Yasuhito Nagahara

Graphic designer, physical and digital. Pro…

Yasuhito Nagahara

Graphic designer, physical and digital. Professor, department of information design at Tama Art University.

最近の記事

メディアとデザイン──伝え方を発明する(12) 電子の書物

10年前に書いた連載「メディアとデザイン」の最終回。 学校でのできごととデザインのはなしを絡めて書いていたのだが、最終回はほぼこのときの興味の中心だった電子本のことで終わっている。そのためこの回を再掲するかどうか迷ったが、やはり載せることにした。最後にちょろっと書いた「3冊の本」の演習は今でも隔年ぐらいのペースで続けているし、この数年後に「パーソナル・パブリッシング」という授業を立ち上げて、毎年東京アートブックフェアに出品している。意外に大学でやっていることと結びついているの

    • メディアとデザイン─伝え方を発明する(11) 2D–3D–4D

      10年前、2009年の連載エッセイ再録。大学でのできごとから考えたことを書いていた。文中で受光素子をCCDとしているのが懐かしい(ぼくは今でもCCDのカメラを使っているけれども)。 2D–3D–4D 私たちが知覚できる世界は三次元である。一次元が線、二次元が面、三次元が立体(空間)で、そこまでが知覚範囲ということになっている。しかし、線や面には質量がないから、知覚しているとは言い難い。ただ、イメージしているだけなのだろう。 四次元とは、ある1点を特定するのに四つの軸が必要

      • メディアとデザイン─伝え方を発明する(10) 見えるもの、見えないもの

        10年前の連載の再録。学校のことを題材にしている。学生作品について書いたものが断然面白い(と思う)。ということで、連日のアップ。 見えるもの、見えないもの「大切なものは目に見えない( l'essentiel est invisible pour les yeux )」これは、『星の王子さま』の有名な一節である。王子は、友だちになったキツネと別れるときに、キツネから「本当のことは目では見ることができない」という秘密を教えられる。 物語の冒頭でも、語り手である絵描きになりたかっ

        • メディアとデザイン─伝え方を発明する(9) 群れとネットワーク

          このシリーズは2009年に書いた連載を再録したものだ。2005年にweb2.0が提唱され、2006年にはTwitterがサービスを開始した。そういったことの影響がかたちをあらわしてきた時期だったのだろう。インフルエンサーという言葉がまだなかったのか、“口コミ操作”などと書いている。フィルターバブルやエコーチェンバーといった言葉もなく、のどかだった。毎回、学校のことに触れていたが、この回はそこから少し外れている。 群れとネットワーク 子どものころ、たくさんの親戚が近所に住んで

        メディアとデザイン──伝え方を発明する(12) 電子の書物

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(8)知ってもらう

          10年前のエッセイを再録している。 今回は夏休みのあいだのことを書いた回だ。ここに書いた事情は、今と10年前とではずいぶん違っている。まず、(たぶん)情報デザインに対する理解はこのときよりも深まっており、今では当時より掘り下げて説明する必要はない。したがって、学事に対する姿勢も変わったかもしれない。そのあたりを割り引いて読んでもらえるありがたい。 知ってもらう大学でのできごとを通して情報のデザインを考える、というのがこのエッセイに与えられたテーマである。しかし、夏は大学がお

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(8)知ってもらう

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(7)「写しとデザイン」

          写しとデザイン江戸時代まで脈々と続いた日本の伝統文化は、明治以降ヨーロッパの(そして戦後はアメリカの)あとを追うことで、根こぞぎ途絶えてしまった。 というようなことがよく言われる。 しかし、人々の深層にある感性までそう簡単にリセットできるものではない。実際、かつての日本の美意識が受け継がれていると思われる事象はさまざまにある。 たとえば、古着やビンテージジーンズは「さび」を好む気持ちだろうし、ヤンキーファッションは「ばさら」や「かぶき」を連想させる。オタクと「数寄者」も似た

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(7)「写しとデザイン」

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(6)「A から A' または B」

          私が行なってきた演習でもっとも完成度が高いのは、ここに書いた「数値化と変換」だろう。この手前には「音楽と色彩」(『美術手帖』2000年6月号)のテキストとそれを実践したいくつかの作品がある。 タイトルの「A-A'」は、稲垣足穂の「タッチとダッシュ」から。 ──或る風景がAならば、映画に現われた同じ風景はA'である。 A から A' または Bその昔、映像や音響を組み合わせて表現することを「インターメディア(intermedia)」といった。inter は、そのままでは「埋

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(6)「A から A' または B」

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(5)「環境と情報」

          環境と情報原稿は家で書く。仕事場ではなかなか集中できない。大学の研究室は論外である。仕事場や大学では書けないが、コーヒーショップなどでは書ける。だからいつも原稿は、ラップトップコンピュータの15.4インチのディスプレイで書いている。 仕事場と大学には30インチのディスプレイを置いていて、いつも持ち歩いているラップトップをそれにつないで表示する。A3サイズヨコ(A4見開き)が原寸で表示でき、デザインワークには欠かせない。複数の資料を並べて見比べることもでき、大画面がほしくなると

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(5)「環境と情報」

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(4)「コンテンツの伝え方」

          毎年開催している課題作品の選抜展「できごとのかたち展」に関する一文。今は授業の一環として継続している。情報デザインをどう見せるのかについて、いつも考えていた。そんなころの文章である(今も考えてはいるのだが。。) コンテンツの伝え方「どんな映画が好きですか?」と尋ねられたら、なんと答えるだろう。たいていの人は、映画のタイトルか、ジャンルか。監督や役者の名前を言う人もいるかも知れない。しかし、「映画館の大スクリーンで観る映画」とか「DVD」と答える人はいないだろう。普通の人にと

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(4)「コンテンツの伝え方」

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(3)「ことばで伝える」

          ほかのnoteも参照して、見出しで内容がわかるようにした。このスタイルで連載していけばいいのだろうと思う(もっとほかの方法があれば教えてください)。今回から雑誌掲載時の改行をウェブ用に更新した。 ことばで伝える水村美苗著『日本語が亡びるとき──英語の世紀の中で』(筑摩書房)が話題になっている。〈普遍語/現地語〉という二重の構造から、〈書きことば(読まれるべきことば)〉について論じている本だ。そのタイトルのとおり、日本語の危機を訴えている。 ここでは内容に触れないが、副題にも

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(3)「ことばで伝える」

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(2)「お天気パンが伝えるもの」

          お天気パンが伝えるものデザインとテクノロジーは密接な関係を持っている。たとえば、インダストリアルデザインは「大量生産のための技術」を背景に生まれてきた。インダストリアル(工業)の範疇におさまりきれなくなってプロダクトデザインと名を変えても、基盤とするところは変わらない。もし、1点ものの価値を主張しはじめたら工芸との境が曖昧になるだろうし、生産あるいは製品という概念にも修正が必要となる。 グラフィックデザインは混沌とした“地”から整理された“図”を生成する仕事だが、出発は印刷

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(2)「お天気パンが伝えるもの」

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(1)「何だかわけのわからないもの」

          「メディアとデザイン」は、多摩美術大学情報デザイン学科で2007年に始まった私のゼミ名だ。2002年に開催した個展の名称に由来する。「伝え方を発明する」はゼミのテーマである。これは、学科案内をつくるときに編集子がつけてくれたキャッチコピーをそのまま引き継いでいる。あまりにピッタリで感心したからだ。 2008年から09年にかけて『プリバリ 印』という印刷業界誌から大学でのことについて書いてほしいという依頼があって全12回の原稿を書いた。学校についてもう書くことはないだろうと思

          メディアとデザイン─伝え方を発明する(1)「何だかわけのわからないもの」