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映画の感想文

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映画の感想備忘録
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【生きる LIVING】感想文

【生きる LIVING】感想文

 黒澤明監督の「生きる」のリメイク作品。
 本家を鑑賞したことがないので、純粋にこの作品の感想を書きます。

【静的描写が雄弁な映画】 本当にこういう映画好き。

 多くは語らない、ストーリーの余白もあんまりちゃんと説明されない、大きな事件も起こらない。丁寧にくどいほど描かれる日常の様子が、静的な主題のストーリーを自然に引き立たせる。

 誰も声を荒げないし、わかりやすい自己主張はしない。それでも

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映画『BABYLON バビロン』感想文

映画『BABYLON バビロン』感想文

「バビロン」を観た感想 多分だけど、映画好きにこそ刺さる。
 公開初日に映画館に観に行って、衝撃的だったし感銘を受けたけど、もし、私がもっと映画を好きだったら、映画の歴史に詳しかったら、さらに自分の心を動かす作品になったんじゃないかなと思った。
 ハリウッドの輝かしい歴史、サイレントからトーキーへの転換期を舞台とした作品で、何よりもデイミアン・チャゼル監督自身の映画への愛を強く感じた。
 「ラ・ラ

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【ラ・ラ・ランド】何回でも観たい映画

【ラ・ラ・ランド】何回でも観たい映画

デミアン・チャゼル監督の最新作「バビロン」の公開記念で、2月3日から1週間限定で「ラ・ラ・ランド」と「セッション」が全国の劇場で再上映されていた。「全国で再上映」って盛大に謳われていたけど、蓋開けてみたらセッションなんて東京と大阪と愛知でしかやってなくて、全国とは…?って感じだったけど。

初めて鑑賞した時に、映画館で見たかったなあと強く思った「セッション」を狙って国試が終わって慌てて帰省したのだ

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【すずめの戸締まり】感想と考察

【すずめの戸締まり】感想と考察

私がこの映画を見ていない人に向けたコピーを作るなら「行ってきます」「行ってらっしゃい」と言葉交わせる日常の、なんと幸福なことか。
突如として人々の日常を奪い去る神の意志の、なんと残酷で気まぐれなことか。
すずめが震災を経験した幼少期に、黒く塗りつぶした日記帳の描写に心が痛んだ。
先の見えない苦しみの中で、他人の「大丈夫」が無責任に聞こえることもある。
どれだけ時間が経とうとも癒えない傷もあるかもし

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【紅の豚】感想文

【紅の豚】感想文

めちゃくちゃよかった。会話もテンポも小気味良く、クスッと笑える場面が多い。
画面の色味も質感も遊び心に溢れていて、見ている間ずっと楽しかった。
作品の根底に優しさが流れていて、登場人物にそれぞれの美学があり、描かれる人間関係は心意気に溢れている。

この物語の舞台は第二次世界大戦前のイタリア。恐慌の波が広がりつつあり、ファシスト党の独裁下で不穏な雰囲気漂う社会の中で、
海や空を飛び回る飛行艇乗りの

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【風立ちぬ】感想文

【風立ちぬ】感想文

素晴らしかった。
江戸から昭和へ、関東大震災や第二次世界大戦を経て大きく移りゆく時代の中で、
強い信念を持って生きた人たちの物語。
でもこれは単純な戦争映画ではないし、困難に努力で打ち勝っていく物語でもない。

たしかに大変な時代を生きた人たちの物語であるはずなのに、自分の生活を恨む気持ちとか、
世知辛さに対する憤りとか、戦争や兵器に対する善悪の感覚とかは、ほとんど描かれていない。
“この時代を生

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【花束みたいな恋をした】感想文

【花束みたいな恋をした】感想文

「ワンオクとか聴くのか?」
「聴けます」
という問答がとても象徴的。
天竺鼠、今村夏子や穂村弘、長嶋有、きのこ帝国・・・こういう固有名詞抜きでは彼らの個性は語れない。
周りの人に「拗らせた」って言われそうな、当の本人たちはそう言うしかない周りを見下しているような、
現代にありがちな若者2人が主人公の恋物語。

出会いの場面では、2人の似たもの同士具合が、鬱陶しいくらいしつこく描かれる。
その描写は

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【罪の声】感想文

【罪の声】感想文

感想文

35年前の未解決事件を追うミステリー。
ミステリーというより、ヒューマンサスペンスと言ったほうが適切なのかもしれないけど。

当然、地道な取材を繰り返して事件の真相に近づいていくという、映画にするのは難しいようにも思えるストーリーなんだけど、それを飽きないように纏め上げた構成が見事。純粋に面白かった。

事件の裏には、関わった人間がいる。起こった事実をそのまま文字で書きあげただけでは、語

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【ジョーカー】感想文

壮絶。見ていて苦しい映画は沢山あるけど、この映画は別格だった。
純粋で心優しい一人の人間が、狂気的な殺人者に堕ちるというのは、どれほどことなのか。最悪の犯罪者であるジョーカーに、救われて欲しいと願わずにはいられない。

ジョーカーの不幸な境遇と、音楽と衣装が生み出す軽快な可笑しさ。そのアンバランスさが絶妙に気持ち悪い。
ダンスのシーンが印象的だった。底の見えない狂気の解放は、不気味にしてどこか美し

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【シンドラーのリスト】感想文

【シンドラーのリスト】感想文

リアルな描写に何度も息を呑んだ。
この映画を観たことは、私にとって一種の体験になった。

凄惨な歴史に基づく映画を作ることは、生半可な覚悟では許されないことだったろう。
ユダヤ人の大虐殺という重い題材と真摯に向き合い、この映画を作り上げたスピルバーグ監督に心からの敬意を。
「面白い」とか「感動した」とか単純な言葉では語れないが、本当に、素晴らしい映画だった。

お金は灰色、銃の光は白、光と影を表す

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【秒速5センチメートル】感想文

ただただ美しい作品。後からせつなさが募る。エンドロールでじわじわと胸が締め付けられた。これは切ない。
光を反射する日常の景色の全てを美しく描く、光彩陸離な映像が醍醐味の新海さんの作品。
誰にでもある眩い青春の記憶は、取り戻せないが故に何よりも美しい。
それを表現するに相応しい映像美に見惚れてしまった。音楽も素晴らしい。

茫漠とした未来に、無限の希望と不安を見た13歳。
あの時には二度と戻れないの

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【アバウト・タイム】感想文

良い話だった。勿論素晴らしいラブストーリーだが、多分これは「恋」の話というよりは、「愛」の話だと思う。

ストーリーがとても良く出来ている。
ある特別な力を持った男の話なのだが、ファンタジーではない。
描いているのは、ごく日常の幸せばかり。

あなたがもし過去に戻る力を手に入れたら、どうするだろう?間違えた過去をやり直すのに使うだろうか?楽しかった過去を繰り返すのに使うだろうか?

彼が最後に私達

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【ハクソー・リッジ】感想文

凄まじい戦争映画。
これを映画館で見ていたら果たして画面を直視し続けられただろうかと思うほどの、圧倒的な臨場感。

前半の楽しそうな会話、厳しくもやる気に満ち溢れた志願兵の訓練シーンがゆっくりと描かれているだけに、後半の戦争描写の衝撃が引き立つ。
え、ここで?始まるの?みたいな。あまりにも簡単に人が死んでいく様が、戦争映画として逆にリアルで目を逸らしたくなった。

戦争の中で、‘殺さない決意’を貫

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【ホテル・ルワンダ】感想文

 衝撃。
 この映画が1994年に実際に起こった虐殺を描いたものであるという事実が、重く心にのしかかる。
 映画としての評価だけではこのルワンダ内戦については語りきれないとは思うが、目を逸らしたくなるような過去の現実を、この映画を通して私達は知ることが出来る。

 ルワンダ内戦の惨状だけでなく、それに対する世界、ひいては私たちの姿勢についても深く考えさせられる。
 国連は外国人だけ助け、ルワンダを

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