見出し画像

胃弱のパンとパスタ

ひとつの体を見つめることが大事なのだと思う

「舌に苦手な食べ物があるように体が苦手な食べ物がある」
という概念に気が付いた

一旦しっかりと壊すと今や体と真摯に向き合っている
愛煙家の祖父が癌になってぱたりと止めたようなそれに近い

グルテンフリーという食事法も耳慣れて久しい
健康な肉体にあぐらをかいて「体なんて滅びてしまえ」
と生きてきた私はどこか無関係と決め込んでいた

一年前スピードスケートの小平奈緒選手の引退会見
何を食べたいかという記者の質問に対して
 美味しいパンやパスタを食べたい
 アレルギーではないけれど小麦が体に合わなかったので控えていた
という趣旨のことを語っていて
小さくハッととした

麦酒が一番好きなのに日本酒の方が体に合っている
という認識はあった
悪酔いしないし胃が痛まない
幼少期から万年胃弱で
一缶で翌朝にはほのかに口から悪臭を放って苦しんでいる
口臭って音の無い悲鳴だったのだな

グルテンは粘ついて腸を苦しめるそうな
砂糖は知っていたけれどこちらも血糖値を乱高下させるらしい
依存性があることはぼんやり知っていたものの驚いた
グルテンとモルヒネが類似したアミノ酸配列うんぬんで
身体が薬物を摂取したときと似た反応をするようだ

家庭科や理科やら保健の先生には
そんなの常識よ
とからかわれてしまうかしら

夏目漱石の胃袋をイギリスでぶっ壊して神経衰弱させたのも
グルテンだったのかもしれない

過敏性腸症候群らしきあの生徒
もしやグルテンが合わない体質だったのではなかろうか

試しに麦酒パンパスタやケーキを控えて一年

慢性的な胃痛が無くなり口臭も落ち着いた
便秘知らずで腐心していたお腹のガスも溜まらない
他の健康投資も功を奏しているのだろうけど
血糖値がなだらかだからか
苛立ちやP M S(月経前症候群)も大分マシ

胃腸が健康を取り戻した今初めて知る
私は体に無頓着な不健康だったのだ

ファストフードも日常的に食べていたときには
食べたくてたまらない気持ちになることが多かったのに
今はお店の前を通っても特別そそられない
3、4ヶ月に一度ほど食べたくなって口にすると
とっても美味しい
でもお腹が張るような飽満感は強いくせに満腹感が得られない
何より一度食べるとまた頻繁に食べたくなる
この欲が煩わしいのだ
1〜2週間かけて欲を制すると
再びすんっとバーガー欲が消え失せる
何せその葛藤や抑制が苦しくて面倒で
小さく食べたい気持ちが芽生えても
あの感覚に振り回されるあまりのけだるさに
大して苦にもせずお見送りすることができる

久々にパンやパスタを食べると
ブランチから夕刻まで腹部の飽満感が続く
悪戦苦闘しているのだ
“パンは腹持ちが悪い”という認識だったのに
胃袋で悪くとも腸では良いらしい
皮肉
こちらもなんだか苦しいなと気付けば
度々食べたいとは思わなくなった
時たまコンビニのパンを食べると美味しいと感じるし
洒落た店でパスタを食べれば舌も気分も満たされる

神経質に全て断とうとは思わない
日常的に控えめで食べたいときに愉しむ
普段控えているぶん
最安値の食パンの代わりに
なるべく体に良い素材のものを一斤買って
切り分けて冷凍しておく
口恋しくなったときに
評判のパン屋の菓子パンや惣菜パンを頬張る
そんな風にしてお付き合いしたいと思う

この地でもお気に入りのパン屋が見つかりますように

あの子もいつか気付くだろうか
あの頃の私が知っていたら伝えられたのに

生きる糧