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【詩】少女

少女はひとり
夜明けの緑の丘を駆ける
薄衣の 花柄のドレスで
緑の丘を駆ける 駆ける

群青の空は
下方から オレンジ色に燃え始め
その日の最初の光が
世界を覆ってゆく

少女はひとり
町を見下ろす丘の頂で
胸に手を組み
か弱き声で 歌う

誰にも知られず
誰にも聞かれず
か弱く細い その歌声は
夜明けの光に包まれる

熱せられゆく緑の丘
大地を踏みしめる両の足
声はしだいに 体の奥から溢れ出し
溢れ出す声は 力を帯びて放たれる

少女は目を閉じ
体じゅうのエネルギーを 歌声に変えて
大地を震わせ
薄衣のドレスは はためき

そして 声が天を貫くとき
侵食されつつある群青の空は
ひび割れて ガラスのように砕け落ち
丘に 町に 矢のごとく降り注いだ

新しい朝は 歩みを止めた
空が割れたなら 旧世界の朝は要らぬ
砕けた空の彼方から
新たな空が現われるだろう

夜明けの 緑の丘で
誰にも知られず
少女は世界を打ち壊した
新しい空は 何色だろうか
 



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