性の声。 地下の町。 墓室。 凍った湖。 密林の中の村。 海。 生首。 【その力を用いれば……あなたは……】 声が遠ざかる。 禍々しくうねる空が、裂ける。そこから光が――――― ■ 「……おか

【聖杯戦争候補作】You Only Die Once

目が回るほど忙しい毎日。なにかを忘れている気がする。 発展著しい見滝原に転勤して、仕事や収入も増えたが、自宅に帰れる日数は減った。故郷への電話やメールも、たまにしか送れない。去年は何度里帰りできたか。そろそろ嫁でももらう歳だ。 「帰らにゃ」 ぽつり、と声が出る。どこへ。自宅の賃貸アパートか。それとも実家か。ああ、たぶん実家の方だ。いや。ここは自分のいる場所で、みんなも自分を頼りにしている。投げ出してしまうわけにはいかん。古い価値観と笑わば笑え。そう育てられて来た男だ。実

【聖杯戦争候補作】United We Stand

「ライダー。おれの望みは――――『おれのおやじを殺す』ことだ」 夕刻の自室。喚び出したばかりの己のサーヴァントに望みを問われ、学生服の男、『虹村形兆』は、そう告げた。万能の願望器にかける望みとしては、あまりにささやかな、個人的な願い。 ライダーは少し沈黙した後、口を開く。 「……恨みでも、あるのか」 無表情のまま、ふん、と鼻を鳴らす形兆。見知らぬ男だが、これから命を託す相棒だ。しっかり説明しておかねば、相手も納得はできまい。特に善良な奴であれば。手の中の宝石、ソウルジェ

【聖杯戦争候補作】Eye of the Beholder

■ 燃え盛る炎から、巨大な怪物が産み落とされる。かつて世界を滅ぼした神が。ああ、なんと、素晴らしい。 「ホラホラ、化物が動きはじめたぞ。お前がこいつの産みの親ってわけさ」 ざまあみろ。救世主ヅラして、お前は怪物を世に放したのだ。なにが救済だ。なにが愛だ。くたばっちまえ。くそくらえ。弟と同じことをいいやがって。来世も再生もありはしない。世界は滅び、人間は簡単に死ぬ。死ねば終わりだ。それまでに何をするかだ。 「貴様をひきむしって、はずかしめてやる。その上でこいつをくれてや

【聖杯戦争候補作】Glance of Mother Curse

ああ……。 今、目の前で、愛する人が殺されようとしている。 わたしの時と同じ。彼が愛する女性……の、ひとり……を人質にされ、手も足も出せず、敵の攻撃を受けている。わたしも敵に縛られ、手も足も……出ない。出せない。彼もそうだ。彼はそういう男だ。 「全世界と、ひとりの娘の命と、どっちが大切だと……」 「オレはその女のほうがいい」 「……狂ったか」 違う。彼はそういう男だ。わたしにそうであったように、彼女にもそうだ。そう言わないわけがない。わかっている。―――けれどやはり、心

【聖杯戦争候補作】Underworld Refuge

曇り空の朝。京都市内の、とある公園、のトイレ。 ボロボロの自転車に薄汚い大量の荷物が積まれ、地面にまで散らばっている。毛布、衣類、空き缶、空き瓶、カラの弁当箱、雑誌や本。近くにはダンボールとブルーシートで作られた、小さなねぐら。典型的なホームレスの棲家だ。 この町にも、ホームレスが多少はいる。大概の場合、市民は彼らを無視する。時にはお役所から「支援施設に入りなさい」とのお達しも来るが、入る者も入らぬ者もいる。 ねぐらには何枚かの毛布が敷かれ、男が一人くるまって、イビキを

【聖杯戦争候補作】Damaged Goods

午後の京都に、曇天から雪が舞い落ちる。 旧正月、春節は確か二月中頃。その頃には中国人観光客が溢れるだろう。年末年始の混雑も落ち着いた、ちょうどいい時期だ。 「こうしてゆったり日本国内を観光することって、そういや、あまりなかったなァ……」 京都市右京区、嵐山の渡月橋。観光客の一人として、その男はここを訪れていた。デジカメや携帯端末で、何枚もそれっぽい写真を撮り、次々とSNSにアップする。結構フォロワーも増えた。 「……ま、たまには休暇を愉しむか。戦争はもう始まってるけどね…

【聖杯戦争候補作】Neo-Yakuza for Sale

「なかなか風情があって、ええとこじゃのう」 夜。ネオンきらめく歓楽街の真ん中を、一人の酔漢が歩いていく。 年齢は二十代前半。中折れ帽にティアドロップサングラス、ダボシャツにダボズボン。腹巻きに雪駄履き。口には爪楊枝代わりのマッチ棒。黒髪の短髪にゲジゲジ眉毛。背丈はそれなり、筋骨もしっかりした男だが、その顔たるや兇悪そのもの。口から出るのは広島弁。三百六十度どこから見たって、昔の任侠映画から抜け出てきたような、完全なヤクザである。しかもチンピラや三下ではない。強烈な殺気が全身