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小説まとめ

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今までにあげた小説です。ショートショートです。
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しかし、真実は他にある

早見青児は成績が優秀な子供ではなかった。
教育熱心な両親は彼に高度な教育を施し、TVや漫画など一切の娯楽を排したのに関わらず、彼の成績は平均を上回ることはなかった。

ある日、彼は友人の家へ遊びにいき、そこで初めて漫画を読んだ。
彼はある漫画に熱中し、約束の帰宅時間を過ぎても読むことをやめなかった。彼を夢中にさせたのは永井豪の漫画だった。
彼の母親が迎えにきて、禁じられていた漫画を読んだことがバレ

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相談

 彼がサナギになって、もう3日が経つ。
調べてみると、アゲハ蝶はサナギになってから10日間から14日間で蝶になるらしいから、まだまだサナギの状態は続きそうだ。

 彼と出会ったのは職場の図書館だった。彼は、閲覧者用の長机に数十冊の本を山積みにして、熱心にノートをとっていた。見た目はまだ10代かとも思えるほど幼かったけど、学生ではないようだった。平日でも開館から閉館まで、ずっといるのだ。
彼は異質な

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鳥(ペンギン)

 その日は、朝から嫌な予感がしていた。

 さわやかな朝ではあった。太陽は庭の芝生に適度な陽光をあびせ、風は強くもなく弱くもない力加減でウォーキング中の老人たちに対しての快適なサービスをわきまえていた。
そして、聞こえてくるのは子供たちが庭ではしゃいでいる声。まったくこの上なくさわやかな朝ではないか? ただし、小さな子供たちと一緒に遊んでいるのは、わが最愛の妻ではなく、ペンギンだった。

 夢かと

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青年は、その娘を見たときに胸の鼓動が高まるのを感じた。その娘がそばによってきたときには胸にあまい痛みを感じたし、ふと気づくとその娘を目で追っていることが多かった。

青年は直感した。これは「恋」である、と。

恋をすると、その異性に想いを伝えるのが世間一般であった。しかし、青年は考えた。その娘に想いを伝えるのはよい。しかし、その後にはなにが残るのだろうか。娘に拒絶された場合、これは言わずもがな、精

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あきの日

「あ~あ、なんか面白いことねえかな」

明良が半ば独り言のように声を発する。

彼からすれば、今日という日は彼の人生の中のなんてことのない一日で、特に記憶に残ることもなく、ただ「中学生だったころの一日」としてその他の日々と十把一絡げにされてしまうものだろう。

でも、僕にとっては少し、事情が違う。

「じゃあな。また明日」

明良と別れて僕は僕の家へと帰る。ここまでは昨日と同じ。いや、昨日までの日

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絵描きの一生

 病床の絵描きがあった。薄暗い病院の片隅のベッドで横たわる彼は孤独だった。人の目があったならば、彼は長患いの末に医者からも見放された存在なのだと見られたに違いない。しかし、その弱りきった外見からは意外に思われるが、彼が入院してからはわずか数週間しか経っていない。そして、医者から診断された彼の病は軽いものであった。

 彼はじっと目をつむっている。眠っているのではない。ただ、目をつむっているのだ。想

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観察力

 記念行事の代休で会社が休業日であることを忘れ、うっかり出社してしまった俺は、貴重な休日のひとときを無駄にしたことを悔やみ、平日の午前中、だれもいないオフィスで自分のデスクに腰掛けて頭を抱えていた。ひとしきり後悔した後で、時間を無駄にしたことを悔やむ時間が無駄であることに気づき、だれもいないオフィスで頭を抱えて後悔する行為を再開しようとしていたとき、ポケットにいれた携帯電話のバイブレーション音が鳴

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人魚が笑った

 学校からの帰り道、ぼくはおじいちゃんの家に寄っていくことにした。いつもは寄り道すると怒るお母さんもおじいちゃん家なら大丈夫。おばあちゃんが死んでしまってからはもうずいぶん時間が経つけど、いつまでもおじいちゃんは元気がないままだ。だから、お母さんには、おじいちゃんを元気づけてあげて、と言われている。それに、今日はいい報告があるから、おじいちゃんも喜んでくれるかもしれない。

「おお、よくきたな」

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煙の匂い

「……そんでな、煙の匂いで目が覚めたんだ。おれは昔っから匂いに敏感でよ。そのおかげであの大火事で命拾いしたって寸法よ……ん? なんだ?」

休憩時間、よく晴れた日の午後、大工稼業の先輩と雑談していると、女性の悲鳴らしきものが聞こえた。

「ちょっと、ぼくみてきます」

工事現場を離れて一般道路まで出てみると、路肩に乗用車が停まっていた。乗用車は激しく揺れており、断続的に女性のうめき声が聞こえてきた

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シチュエーション

「はぁ~、どうしよ」

「なに? どうかした?」

「みればわかるでしょ? 悩んでるのよ」

「ははあ、恋だな」

「ちがう」

「思春期の女子が悩むのは恋じゃないの?」

「あんたさぁ、それ、セクハラだからね」

「そういう君はモラハラだね」

「……モラハラってなに?」

「モラルハラスメント。不適切な言葉や態度で相手を傷つける行為、って感じかな」

「そんなことないです。わたしは先輩を尊敬し

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箱舟

 舟の上は多種多様な動物たちでごった返していた。この状態を例えるのならば敷地が小さい動物園とでもいえばいいのだろうか。しかし、動物園では動物たちは柵の内側にいるべきだが、ここでは完全に野放しだ。まあ、近頃の動物園ではふれあいコーナーとかいって動物たちを開放している一画もあったりするそうだが、飼育員の立ち合いがあるのだろうし、ふれあわせる動物もせいぜいハムスターやウサギなんかの小動物だろう。少なくと

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It's a small world !  第四話

 ヤナセ先生はそう言い終えると、もうこれで話は終わりだ、とでもいった感じに湯呑みにはいったお茶をすすった。ぼくは、なんだか長い夢をみていたかのようにぼーっとした頭のまま立ち上がり、軽くお辞儀をしてから先生の部屋から出た。

帰り道、ぼくはずっと考えていた。

つまるところ、先生の話はこういうことだ。人生は行くあてのない旅に似ていて、いくつもの分かれ道を判断基準も持てないままに選択しては進んでゆく…

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It's a small world !  第三話

……厳格な動作テストをクリアした後、R134号に仕事が与えられた。史上最高のロボットと名高いR134 号に何をさせるのかと世界中の注目が集まるなか、R134号に与えられた仕事は王国のお姫様の身辺警護だった。強大な力と明晰な頭脳をもつR134号にとって、それはあまりにも退屈な仕事のようだ。当時の王国は平穏そのもので、お姫様の警護に最高のロボットが必要とは思えなかった。実際、R134号の使い道に疑問を

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It's a small world !  第二話

 ヤナセ先生は古びた2階建ての木造アパートに住んでいた。外装から考えると意外に中はきれいで、先生の部屋は八畳間のワンルームで整然と片づけられていた。中年男性の一人暮らしというものはもっと乱雑で不衛生なものかと思っていたのだけど、やはり聖職者だけあって私生活にも気遣われているということだろうか、と、思ってから、気がついたのだけど、先生の部屋にはほとんど家具や電化製品が見当たらない。本当にここで生活し

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