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セカイ系の元祖、VRの元祖、サイバーパンクの元祖「メガゾーン23」

今回は、私が最近ハマっている80年代OVAアニメについて書いてみようと思う。
そもそも、昔のTVアニメは玩具メーカーをスポンサーとした子供向けアニメ(ロボットや魔法少女の類い)がメインであり、東映動画やタツノコプロ、東京ムービーといった大手制作会社が主力だったわけね。
宮崎駿や高畑勲はこのカテゴリーにいて、彼らはいわばアニメ界のエリートだったんですよ。
一方、非エリートの若きアニメーターたちは当時どうしていたのか。
せいぜい彼らにやれることは、大手の下請けとしてコツコツやっていくことだっただろう。
でも、実はあともうひとつ、OVAでアニメを作るという選択肢もあったわけよ。
そこは子供向けでなく、ターゲットはオトナがメイン。
当時のセルビデオは、単価がなんと10000円以上していたという説もある。
どんだけ高価なんだよ・・。
それでも売れたってのが、さすがバブル期だよなぁ。
80年代半ば、アダルト企画の「くりいむレモン」が大ヒット。
子供向けアニメとの差別化も相まって、やがて「美少女」「エロ」といったところがOVAのメインステージとなっていった。

「メガゾーン23」PartⅠ(1985年)
「マクロス」リンミンメイ

特に驚異的な売り上げを記録したのが、この「メガゾーン23」だといわれている。
そう、上の画を見てのお分かりのように、「マクロス」リンミンメイっぽいキャラ作画である。
それもそのはず、これには「マクロス」制作スタッフが大量に参加してるんだから。
しかもOVAゆえ、ヌードやカラミもある、という噂が流布した。
「うぉ~っ!エロいマクロスかよ!」
と、多くの少年たちは勃起し、今まで貯めてきたお年玉貯金を断腸の思いで切り崩し、「メガゾーン23」購入に注ぎ込んだらしい。
当時「愛おぼえていますか」が社会現象的に大ヒットしてたわけで、いわばリンミンメイは時代のセックスシンボル。
その状況で「マクロスと同じキャラデザでエロいOVAが発売されるらしいぞ」と聞くのは、今でいうなら「白石麻衣がソフトオンデマンドでデビューするらしいぞ」と聞くのに等しいインパクトである。
結果、当然のように「メガゾーン23」はバカ売れした。

「メガゾーン23」のヒロイン由唯は芸能人の卵という設定
由唯とプロデューサー

この作品のヒロイン・由唯が芸能人の卵という設定は「マクロス」と同じなんだが、ひとつ大きく違うのは、由唯が仕事を貰う為なら枕営業を辞さないタイプの子だということ。
上の画は、その一幕である。
こういうの、OVAならではだよね。

いわゆる「回転ベッド」も出てくるw

しかし、エロはあくまでサービス要素にすぎず、「メガゾーン23」で最も驚かされた要素は、当時としてあまりにも早すぎた「セカイ系」的プロットの方である。
(ネタバレ全開)

・物語の舞台は80年代の東京と思わせといて、本当の時代は29世紀。
しかもここは地球ではなく、宇宙船内で80年代東京を再現した虚構都市である。

・本当の地球は環境汚染で居住不可となり、500年前に人類はいくつかの宇宙船に分かれて地球を離れ、以降500年間浄化を待ち続けている。

・本艦は別の宇宙船の人類と戦争状態にあるが、情報は上層部のみが知り、一般人は自分たちが宇宙船にいるという事実も含めて、何も知らない。

・人気アイドル・イブは実在の人物でなく、人工知能のバーチャルアイドルである。そして、その実体は「人類が地球に帰還するに相応しい存在か」を判断する地球防衛システム・ADAMへと人類の情報を送信する端末。

・もしADAMが「人類は地球に帰還するに相応しくない」と判断した場合、宇宙船はADAMの攻撃を受け、皆が死ぬ運命にある。

・しかしイブには人工知能ながらも人格があり、戦争ばかりしてるオトナはともかく、主人公ら少年少女たちだけでも救ってあげたいと考えるようになった。

こういうプロット、今でこそ珍しくもないかもしれんが、80年代でこれを考案したのは凄いよ。

「メガゾーン23」PartⅡのラストシーン(1986年)

で、Ⅱのラスト、主人公たちだけが無事地球に帰還できたという形で物語は大団円を迎える。
キリがいいので、このⅡで視聴を終えちゃった人は多いんじゃない?
いやいや、物語はⅢに続くのよ。
ⅢはⅠ・Ⅱと比べて酷いという人もいるので必ずしも視聴をお薦めはしないが、個人的には日本最古のサイバーパンクのひとつとして価値ある作品だと思う。

「メガゾーン23」Ⅲ(1989年)

Ⅲの設定はⅡの何百年後、もしくはそれ以上の未来となっていて、主人公の住む都市・エデンは、SYSTEMという超高性能のコンピュータに制御された電脳都市っぽい感じになっている。
反政府勢力=ハッカーで、まさに構図は「攻殻」っぽい世界観。
80年代で既にこれを描いてたか~。
まだ「Windows2.0x」の時代だぞ?
ケータイなど全然普及しておらず、ポケベル全盛期。
実はこのⅢ、またしても「セカイ系」の展開になるんだけど、その核心がⅡまでの主人公が地球帰還後にどうなったかという謎に踏み込む展開となり、ぶっちゃけるとⅢにおけるラスボス=Ⅰ~Ⅱの主人公、というトンデモないオチなのよ(笑)。
まあ、SYSTEMIに囚われて精神を操られてたというオチだが、何百年経ってもまだ生きてたとは、ちょっと凄い展開である。

この白い人がⅠ~Ⅱの主人公
昔は、こんな人でした

こういうオチもあって迷作とされてるⅢだが、私は嫌いではない。
特に、全ての時代を見つめ続けるアイドル・イブの存在が秀逸であり、このアイデアは2021年の神作品「VIVY」の元ネタになってるのは間違いないと思う。

「VIVY」
「メガゾーン23」のアイドル・イブ

個人的には、3部作の中ではⅡが一番好きである。
Ⅰがあまりにも「マクロス」臭が強すぎるのに対して、Ⅱからは監督が板野一郎、作画監督が梅津泰臣になり、がらっと雰囲気が変わるのよ。

左がⅠのヒロイン、右がⅡのヒロイン

大事なのは、上の画のふたりが同一人物だということ。
もう梅津さん、Ⅰのキャラデザに似せようとする気ゼロじゃん(笑)。
開き直りが凄い。
その開き直りは、グロ描写でも思う存分発揮↓↓

この【監督・板野一郎+作画・梅津泰臣】という組み合わせは過激な描写に走るクセがあるみたいで、このふたりはⅢに参加せず、代わりに「エンゼルコップ」というOVAをふたりで制作してるんだが、これがまたエゲツない!
当時流行っていた「あぶない刑事」を模したかのような刑事モノで、多分「あぶない刑事」の100倍以上、こっちの方が危ないわ。

「エンゼルコップ」ヒロイン
ホント、板野作品って絶対主人公がバイク乗ってるよな・・

この草薙素子みたいなのが主人公である。
めっちゃ強い公安の捜査官なんだけど、この物語は相手が超能力者だったりするので、ただの人間である彼女はかなり苦戦を強いられる。
代わりに活躍するのが、彼女の相棒である。

相棒

こいつは序盤で怪我をして、しばらく姿を消してたと思ったら、こんな姿で帰ってきやがった↓↓

まさかの、ロボコップ化ww

もう、板野さんと梅津さんがやりたい放題でマジ楽しそうというか、最後には主人公もこんな感じになってた↓↓

完全に草薙じゃん

もうね、敵キャラもチートすぎてメチャクチャ。

敵キャラ

こいつ、ここまでやっても死なないからね(笑)。
普通に回復する。

いや、何しても死なない。
回復する(笑)。
ある意味、板野サーカス。
いいよな~、OVAは自由で。
とはいえ、いまどきのコンプライアンスでは結構ギリギリの表現も多くて、この作品は1989年制作だからまだ規制が緩かったんだろう。
主人公は草薙っぽく見えるかもしれないけど、押井さんが「GHOST IN THE SHELL」を作る数年前の作品だからね。

都知事と公安課長

主人公たちとラスボスが延々と死闘を繰り広げてる一方、都知事や公安課長たちは別場所で「湾岸戦争」の時事ネタを延々と語っている。

「貴様らにできることは、国を売り飛ばすことか?
なぜ本当の敵と闘おうとしないんだ?」

「我々は名ばかりでも日本という国を存続していけるなら、アメリカの犬になることを選ぶしかなかったんだ」

「世界は日本に何も期待していない。
日本のカネに期待しているだけなのだ。
それが分かっていながら、消費社会にどっぷりと浸り、まるで家畜のように怠惰な生活を貪る、この国の大衆には今の豊かさを捨てるモラルもない。
このままでは、日本はアジアのクウェートになってしまう」

何でこんな会話に長い尺を使ってるのかと感じるが、板野さんはむしろこれを一番やりたかったんじゃない?
当時の湾岸戦争の政府対応を見て、彼なりに思うところがあったんだろう。
この時代に人気があった、落合信彦っぽい語り口だよな・・。
1989年、まさにバブル崩壊直前の警鐘である。
こういう政治的主張も含めて、OVAというのは実に自由な媒体だったということだろう。
ちなみに、この作品の製作は「くりいむレモン」で有名なところである。
といってもエロ要素はほとんどないので、安心して見てください。
板野一郎、梅津泰臣のエキスが濃縮された逸品。
分かりやすくこの作品をひと言で言い表すなら、「クソアニメ」だね。
お薦めします。

「メガゾーン23」の方は、是非3部作まとめて見てほしいな~。
特にⅡのエロ描写は、さすが「世界の梅津」という感じで、かなりお薦めですよ。

「メガゾーン23」のバイク、ガーランドはAKIRAっぽくてカッコいい
ガーランドが変型したら、こうなる


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