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全ては「カウボーイビバップ」から始まった

1998年、「カウボーイビバップ」というアニメがヒットした。
当時は「エヴァ」ブームだったとはいえ、そういうのとは全く関係ないというか、また別のカテゴリーとしての人気だったと思う。
いわゆる厨二系ではなく、カッコいいオトナ系?
劇伴にジャズが使われてたりして、めっちゃカッコいいんですよ。
監督は渡辺信一郎。
彼は音楽へのコダワリが強くて、後に手掛けた「サムライチャンプルー」を見ても、一種独特の美学がある感じ。

2003年、渡辺さんは映画「マトリックス」のスピンオフアニメとなる「アニマトリックス」を手掛けることになる。
ハリウッドデビューだ。
その作品は短編9つのオムニバス形式になっていて、渡辺さんの担当したパートはこんな感じである↓↓

うん、「カウボーイビバップ」っぽい。
やはりこの人、ハードボイルドが好きなんだね。
こういう美意識のもとになってるのは、案の定、映画らしい。
彼はマイフェイバリットのひとつに「野獣死すべし」を挙げてるわけで、「あぁ、なるほどな」と思ったよ。

松田優作主演「野獣死すべし」

見てお分かりのように、松田優作は「カウボーイビバップ」のスパイクそのものなんですよ。
うん、松田優作ファンなら、間違いなく「カウボーイビバップ」の世界観はハマるよね。
こういうのって、庵野秀明の美意識のルーツが昔見た実相寺昭雄の特撮モノにあるのと同じことで、渡辺さんの場合は70~80年代に見たハードボイルド映画にそれがあるんだと思う。
男子は、結構こういうの好きでしょ?
女子は知らんけど。

ただね、「カウボーイビバップ」は少しややこしい時期に作られた作品なんだ。
制作は1998年。
ちょうどこの年、サンライズからBONESが独立したんだけど、この作品を作ってたスタッフはみんなBONESに行った側なのよ。
微妙な時期ゆえ、クレジットは「制作サンライズ」になってるけど、実質はBONES制作といってもいいんじゃないかな?
実際、テレビアニメの3年後に劇場版を制作した際には、「制作BONES」に変わっていた。
そうそう、この劇場版の「天国の扉」はめっちゃいいから見てね。
テレビ版以上にハードボイルド全開で、男子なら痺れること間違いなし。
画もめっちゃ凝ってて、どこを切り取ってもカッコいい画ばかりである。

この映画、構図の美意識がハンパない!

BONESとしてこの作品は非常に思い入れが強いものだろうし、できれば続編をやりたかっただろうね。
しかし、主人公のスパイクがいない以上、それは無理。
で、渡辺信一郎は2014年、「カウボーイビバップ」のセルフパロディをBONESで作ったのさ。
それが、「スペースダンディ」である。
彼は総監督という位置に立ち、旧「カウボーイビバップ」スタッフを召集。
菅野よう子、佐藤大、信本敬子、川元利浩など大御所が集まる。
多分、これはBONES的に「お祭り」だったんだろうね。
旧スタッフ以外にも、うえのきみこ(「クレヨンしんちゃん」脚本)、円城塔(小説家)、森ハヤシ(ドラマ脚本家)、大河内一楼(「コードギアス」脚本)などの色々な人たちを呼んで、各々に「おまかせ」で脚本を書かせたらしいのよ。
えっ?
そんなことしたら、話の連続性がなくなるじゃん?と思うよね。
うん、その通りなんだ。
実際、「スペースダンディ」はたとえ主人公が死んでも、次の週には何事もなかったようにリセットされてるのよ(笑)。
まあ、この作品はそういうノリってことで。

で、渡辺さんは案の定、ここでも音楽へのやたら強いコダワリを示す。
驚いたことに彼は、岡村靖幸、やくしまるえつこ、「TOKYO No.1 SOUL SET」の川辺ヒロシなど、総勢20名ほどで「スペースダンディバンド」を結成し、この作品の音楽担当をさせたんだわ。
あと、作中のダンスシーンに出てくるキャラだけの為に大友克洋にデザインを依頼したり、湯浅政明には宇宙人のデザインを依頼したり、そういう細部にわたってのコダワリがもうハンパない。
おカネ、どんだけかけてんのよ・・。
「お祭り」だからOK?
確か「スペースダンディ」って、それほどヒットしてないよね?
内容はハチャメチャで、確かに面白いんだけど。
それより、私がこの作品で最も感心したのは、回ごとにバラバラだった話を最後はうまいことひとつに収束させたことだよ。
ネタバレをしてしまうと、「これらは全てパラレルワールドなんです」的な多世界設定が終盤に出てきて、最終回はそこにひとつのケリをつけるという締めくくり方だった。
なるほど、バラバラにとっ散らかった話も、みんなパラレルワールドだからと言われちゃしようがない。
というかさ、このやり方って、BONESがこの作品の3年後に始動させた、「エウレカセブン」劇場版「ハイエボリューション」シリーズの元ネタじゃないの?
「ハイエボ」もまた、「これらは全てパラレルワールド」的多世界設定を「アネモネ」から急に後付けしてきたもんな・・。
意外と、「スペースダンディ」がBONES社内に与えた影響は我々が思うより大きかったのかもしれん。

さて、「カウボーイビバップ」に話を戻そう。
上の画像は、ネットフリックスが制作した実写版である。
私はこれを見てないから何とも言いようがないんだが、聞けば評判が悪く、すぐに打ち切りになったらしいじゃん。
見た感じ、スパイクが全然しっくりこないね。
やはり、アニメのあの雰囲気を出すのは難しいか・・。
声優的にも、山寺宏一と林原めぐみの組み合わせ、今考えると贅沢だよなぁ。
このてのハードボイルド系、もう流行らないという判断なのか知らんけど、最近はほとんどやらなくなってしまったね。
少し前までは結構あったんだけど。
・トライガン(1998年)
・NOIR(2001年)
・ガングレイヴ(2003年)
・GUNSLIGER GIRL(2003年)
・MADLAX(2004年)
・ガンソード(2005年)
・ブラックラグーン(2006年)
・Phantom(2009年)
・CANAAN(2009年)
・ヨルムンガンド(2011年)
・GANGSTA.(2015年)
・91days(2016年)
・ノーガンズライフ(2019年)
今思うと、00年代はガンアクションが多かったんだね。
でも今は、同じガンアクションでも「リコリスリコイル」みたいに可愛い系のアンチハードボイルド路線でしょ?
ジャズがかかってるような「カウボーイビバップ」的なのって、もはや時代遅れなのかなぁ・・。
あ、最近では「ルパン三世」の「LUPIN THE ⅢRD」シリーズがシブいよね。

「LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標」より

そう、もともとモンキーパンチ先生の「ルパン三世」はハードボイルド路線だったんだ。
それがいつの間にか、視聴者に迎合してマイルドになっちゃったわけよ。
それをここにきて、ぐっと原点に寄せたのが「LUPIN THE ⅢRD」シリーズである。
監督は小池健。
奇しくも彼は渡辺信一郎と同じく、ハリウッドの「アニマトリックス」にて監督を務めたひとりである。
ちなみに、「アニマトリックス」で監督を務めた日本人は5名。
・渡辺信一郎
・小池健
・前田真宏
・川尻善昭
・森本晃司
多分、この5人が当時アニメーター「日本代表」だったんだろう。
「マトリックス」のウォシャウスキー監督は押井守を直接口説いたところ、あっさり断られたらしいけど。
とにかく、「アニマトリックス」のアニメーターはいずれもが凄い人ばかりなので、これからもアニメを見る上で、彼らの名前はよく覚えておいてね。


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