第四話 焼かれた玉座の先を望む男

騎士の兜《マクシミリアン・ヘルム》から噴き出る鮮血を、玉座から降り注ぐ炎が燃やす。
 目を潰され泣き喚く〈鉄の騎士〉が血に伏し、やがて動かなくなったのを確認すると、〈王の公吏〉は鎧通し《メイル・ダガー》の血を拭って鞘にしまった。
 〈鉄の騎士〉は強く、そして強靭だった。だからこそ、幾度殺されても立ち上がり、そして無数の王たちを屠ってきた〈簒奪の王〉を打ち倒し、復讐の誓願をここに果たした。
 焼かれ

もっとみる

第三話 全てを焼き尽くし、〈祝福の火〉をまとう王

瓦礫の山と化した王城、焼かれた屍体が絨毯のように広がる玉座の間で、玉座と男が燃える。
 燃える玉座に独り佇む〈簒奪の王〉は、崩落した天井から覗く空をぼんやりと眺めながら、溜息をついた。
 靄がかった白煙に覆われた空に、薄い太陽が朦朧と揺らめく。風の哭き声すらない空は無味乾燥で、何の面白みもなかった。
 血の雨が恋しかった。滅んだ世界は、あまりにも退屈だった。
 早く来い──〈簒奪の王〉は、炎に舌を

もっとみる

第二話 国を滅ぼされ、復讐を誓う騎士

炎が、暗闇に揺れている。
「お目覚めですか?」
 声がした。ぼんやりと澱む暗闇に焚火の灯りが浮かぶ。
「よく寝むれましたか?」
 そのそばに座る焼かれた細身の男が、こちらを覗き込んでくる。
 目を覚ました〈鉄の騎士〉の前で、〈王の公吏〉がうっすらと笑う。周囲では今回招集された他の三人──〈幼い老魔女〉、〈雷神の子〉、〈山犬〉──が、それぞれ距離を取って、石畳の上の焚火を囲っている。そしてその背後、

もっとみる

第一話 生ける玉座

玉座が燃えている。

 黒煙をあげる炎が玉座を燃やす。焼かれた屍体が絨毯となって広がる玉座の間には、焦げた死肉の煤と、むせ返るような死肉の焼ける臭いが充満し、そして新たな戦いで飛び散った鮮血と臓物が無造作に積み重なる。
 今や王城にかつての栄華は微塵もない。焼け焦げた廃城の石壁は瓦礫と化し、崩れた天井から覗く空からは、しとしとと血の雨が降る。

 燃える玉座には誰もいない。その無人となった玉座の前

もっとみる

ホラー小説「きっと、まだ夢の中」

夢の中で、これが現実ではないと気付くことが出来る。

襲いくる巨大カマキリに遂に追い付かれそうになった瞬間、あるいは何故か命綱もなしに高所を歩いていて、そこから足を滑らせそうになる瞬間。荒唐無稽な夢の中で危機的な状況に陥った時に不意に”気付き”がやってくるのだ。自分は今夢の中にいると。

しかし、これは夢の中で好き放題に闊歩できるような類いのものではない。夢の中で窮地に陥った瞬間に、これはただの夢

もっとみる

ごめんなさい、許してください

頭をトンカチで殴られ

爪を切り花に埋められる

これ以上の地獄が、果たしてあるだろうか。

無いのだろうと、朦朧とした頭で思う。頭は既に思考回路がめちゃくちゃで、

考えられない状態に陥っているのだ。

それも当然なまでだ。だって、寝ている間も、今こうやって息をしている間でも、頭のヒートアップは止まらないのだから。

「助けて許して、ごめんなさい!ここから出してください!!」

地獄の底でこだま

もっとみる

知らない内に怪我をしていた <読み切り>

知らない内に怪我をしていた。
足首から血がだくだくと流れていて、ちょっと痛いなと思って見た時には、もう靴下が真っ赤に染まっていた。

母に言うと

「最初は何とも思わないのよね。徐々に傷口が広がっていくの。でもまあ、世の中そんなものよ。あっちのおばさんを見てごらんなさい。長く生きれば、ああやっておっきなかさぶたになるのよ」

指差すほうを見ると、小柄で太ったおばさんが、がさがさの大きなかさぶたを剥

もっとみる

カフェ誇大妄想(Café Größenwahn)について覚書

ニコチンの黄ばみ、偽物のロココ調、安っぽいタペストリー、ついたての壁と低い天井、蔓延する煙。大きな帽子を被った女性に片眼鏡をかけた男性、人々は酔っ払い、化粧をした青年たちもいる。カフェ・デス・ヴェステンズ(Cefe des Westens)、愛称「カフェ誇大妄想(Café Größenwahn)」は、1893年から1915年までベルリンのクルフュアステンダム(Kurfürstendamm)18・1

もっとみる

Ernst Ludwig Kirchnerについて覚書① −1945年以降の評価

エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー(Ernst Ludwig Kirchner)という悲劇の芸術家について、わたしが知っていることをいくつか纏めてみる。わたしは彼についてまだまだ勉強中であるが、今回はキルヒナーの1945年以降の評価に関して、せっかくベルリン留学中に書いた小論文があるので、それを元にここに文として知識の足跡を残そうと思う。

  キルヒナーについての印象的な引用を紹介してから

もっとみる