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君がその宝毛をなくしても

息子4歳。ルーティンを大切にする男。
毎朝・毎晩ヨーグルトを召し上がる。
外から帰ったら手を洗いうがいをする。
牛乳をぐびぐび飲み、眠る時は「今夜のおとも(おもちゃ)」を選ぶ。
そしておともを抱きしめて(あるいは窓辺に飾って)眠る。
小さな一重まぶたはぽってりしていて、私の小さい頃の目に似ている。

ここ半年、急に恐竜にはまって「ティラノサウルス」「トリケラトプス」など難解極まりない折り紙をリクエストしてくるようになった。
そうすると、ただでさえへとへとな一日の終わりにyoutubeをにらみながら恐竜を絞り出すように生み出すという苦行を強いられる。
4歳の口から「パラサウロロフス」「アンキロサウルス」「パキケファロサウルス」いう単語が発されることのシュールさにも慣れてしまった。
ただ。
「ステゴサウルス」のことを「ステゴ」と呼び、それもだんだんこなれてきて「Stay Gold」と聞こえるので、それにはこっそり笑ってしまう。

少し前。
彼のおへその下に、金色の細くて長いいわゆる「宝毛」が生えていることに気がついた。
検索すると、おなかの宝毛は【恋愛運】と【健康運】に恵まれるとのことだった。
迷信だけど。
今日も無事。と、私には風呂上りに宝毛を確認するルーティンができてしまった。

先日。
彼がいつも通り風呂上りのヨーグルトを平らげている時、それは突然降りてきた。
【しあわせなおじいさんになってほしいな】
天の啓示のようなひらめき。
彼の【おじいさん】姿を想像するのはちょっと難しい。
しわひとつないぷにぷにの肌に金色の産毛が輝いている。

しかし【しあわせ】とは?という疑問が浮かぶ。
私の人生はその大半、【失敗】【うっかり】【恥】で形成されているけど。
【ふしあわせ】と言えるほどの悲しみを知らないことにしばし恥じ入る。
思えば、たくさんのしあわせをもらうばかりで、気づかないうちに誰かをふしあわせにしてきたのかもしれない。
そんな自分の半生を置いておいても、彼に長生きしてほしいと願うのは親のエゴだろうか?

でもせっかく降りてきたのだ。
しみじみともう一度、啓示をなぞることにした。
【しあわせなおじいさんになってほしいな】
明日も明後日も。
ささやかなルーティンにあふれた彼の毎日が、どうかたのしい時間でありますように。
新しいルーティンができたり、大事だったルーティンを忘れたり、誰かと新しいルーティンを共有したりしますように。
そうして結果的に、しあわせなおじいさんになれますように。

君がその宝毛をなくしても。
母さんは君のしあわせを願っているよ。
必要とあらば、恐竜たちを生み出すことも厭わない。

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