不登校_特殊支援学級

発達障害に対して社会はどう変わるべきか 2

大人のADHDが多い国?

 岩波明先生の『大人のADHD』という本の中にWHOの調査による成人のADHDの有病率が載っています。母数が少ない点は気になりますが、結果は大変興味深いものになっています。


 世界平均で成人のADHDの割合は3%なのですが、コロンビア、レバノン、メキシコなどでは2%を下回ります。中南米や中東の国々ではまだ疾病概念が伝わりきっていないのかもしれません。一方で5%を越えるのはアメリカ、オランダ、フランスです。
 アメリカは服薬が文化として定着してるからと考えられます。フランスが7%と突出して高いのが不明ですが、『フランスの子どもは夜泣きをしない パリ発「子育て」の秘密』によると、フランスでは子どもを自律できる存在として子育てをするという文化があるそうなので、その影響があるのかもしれません。


 私が気になったのはオランダです。オランダはイエナプランなどの先進的な教育が多く、とても教育に手厚い国です。生徒一人一人に合わせた個別教育に近い形を取っていて、教育世界一との呼び声高い国です。個人個人に様々な配慮をしながら勉強ができるので、発達障害があって勉強に困難がある子もわざわざ診断を受ける必要はない。私はそう思っていました。


 そんなオランダでADHDの診断が世界平均より多いかもしれない。これをどうとらえたらいいでしょうか。これはおそらくですが、発達障害の診断を受けても受けなくても誰もが必要な手立てを受けられる教育環境では発達障害の診断を受けることに後ろめたさがないのかもしれません。そういったスティグマがないことによって、病院等に行って診断を受けることの抵抗感が少なく、結果として発達障害が増えているのではないかと考えます。


DSM-∨の大きな変更点

 一章で取り上げた精神疾患の診断マニュアルDSMですが、4年前に改訂されてDSM-∨になりました。改訂によって疾病の定義が変わったり、新たな病気が生まれたりするのですが、今回の日本版の改訂では全ての疾病に関わる密かな、でも大きな変更がありました。
 今までDSMの全ての疾病は病気という意味のdisorderという単語が末尾についていて、これを日本版では障害と訳していました。うつ病は気分障害、ADHDは注意欠陥・多動性障害となります。意外に思われるかもしれませんが、DSM上ではうつ病もADHDも同じdisorderという枠組みのものになります。病気と障害に分かれません。これがDSM-∨から全ての疾病に障害と症が併記されるようになりました。ADHDは注意欠如・多動症/注意欠如多動性障害の両方の名前がついています。
 障害という言葉が持つ特別で固定されたものというイメージと、症という言葉が持つイメージはかなり違うはずです。病気というのはとても重い人から軽い人まで様々であり、そういった重さや種類によって同じ疾病でも障害というイメージが近い場合や症というイメージが近い場合もあるように思えます。発達障害も重めの人には障害という言葉が近く、軽めの人には症という言葉が近いとも言えるのではないでしょうか。
 『大人のADHDは』では表紙にこのような文章が書いてあります。

 ADHDは不思議な疾患である。あるいは疾患というのも、適切でないかもしれない。むしろ、その人の「特質」や「性質」と言ったほうがよい部分もみられる。診断基準に基づくADHDの有病率はかなりの高率である。​

 この本の作者である岩波明先生はADHDをいわゆる障害という枠よりかなり広めに取っていることが伺われます。
 全ての発達障害を障害という枠でとらえると齟齬が生じてしまいます。診断はもっと広い概念でつけられている場合があるのです。
 スペクトラムであるべきは診断以上にそれを受け入れる社会こそあるべきなのです。


『自分や子どもが発達障害かもしれないと思った時に 1』に続きます。


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