【映画評】「トリコロール 赤の愛」 博愛の名のもとに
Trois Couleurs: Rouge
1990年代初頭に、フランス政府の依頼を受けたポーランドの映画監督クシシュトフ・キェシロフスキが1993年に発表した
『トリコロール 赤の愛』
フランス国旗の赤は『博愛』を象徴し、キェシロフスキはそれを「全てを包みこむ愛」と解した
スイス、ジュネーブに暮らすヴァランティーヌは大学へ通いながら、モデルとして生計をたてていた
遠いドーヴァー海峡の向こうに住む恋人は、嫉妬心が深くいつも彼女の浮気を疑ってばかりで、彼女自身も彼への愛を疑いはじめていた
ある夜に、車を運転していたヴァランティーヌは塗れた歩道で誤って犬を轢いて怪我をさせてしまい、その犬の首についていた住所札を見て訪ねていったとき、この「博愛」の物語は静かにはじまる
そこに住んでいたのは、孤老の元判事
小さなグラスで梨酒を飲みながら、盗聴器を使い近隣住人の盗聴をする人間不信の固まりのような老人でー
ヴァランティーヌは何度もここへ通い、止めさせようと懇願するが老人は決して聞き入れない
老人は博愛を偽善、とまで断じるが次第にヴァランティーヌにだけは心を開き始め・・・
物語が佳境へ向かう中、次第に老人の判事時代の過去が明らかになっていき
同時に【トリコロール三部作】の各主人公たちが偶然にも交差する運命のクライマックスに向かっていく
監督のキェシロフスキは本作を発表後の1996年に心臓発作で急逝ー
”偶然がもたらす運命のようなもの”をテーマに撮り続けてきた彼の最後の作品が、「全てを包み込む愛」の本作であるということも興味深い
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