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押井守「うる星やつら2」の精神は80年代OVAに受け継がれた

「うる星やつら」の映画といえば「ビューティフルドリーマー」があまりにも有名だけど、もうひとつ忘れちゃいかんのが劇場版シリーズ第1弾となる「オンリーユー」の存在である。
これも、押井守作品なんだよね。

押井守監督作品「オンリーユー」

しかし押井さんは、この作品を自ら「失敗作」と公言している。
皆さんは、この「オンリーユー」を見て失敗作と思ったかい?
私は、全くそう感じなかった。
というか、普通に面白かったよ。
事実、原作者の高橋留美子先生が珍しくも、この作品を絶賛してるほどなんだから。
だけど、あの巨匠がダメ出ししたんだよ。
巨匠とはいうまでもなく、宮崎駿のことね。
彼は「オンリーユー」を評して、こう言っている。

「パロディが映画を高めていない」
「時計塔に見覚えのある歯車が回っていて(『カリオストロの城』の)設定を盗んだ感じしかしない」
「戦争に加担しているラムたちが戦争に対して無感動」
「宇宙船の窓から戦争を見てるのに、その宇宙船には窓がない」
「冒頭のように宇宙船が日本に現れたら大騒ぎになるはず」

などなど、かなりボロクソに言ってくれてるわけさ(笑)。
このオッサン、「うる星やつら」の世界観を分かってて批判してんのかなぁ?
こんなの軽く聞き流せばいいのに、押井さんはマトモに受け止めたみたいだね。
一説によれば、彼はこれがキッカケで、しばらく宮崎邸に居候することになったとやら。
どうやら「オンリーユー」は制作スケジュールが僅か5ヵ月、また彼自身がテレビアニメ「うる星やつら」の監督業と兼任だったらしく、そういう部分で悔いが残ったんだろう。
で、「次こそ宮さんを黙らせる」と奮起し、今度こそ自分のやりたいようにやってやろうと意気込んで作ったのが「ビューティフルドリーマー」。

押井守監督作品「ビューティフルドリーマー」

で、この「ビューティフルドリーマー」の評価はどうだったのか?
業界の評判は上々だった。
興行収入もよかった。
さて、肝心の宮崎駿はどう評したのか?
これが不明である。
一方、今度は高橋留美子先生がキレたんだね・・。
彼女は映画を見終えた後、押井さんに
「人間性の違いです」
と、ひと言だけ言い残して去ったそうだ。
こっわ~(笑)。
やがて、押井さんは「うる星やつら」を降板し、スタジオぴえろも退社。
案外、ダメージ大きかったんじゃないか?

で、その後の押井さんが再起を図って作った作品が、↑↑の「天使のたまご」なんだ。
これ、見たことある?
見たことがないという人は、ネットで「Angel's egg」と検索してみて。
多分、無料フル動画を見れると思う。
押井さんとしては、「自分のやりたいようにやってやろう」と作った渾身の作品だったんだろうが、とにかく押井史上最難解の作品ともいわれていて、当時の業界の評判は「???」だったわけよ。
ちなみに、宮崎駿はこの作品を見て

「努力は評価するが、他人には通じない」
「戦車を出した以上は、巨砲をぶっ放せ」
「帰りのことなんて何も考えてない」
「あんなものよく作れた」
「頭がおかしい」

と言ったとされている。
・・おいおい、「オンリーユー」の時より酷いじゃん(笑)。
結果的に、押井さんはしばらく業界をホサれることになったらしい。
このへんの経緯に興味ある方は、こちらをどうぞ↓↓

さて、しばらく映画からもテレビからも見放された押井さんは、その後一体どこに活路を見出したのか?
それは、OVAである。
あ、OVAって分かる?
この時代に家庭用ビデオデッキが普及したことで、レンタルビデオ店が興隆したのね。
そこで映画・テレビだけじゃソフトが足りないから、ビデオ専用映画っぽい企画が出てきたんだ。
実写だと「Vシネマ」といって、ここで哀川翔や竹内力はメシを食ってたと思う。
当然アニメでもOVAの需要があって、有名なところではガイナックスの「トップをねらえ」はOVAだね。
映画・テレビに仕事のない押井さんは、当然のようにOVAでしばらくやっていくこととなった。
で、私はこの頃の押井さんの作品が意外と好きなのよ。
ひとつは、「トワイライトQ迷宮物件FILE538」

これが、なかなか押井さんらしい作風である。
「うる星やつら」のメガネじゃないが、小難しい語彙で延々と喋り続ける系の男が出てくる話で、ややノリが「ビューティフルドリーマー」っぽい。
マイナー作品だから、見たことない人も多いだろう。
ならば、ネットで「TWILIGHT Q」と検索してみて。
多分、無料フル動画を見れると思う。
作品はふたつあって、それの2作目の方が押井さんのやつ。
1時間にも満たない短い作品だが、十分押井さんっぽさを堪能できるはず。

じゃ、あともうひとつ、「御先祖様万々歳」も紹介しよう。

これも、なかなかいいんだよな~。
一部で「裏うる星やつら」とも称されるブラックコメディで、ちょっとしたカルト作品である。
見たことない人は、ネットで「GOSENZOSAMABANBANZAI」と検索してみて。
全6話。
「うる星やつら」は宇宙人のラムちゃんが諸星家に押し掛ける話だったが、「御先祖様万々歳」の方は未来人が主人公宅に押し掛けてくるという話。

いわゆる「会話劇」「密室劇」で、セットが固定された舞台劇のような作風になっている。
なぜか「うる星やつら」の声優たちがめっちゃ多く出ており、制作もなぜか「うる星やつら」のスタジオぴえろ。

基本ドタバタのコメディなんだが、こういうコメディのお約束はどんな騒動になっても次回には状況がリセットされるものだろうに、この作品の面白いところは騒動がリセットされず、少しずつ家庭が崩壊していくという流れになるんだ(笑)。
もとは普通の中流家庭だったのに、ヒロインの居候をキッカケに家を失い、
借金取りに追われ、借金を返す為に「海の家」で働いたりして・・。

働くのが海の家というところも「うる星やつら」っぽいんだよね

最終的に、家族ぐるみで窃盗をして生計を立てるところまで堕ちてしまう。
で、問題はヒロインの自称未来人、自称主人公の孫・麿子の正体である。

めっちゃ怪しい麿子

ネタバレすると、麿子の正体は最後まではっきりしない
いや、厳密にいうとふたつの説が作中で提示されるんだ。
①本当に未来人で、本当に主人公の未来の孫
②実は詐欺師

この①②、どっちとでも解釈をできる巧妙な脚本になっており、このへんはさすが押井さん、って感じ。
「どっちが正解かは、皆さんで考えてみて」という締め方なのさ。
しかも最終回のタイトルは「胡蝶の夢」、最後に眠る主人公の周りを蝶が舞って終劇となる。
うっわ~、思いっきり「ビューティフルドリーマー」じゃん?
さすが、「裏うる星やつら」といわれるだけのことはある。
ちなみに私の解釈は、①②両方とも正解の可能性があるのでは?というものである。
つまり、麿子は未来人でありつつ、詐欺師でもある。
そもそも、この話はタイムパラドックスが生じるSF構造になってるわけで、
・もし主人公とヒロインが結ばれなければ
⇒息子が生まれない⇒孫も生まれない⇒つまり、ヒロインは存在しない
・現実、主人公とヒロインは結ばれなかった(作中で証言あり)
⇒だから最終回、ヒロインは消えた⇒忌まわしいループ構造が終わった
という解釈でいいと思う。
まぁ、こういうのは「天使のたまご」と同様、本当の正解なんて分からないんだけどね。

さて、「御先祖様万々歳」とほぼ同時期に、押井さんはもうひとつの大事なOVAを制作していることを忘れてはならん。
それが、OVA版「パトレイバー」だよ。
皆さんは「パトレイバー」といえば89年のテレビアニメ版をイメージするかもしれんが、私、個人的には「パトレイバー」の正規ルートって
88年OVA版⇒89年劇場版⇒93年劇場版
だと思ってるのよ。
もうひとつ、
89年テレビアニメ版⇒90年OVA版
というルートもあるんだけど、こっちはまた別クチってことで。
結果的に、押井さんはこの「パトレイバー」でまた返り咲くことができた。
特に、一番最初のOVAの出来がよかったからこそなんだよ。
見てない人は、是非一回見てみて。
80年代のOVAは、なぜかワケのわからんエネルギーみたいなものを孕んでるんだよな~。
黎明期のパワーってやつ?
私、こういうの大好きなのよ。


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