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レモン調査員

海が向こうに見える市場の果物屋。平凡な毎日を送りながらお店を手伝う私の前に現れたのは、防護服を着たレモンでした。


そのレモンさんはお店に置いてある山盛りのレモンからひとつを選んで手に持ち、妙な機械を使って色んな事を調べ始めました。

「んー、これはこれは、上質なレモンですねぇ。食べる前から爽やかな香りがします。しかも完全無農薬でありながらこの綺麗さ、近場に良い農家があるようですねぇ。大変興味をそそられる。おっと、お嬢さん。品物にベタベタと触って失礼しました。このレモン、いただいてもよろしいでしょうか?」

そういうとレモンさんは私にお金を手渡し、その場で種もとらず皮ごとレモンを食べ始めました。市場の人々が「なんだコイツ。」という視線で彼を見る中、私はお金をしまい勇気を出して声をかけました。

「あ、あのー、、、。」

「おや、もしかして足りませんでしたか?」

「あ、いえ!ピッタリでした!その、この辺じゃ見かけない人だと思いまして。」

「なるほど、私がイケメンすぎると。」

「あ、違います。」

するとレモンさんは私に名刺を渡してきました。

「えーと、果物調査機関、レモン調査員?レモンが名前なんですか?」

「えぇ。レモンでありながら名前もレモンです。同期の職員にブドウくんとイチゴちゃんがいます。まぁ皆さんでいうところの果物人ですよ。」

「いやそんな人種知らないです!果物調査機関って何を調査するんですか?」

「果物の美味しさを調査する機関です。」

「(果物が果物食べて調べるんだ。)じゃあレモンさんはレモン担当なんですか?」

「同じ種の果物は生まれながら理解しているので担当もそうなる事が多いんですよ。あ、そこのイチゴもくれますか?」

「え、あ。イチゴも食べられるんですか?」

「えぇ。何か問題でも?」

「あ、その、イチゴも担当されてるんだなと。」

「いえ、イチゴの調査は勝手にやってるものです。」

「え!?それって何か意味あるんですか?機関から報酬が倍になるとか、評価が上がるとか。」

「なにも起こりませんよ。私が好きでやってる訳ですし。なんですか?レモンがイチゴ調査してなんか悪いですか?ケンカ売ってます?ババ抜きなら負けませんよ?お?」

「急にキレないでください!別にケンカ売ったわけじゃありませんよ。ただ、、、。」

私が下を向いて黙りながらイチゴを紙袋に詰めると、レモンさんは落ち着いた声で私に聞きました。

「お嬢さん、この仕事嫌いなのでは?」

「え!?なんでそう思ったんですか?」

「いえ、あんまり笑わないなぁって思って。市場の人は笑いながら接客していて、この場所が好きだとわかりますが、あなたからはそれが感じられなくて。」

「そんな事ないですよ!この市場、海が見えるから大好きで、、、。」

レモンさんはため息を吐きながら私にお金を払い、イチゴを手に取りました。

「海が好きなら、もっと近くで働けばいいのに。」

そういうとレモンさんは静かに去っていきました。私はお釣りを渡しそびれたまま、その日はずっと静かに仕事をしていました。


あのレモンさんに会って1年後、私は漁師になりました。元々、海と魚が大好きだったので。こんな単純過ぎる職の選び方、間違っていると皆は言うでしょう。当然果物屋の両親は猛反対しました。でも、過去の私は「海が見える」からあの市場で妥協していたのだと気づきました。ありがとうレモンさん、人生は単純でいいと教えてくれて。海が似合わないとよく馬鹿にされますが、私は「レモンだってイチゴ食べるんだよ。」と言い返しています。生まれや育ちや環境じゃなくて、自分の思ったように動いていいと忘れない為に。



とある果物屋にレモンが1人。彼は今日もレモンを調査し、ついでにイチゴも調査していた。果物屋の主人がなんでイチゴも調べるんだと聞くと、彼は「イチゴが好きなんです。」と答えた。


レモン調査員〜完〜


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いかがでしたか?ONEクリーチャーシリーズ「レモン調査員」を題材に小説を書きました。

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