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或る若者の思索

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私が日常生活の中で感じた何気ないことを、日記よりちょっとだけ推敲して書いてます。
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#街歩き

リンク切れの街で

リンク切れの街で

 あの交差点の角にあった喫茶店はいつの間にか、ずっとシャッターが下りているようになった。可愛らしい看板は店頭に置かれたままになっているが、ランプの明かりは灯っていないし、軒下のプランターに咲いていたはずの大きな花はとうに枯れ果てていて、もはや見る影もない。
 薄汚れた窓にはレースの白いカーテンがかけてあって、中の様子は全く見えない。穏やかな街の一角、まるでここだけリンクが切れてしまったようだ。それ

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解像度の低いこの街は淀み

解像度の低いこの街は淀み

 アジカンの或る街の群青を聴きながら歩いていると、この淀んだ汚い街の植物が、建物が、空気が、すべてのものが嫌に鮮明になったような気がしてくる。裏路地にぼうっと立つすすけた看板でさえ、まるで大繁盛店であるかのように見えるし、軒下の暗い雑草でさえ、大地にしっかりと息づく生命の力強さというものを感じさせる。この街が確かに生きているということを感じさせる。
 陽が落ちて、街が群青色の空に覆われる。まるで丁

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攻略、街の上で

攻略、街の上で

 平日は休日のことだけ考える。休日にも休日のことだけを考える。休日のために生き、休日を心して過ごす。全ての平日はローマに通ずる。庶民はスペイン広場でアイスクリームを食べることだけを考えてればいいのだ。
 行きずりの恋に縋るように、私はせっせと労働者としての使命を全うする。

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 私には、『行きたいお店をGoogleマップでブックマークしておく』という習性がある。自分の最寄り駅近辺、職場の最寄り

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半径2kmの中を知らない

半径2kmの中を知らない

 一度故郷を離れてみると、自分の故郷の持つ優しさとか安堵感というか、なんかそういう--言葉にし難い--ものを改めて感じることになる。旅によく出る人ならば、ホームグラウンドの持つ絶対的な安心感についてはわかってくれると思う。それは実家、母校、高校の最寄り駅、山とか海の自然、姿形は様々である。

 特に何もない町だ。新築の家も古風な家も入り乱れている。子供の数は多い、小さな公園でさえ子供たちは走り回っ

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