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「秘する女神のコラージュ」のから

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幻想の都市を漂う女達と、三人の幸福で不幸な少女達をプレイポエム的散文と詩で書いた「秘する女神のコラージュ」より、。(本編全七)〈全七章内第七章は詩集〉 noteでは読みやすいも… もっと読む
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秘する女神のコラージュ〈6 秘する水鏡に降り頻る〉

 私達の建物は私達の努力によって自壊している、丸で一つの主題が展開によって逆転する様に、然し、回転しない旋律を私達は求めているだろうか、永遠を求めている時、其は永遠の終わりすら求めている。私達は何時安定したのだろう、此の、常に不定たる循環を内包した波の、何処に平面を求めるのだ。だから今日、此の世は終わりつつ在り、昨日から世界は目覚め始めていて、此処は始まりと終わりの交差点なのだ。雨は降り、水面には無数の波が立つ、だが其の内のどれを今と呼び、どれを私と呼ぶのだろう、耳を澄ませば

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秘する女神のコラージュ〈5 〈鏡ガエリ〉の女〉

〈4…〉  雨が降る度に光から熱は冷めて行き、或る日、空は夏である事をやめた。投げ上げられた物が落ちて来る様に、新鮮なものが枯れる様に、《其がやがて朽ちる様に》、私は私の主人公性に飽きている。何をすれば其程に生きる事に夢中になれるのか、《どうして其だけ必死になれるのか》《一体何が面白いのか》、私には見当が付かない、退屈で在る事を認めても、私は私のルールの中でもがき続けている。  夕闇に降る雨は涼しく、街灯は色を変えつつあるユリノキを色褪せて見せている。  《丸で、先延ばしに

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秘する女神のコラージュ〈4 分裂の波、分析の檻〉

〈3…〉  夏の空が沢山の蝉の声を降らせている、其は水溜まりに叩き付けられていて、響き渡り、何者かを恍惚とさせ、掻き回している、空はギラギラとした生身の光を露出させ、一つ一つの事物が激しい回転の震えである。五月女真糸は目黒区に在るカフェ宿り木へと向かっていた。  あらゆるものが、生き物が、叫んでいる、真糸は思った、生きていると叫んでいる、生きているのが苦しいと叫んでいる、欲望は満たされず、穴は塞がれるより先に吸い込んでいて、冒険者は見た事が在る冒険を、見た事が無い振りをして

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秘する女神のコラージュ〈3 階段を昇る雨〉

〈2…〉     其の街は階段で出来ている、建物と建物の間には用途の判らない階段が敷き詰められて、建物から出ると、下り階段を下り、次の建物へ辿り着く前に、上り階段が始まり、次の建物へ入る時は、建物の二階や三階に辿り着く、其の様な街である。窓から見えるローズゼラニウムは花を付け薫り、壁を這うブーゲンビリアは炎の様に咲き、空は狂った様に晴れていて、鳥は絶え間なく唄っている。彼女は色彩楽譜の複製を作っていた、広げられた色彩楽譜をマニュアル通りに模倣し続けている。夏の小花を細かくグ

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秘する女神のコラージュ〈2 呪いと乙女、祈りの娘〉

 2 呪いと乙女、祈りの娘 〈1…〉  彼女はベッドに横になっていた。鉄筋の冷たいアパートの一室、夜明け前らしく辺りは暗い、床は木目が豊かなフローリングである、家具は殆ど無いが分不相応に大きな鏡台が置かれていて其処には火の付けられた蠟燭が置かれていた。部屋の壁は無数のスワッグが飾られていて、其等は暗闇の中、小さい光を集めて輝いている。ガラス瓶には大きな薔薇の花束が飾られていて、部屋は植物の薫りに包まれているが、気付くと耐え難い程の寒さが彼女の肌を舐めた。彼女は起き上がり、

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結び先の無い首輪

 其自体で自殺する事も出来る結び先の無い首輪は、  仮面の利己性と利他性の、丁度中間に出来る、  「誰かの為に」と書き換えられた鏡による、  生きる事を強制する理由とシステム。  此等互いに自縛するもの廻る、咽び泣く儚い虫は、  自己の存在理由を巻き付ける宿り木、  其を折るとどうなるのかを君は知っている、  生贄は常に、誰かの所為になる。  名声や名誉と云う、巻き付き先で、  君の人格が固定化出来たとして、  君の内側が表現される事は無い、  巻き付く先は常に、輪の外部

鏡ガエリ

 自らの喉に自らを飲み干し、  静かなる穴に咲く花を吸い込む、  此の瞬間に汲み取られない女神が、  眠り水から詩(し)の体を裏返す。    水面の裏は如何なる雨で刻まれるのか、  自らの目覚めに帰る、  死す裸を禁じるだろうか、  あらゆるものを拒める此の鏡の中で。  あらゆるものを纏える此の御腹の中で、  蛹を殻とする其の情熱で自らを味として、  萌葱(もえぎ)色の脱殻は紐解けて行く。  地上へと叩き付けている雨が、  雨傘の痛みを問えない様に、  今、君は理由から自

白紙のコラージュ

 白紙の上、雪原の上に、  私達は化粧をする。  穢れた白紙、穢した白痴、  足跡の無い雪原を描きながら、  此の制圧の言語、征服の活字、  其で描けないものの読めない詩の、  度々なぞられた柔肌のペースト、  白紙のコラージュのなぞられた謎の上の白紙。  命名、成されていない、  私、と云う、私と命名、  成されていない私と云う命名、  征服された白紙に降る雪と、  降る雪に征服された白紙と、  白紙に雪降る、征服された私の失明のコラージュ。

雨通り

 雨を見聞きするのに、  一点の光も必要ではない、  此の雨通りの良い部屋の、  何処に燭台が在るのだろう。  此の薄闇の建物の水面を打つ、  幾つもの時を、  〈想起=オルガン〉に注ぎ、  其の即興を〈織り=折り〉祈るのみ。  夢想の中には屋根は無く、  有り余る時が打ち付ける痛みが、  囀り続けて、  雨が入るなり、  一時も待たずに消えて行く、  私達の枕の下へ。

幻在Δ幻実(ゲンザイゲンジツ)

 未来と云う時は記憶ではない、  其は過去に在った如何なるものとも異質である波、  此の瞬間と云う器で分化される一つの雨の様なもの、  そして、其は分化されていない水面に降れば、幾つもの雨となる。  では、此の雨、  一切の分化の無い、降って来るモノリスを、  一体何と呼ぼうか。  どうせ砕けてしまうなら、何かと同じ様な名を与えてくれ。  〈幻在〉《〈現在∧現実〉に降って来るもの》  私は確かには無く、幾つもの場に非現前的に在り、  そして、如何なる〈現在∧現実〉にも、

浴槽と抑制

 浴槽に横たわる欲動、満たされた雪は溶けて行く、  体内に流れる大河は何一つ解決しない、  問題としての読書だ。  此の水面に降る雪は捩じれている。  水面は己を問わない、其は、  映し出す何者かが居ると云う問いで在り、  単一で在り続ける限り、  安らかに眠り続ける。  音無き声は、  言葉達の模倣の渦から、  生まれ出る独り言。  其が音無き独り言と云う、  適度に抑制された狂気として、  正気は演じられる容貌の鏡の制度。

希生念慮

 どうして、自ら死ぬのだろう、と問う人は、  同じく、どうして自ら生きているのだろう、と問えるのだろうか、  つまり、理由無く死を求めるのは、  生きる事に、そもそも、理由が必要無いからである。  誰かの為に生きる、とか、  自分が自分で在る為に、とか、  幻想が、無自覚な嘘であると云う事に、  気付けないだけなのだ。  平均化された人の群は、  生きている事に何等かの意味や価値が在り、  だから生きていると云い聞かせている、云い訳だ、  群とは病巣其のものに成り得るのに

ヒナヒナ

 ヒナヒナの高鳴り瞬きの柔らかい、  此の未来の稲光を奏でたい、  囀る琥珀は日差しに飛び込んだ擬態の余白、  潜んでいる煌びやかなオルガンを燃やす。  キラキラの羽ばたき、未だにヒソヒソと囁き、  飛来で支配して行く痛みの睨み合いを、  遮る小松菜で雨宿り、木陰に満ちる鼓膜は、  染まる内側に、魅せられた蛍を飛ばす。  決まりの無い向日葵の様なヒナヒナ、  気ままにポケットに這入り込むスヤスヤ、  生え変わる産毛は、宛(さなが)ら、華やかな日溜りの様だ。  光りな、翳

朽ちる月を去る裏

 百舌鳥が舐める八分音符が不純な綻びを包んだ、  捩じり出す愛撫の細部が散る瞬間、  朽ちる月を去る裏、滅ぼすより先に約束で、  締め上げた睡蓮の、破片、暴れる飢えを背負う。  渦を成せる開口部の矛盾と慄きの部分、  作り出す合図、さらば落ちる円環、体散る沿岸の、  口付けをするウロボロスより咲く収束と、  尽き果てた永遠の、火炎を、奏でる笛を吹く。  肛門に焼ける様に互いを吐き、  境は鏡を飲み込んで、交わり、混ざり、絡み合い、  互いが花火の奏者の様だ。  此の共存