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第20巻


この前後数巻は『H2』の胸つき八丁だ。
野球漫画としての結末は既に決まっていただろう。それは言葉を替えれば、この辺りが手順のための手順になってしまう恐れがあるという意味だ。手順のための手中に陥ると漫画の熱量低下を招くし、読者も勘づいて離れてしまう。長期連載をやっていると、こう言う難しい時期は必ず来る。そこをどう乗り切るかが漫画家の腕である。
同じ野球漫画でも佐々木守+水島新司『男ドあほう甲子園』なら、主役の藤村甲子園が闘志をまき散らし「うぉおおお」と叫んでボールを投げ込んでくる。その勢いで画面を持たせてしまうだろう。
あだちさんの選択は新しいキャラクタを出すことだった。新しいと言っても仮想・英雄だったり仮想・比呂自身だったり。千川高校+比呂対明和第一+英雄を読者に感じさせるような展開にして、先々に繋げている。


第5話 ふざけるな!
本回は球場の中だけで話が進んでいく。
P77からP87までの11ページがスタンドからみた試合。P88から91が試合中のグランド。のこりは試合結果のためのページという塊でできあがっている。。
明和第一の強豪ぶりを伝えているのが最初の11ページ。スタンドの声援と英雄の走る姿、いくつかのセリフだけで描写している。
また次の塊では監督がひかりと世間話をしていて、でチームの余裕が伝わる。「このへんで、追加点とりにいくか!」」というセリフも効いている。


第9話 大きすぎる期待
千川対伊羽商の試合開始。千川の先攻。
伊羽商・月形の非凡さと、それを越える千川・比呂の凄さに触れる回。この試合の演出は難しい。ラストに劇的な場面が用意されているがそこまでの引っ張り方が難儀なのだ。あまり盛り上がるとラストが際立たない。抑えすぎると読者が目を離してしまう。あだちさんは月形選手の身辺事情でそこを切り抜ける算段。
それらは次回以降に触れるとして、本回では野球漫画の先攻、後攻について述べる。
一般的にこういう考え方をすると考えやすい。

主人公チーム・勝ち
      相手チームを圧倒する場合 先攻・後攻 どちらもあり
      相手チームが圧倒的な時  後攻の方が盛り上げやすい
      相手チームと拮抗する時  先攻・後攻 どちらもあり
主人公チーム・負け
      相手チームが圧倒的な時  先攻・後攻 どちらもありだが                   後攻の方が作りやすい
      相手チームと拮抗する時  先攻の方が盛り上げやすい

考えるポイントはサヨナラゲームという野球のルール。相手チームと拮抗していてサヨナラ負けになった時、実力に差がついた感じがしないという利点がある。ミスでもサヨナラは起こるからだ。
相手チームが圧倒的で負ける時は後攻にすると、ものすごく差がついて負けたような感じにできる。

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