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「映画大好きポンポさん」これほど熱い想いが詰まった映画はない!

皆さんは、CLAPというアニメ制作会社知ってる?
割と新しいところで、設立は2016年らしい。
ここは、これまで3本の劇場用アニメ作品を制作している。
7年半で3本の映画というペース。
新興会社ならテレビアニメの下請けニーズがありそうなもんだが、そういうのは、ほとんどやってないっぽい。
いまどき、ほぼ映画専門か・・?
珍しい会社だ。
私がCLAPを初めて知ったのは、「夏へのトンネル、さよならの出口」という映画を何気なく見たことに始まる。

「夏へのトンネル、さよならの出口」

この映画の率直な感想は、
新海誠っぽいな・・
という感じだった。
それも今の軟らかくなった新海誠じゃなく、「ほしのこえ」「秒速5センチメートル」など尖ってた頃の新海さん。
内容は亜空間の「ウラシマトンネル」が出てくる青春SFであり、また切ないラブストーリーでもある。
ひと昔前には数多くあった作風だけど、最近じゃこのてのやつもめっきり減ってきた感もあり、逆に新鮮さを感じたりもして。
監督は、田口智久さん。
まだ30代の若手だが、これまで「キノの旅」「アクダマドライブ」「BLEACH千年血戦篇」などの監督を手掛けており、キャリアは十分にある。
私はこの作品でCLAPを初めて知り、しかもこの会社が元マッドハウスの松尾亮一郎さんが独立して立ち上げたものだということを知った。
松尾さんはアニメーターでなく「プロデューサー」であって、彼がこれまで手掛けた作品をざっと挙げるなら、
・BLACKLAGOON
・マイマイ新子と千年の魔法
・この世界の片隅に

などであり、そのほとんどが片渕須直監督作品である。
つまり、松尾さんは丸山正雄プロデューサーの片腕的存在だったわけよ。
ほぉ、松尾さんって独立してたのか~、と思ってCLAPの過去作品を検索して見てみたところ、そこで「映画大好きポンポさん」という作品に出会うことになったのね。

「映画大好きポンポさん」

・・何これ?超傑作じゃん!
この作品は、敏腕の映画プロデューサー+新鋭の映画監督を主人公にした、いわゆる「お仕事系」アニメであり、やや「SHIROBAKO」に近いものがある。
監督は、平尾隆之さん。
彼はこれまで、1本のテレビアニメの監督、および4本のアニメ映画の監督を手掛けており、明らかに映画畑の人だろう。
で、問題はその1本のみ手掛けたことのある、テレビアニメのことさ。
どうやら彼は作家性の強い人らしく、初監督でいきなり脚本・音響・全話の絵コンテに至るまで、全部1人でやったわけよ。
で、その結果、脚本が間に合わず、途中から放送延期に・・(笑)。
結局彼は、会社(ufotable)を辞職・・。
この流れって、「ポンポさん」見た人なら分かるよね?
そう、「ポンポさん」の主人公の苦悩、そのまんまなのよ。
というか、この映画ってドキュメンタリーだったの(笑)?

「映画大好きポンポさん」のワンシーン

やはり、あれだね。
P.A.WORKSの看板企画、「お仕事」シリーズの中でも「SHIROBAKO」が群を抜いて面白いように、自分たち自身をその作品のキャラクターに投影させた作品というのは、やはり必然として傑作になるものである。
「ポンポさん」は、まさしくその典型。
本作に出てくる敏腕プロデューサー・ポンポさんは、松尾亮一郎社長の投影なの?
いや、そうじゃなく、彼の師匠・丸山正雄が投影されてるんじゃないかな。
未知数の若手を抜擢し、その上でムチャブリし、決して甘やかさずとことんまで追い詰めて、だけどそのケツはちゃんと拭く。
理想的なプロデューサー像が、この作品の中にある。

主人公・ジーン

この作品の主人公・ジーンはもともと映画オタクで、見ての通り、冴えない陰キャである。
彼は自身が冴えないことを自覚しており、彼をアシスタントとして採用してくれたポンポさんに「なぜ、自分を採ってくれたのか?」と尋ねるシーンがある。
その返答が、またいいんだよね~。

ああ、それは簡単だね。
何たってジーン君が一番ダントツで、眼に光が無かったからよ

続けて、ポンポさんはこう言う。

満たされた人間というのは、物の考え方が浅くなる。
幸福は、創造の敵

ほぉ~、と思わず感心してしまった。
業界人=ザギンにシースー行く?=リア充の集まり、と思わせといて、意外なリア充否定論。
人は誰しも幸福を追求してるというのに、まさかの幸福否定論。
でもこれ、真理かもしれないね。
リア充云々はともかくとして、一流クリエイターというのはどこか人として大きな欠落、あるいは闇を抱えてる者が多いとも聞く。
その大きな欠落の反動として大きな力を得て、つまり凹があるからこそ凸があるとでもいうべきか、ようするに人としては偏りがある分社交性に欠け、その本質は基本的に非リア充なものである、と。
うん、実は私も全く同じ考え方なんだよ。
基本、人間は幸福になる為に生まれてきたわけでもないと思うからね

ポンポさんは年齢不詳、レジェンド監督の孫として幼少より映画の英才教育を受けてきた人物
その幼少期は、意外と孤独だったのでは・・?
売れっ子女優のミスティア
いかにもリア充っぽいが、でも実はスマホを持ってない人だったりする

ポンポさんの金言は他にも色々あるんだが、特にこの作品の重要なくだりで、彼女が「長い映画は嫌い。90分ぐらいがいい」というのがあるのよ。
その理由のひとつとして、彼女はこう語っている。

2時間以上の集中を観客に求めるのは、現代の娯楽として優しくないわ

うん、これまた真理である。
これに対しジーンは「僕は3時間でも4時間でも平気」と言うんだが、それは映画マニアのロジック。
大多数の一般人が、それほど辛抱強いとも思えない。
ポンポさんの発言は昔からハリウッドでは映画学の基本とされてる考え方で、事実ハリウッド映画は観客の集中力を15分が上限だと規定しており、必ず15分毎に作中で「事件」が起きる脚本を徹底している。
15分というのはテレビならCMが挿入されるインターバルでもあり、我々は知らず知らずのうちに15分縛りで映像を見てるのよ。
テレビアニメがこれほど興隆したというのも、意外と30分間という短さあってのことかもしれんぞ?
ましてや、いまどきはスマホが過剰なまでに普及し、テレビを見る時ですらスマホを手放さないという、アンチ集中力の輩って意外と多いんじゃない?
いや、いまどきは15分どころか、TikTokのようなコンテンツが人気という現象を見るに、集中力ではせいぜい数分がゴールデンタイムといったところだろう。
そのぐらい、時代を経るごとに人の集中力は持続しなくなってきてるんだ。

事実、この「ポンポさん」の上映時間は94分。
前述の「夏へのトンネル、さよならの出口」は84分。
松尾プロデューサー自身、そこは徹底している様子。
「ポンポさん」のラスト、ジーンはインタビュアーに「本作の一番気に入っているところを教えていただけますか?」という問いに対し、
上映時間が、90分というところですね
と答え、そこで切り替わった画面がデジタル表示「90:00:00」ちょうどを示し、本当にこの映画がジャスト90分(エンドロール4分で合計94分)で制作されてた、というオシャレな構造に気付くわけよ。
作りが、マジうまいよな~。
多分、松尾亮一郎さんは今後も劇場用映画メインでCLAPを運営していくんだろうね。
その意気込みは、「ポンポさん」を見てると非常によく分かる。

・映画大好きポンポさん⇒興行収入2億円
・夏へのトンネル、さよならの出口⇒興行収入1億円

ぶっちゃけ、こういうので会社として利益を出せるのかはよく分からんが、それでも頑張っていってほしいと思う。
次にCLAPの新作が出たのなら、今度はちゃんと劇場に行こうかなぁ・・。


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