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或る若者の思索

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私が日常生活の中で感じた何気ないことを、日記よりちょっとだけ推敲して書いてます。
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記事一覧

死を想え、取り急ぎ

死を想え、取り急ぎ

 今生きている人間、みんな死んだことないので、死のニワカでしかない。でも、死というものを少しでも理解するためには自分が実際に死ぬしか方法がないので、生きてる人間だけでこれ以上議論をするのは全くもって不毛である。閉廷。死後裁かれよう。

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 今、私がこうやって生きていることはこれ以上ないくらいに幸運なことである。というのも、日常のあらゆるシーンに漫然と"死"は潜んでいて、私たちは緩慢とそれらと付

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ハイ・ヌーンは邪魔させない

ハイ・ヌーンは邪魔させない

 ある日の昼時、働いているのが逆に失礼なくらいの雲一つない空が広がっている。こんな空の下で、誰が私に働けと命じているのだろう、まったく不躾なやつだ、と思いながらも颯爽と車を走らせていた。社用携帯は11時を過ぎたころからめっきり鳴らないが、カーステレオは陽気なナンバーを鳴らしている。12時の5分前を告げるDJの高らかな声を合図に、車はややスピードを落とした。

 国道沿いのラーメン屋の駐車場に車をと

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ドレッシング全然かかってへんで

ドレッシング全然かかってへんで

 バターがしみ込んで真ん中がしっとりへこんでいる薄切りの食パンを、私はさも愛おしそうに食べている。休日の喫茶店のモーニング、ひとりでコーヒーをすする私をさしおいて、常連客たちや店員さんは目まぐるしく動き回る。漫才を日常に落とし込んだような会話をBGMに、湯気の立つコーヒーに砂糖をひとつ落とす。
 そして目の前にはこんがり焼き色のついたトーストがある。こんなことを言ってはなんだが、トーストなんて味は

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日本で一番気まずい奴ら

日本で一番気まずい奴ら

 2016年公開の映画「日本で一番悪い奴ら」。主演を綾野剛が務めた、いわゆる警察の汚職、不祥事などをテーマとした映画だ。内容も北海道で実際に起きた「稲葉事件」を基に描かれており、この映画のタイトルも同事件を取り扱った書籍から取られている。

※以下、ネタバレ内容含みます。

 当時大学生だった私は家にいた。ある日、ふと父親が「映画見に行こ」と言い、私と弟2人を連れ立った。向かったのは隣の市にある

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スマブラは持ってないやつのほうが上手い

スマブラは持ってないやつのほうが上手い

 そいつは運動から勉強までひととおり何でも器用にこなす、たまに鼻にかかる奴だった。私はというと運動はてんでダメで、特に球技は壊滅的、しかし走るのと泳ぐのだけは問題なかった。勉強は苦手ではなかったけど、中の上あたりをずっと徘徊していたと思う。
 そいつは明朗快活な奴で、いわゆるヤンキーとも仲が良く、対照的にオタク連中とも親和性の高い、水と油の両方を性質を持ったような奴だった。私はというと、ヤンキーに

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白湯(さゆ)じゃなくてお湯だろうが

白湯(さゆ)じゃなくてお湯だろうが

 ただの熱い水に何個も名称をつけるんじゃない。お湯はお湯、ひいては熱湯であろう。最近のガキャは何でもすぐにこうやってオシャレに言い換えようとする。ベロアじゃなくてコーデュロイ、援助交際じゃなくてパパ活みたいに。

「優雅にお湯をわかしてコーヒー飲むのよ」

 温度が高いお水はお湯である。これは紛れもない事実で、たとえば浴槽を満たすときも「お湯張りをします」というアナウンスが流れるし、チェーン店のウ

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関西人は「せやねん!」と「よ〜いドン!」を軸に行動している

関西人は「せやねん!」と「よ〜いドン!」を軸に行動している

 ふとテレビをつけると、お茶の間を瞬く間に演芸ホールへと変えてしまうような、おちゃらけた声。お笑いコンビ「かつみ❤さゆり」の❤さゆりが食品メーカーの広報の人に雑な絡みをして、それにかつみ❤が派手にツッコんでズッコケる。関西人なら誰しもが一度は見たであろう朝の情景。もはやこれを当たり前に見られることがありがたい。

 実際、せやねん!のコーナーでかつみ❤さゆりがメーカーの商品を取り上げることの広告効

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レモンチューハイ500円は高いだろ普通に

レモンチューハイ500円は高いだろ普通に

 友人に今夜飲む店の手配を任せておいたら連れてこられた「創作居酒屋Dining -蒼(あお)-」みたいなノリの店。嫌な予感とともにメニューを開くと、オレンジ色のウネウネ手書きフォントでびっしり埋められている時点でもう既にしんどいのだが、極め付きに一番安いお酒がレモン酎ハイが500円(税別)だったりしたら、しょっぱいお通し(こちらも当然有料)に出てこられる前に、私はすぐにでも帰り支度を始めるだろう。

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知らないクロノスタシス

知らないクロノスタシス

Q.クロノスタシスって知ってる?

☑️ 知ってる
◻️やや知ってる
◻️どちらでもない
◻️あまり知らない
◻️知らない

 実際には短い瞬間の映像が、長く続いているように感じられる錯覚現象のこと。日本人の80%がこのワードをきのこ帝国から教えてもらったと言っても過言ではない(残り20%はBUMP OF CHICKEN)。それほど誰もが知っているメジャーな"現象"TOP3のひとつだ。ちなみに残

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俺たちは現代の参勤交代をしている

俺たちは現代の参勤交代をしている

 電車の中で見かけるくたびれたサラリーマンがスマホで十中八九プレイしている、クソほどつまんなさそうな謎のカラフルなパズルゲームは一体なんなのか。しかもよくよく見てみると、全員が同じゲームをやっているようで全員やってるゲームが微妙に違う。アメリカの激甘糖質爆弾ケーキ並の異様な原色カラーリングであることだけは共通しているが、その他は一体なんの違いがあるのか、皆目検討もつかない。そんな謎のパズルゲームを

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月が変わって、お見知り置きを

月が変わって、お見知り置きを

 "1ヶ月が12回来ると1年が終わる"という不可抗力的サイクルが出来上がっているせいで、なまじ1年間のカウントダウンを自然に設定する習慣がついてしまっている。さらにいうと、1日が約30回来ると1ヶ月が終わるというシステムが構築されているせいで、私たちはその意志とは裏腹に、日々無限に設定されるデッドラインを死ぬまでかろうじて掻い潜り続けるような生活を強いられているのだ。

 9月になったまさにその瞬

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リンク切れの街で

リンク切れの街で

 あの交差点の角にあった喫茶店はいつの間にか、ずっとシャッターが下りているようになった。可愛らしい看板は店頭に置かれたままになっているが、ランプの明かりは灯っていないし、軒下のプランターに咲いていたはずの大きな花はとうに枯れ果てていて、もはや見る影もない。
 薄汚れた窓にはレースの白いカーテンがかけてあって、中の様子は全く見えない。穏やかな街の一角、まるでここだけリンクが切れてしまったようだ。それ

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私は二度、旅に出る

私は二度、旅に出る

 若いうちは無茶な行程の旅路でも意外となんとかなるものだ。片道8時間かかる各駅停車での移動だって、ネカフェでの雑魚寝宿泊だって、市街散策で交通機関を使わずひたすら歩き続けることだって、体力と気力があればそんなの苦でもない。移動だけで潰れる一日も、安く済ませるためには仕方がない。シャワールームと身体を横にするスペースさえあればホテルもネカフェもさして変わらない。おまけに深夜バスなら宿泊と移動が同時に

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望郷初期症状

望郷初期症状

 一人暮らしの住居から実家に帰る電車の終電の時間を調べてみると、意外と遅い時間までセーフであることがわかった。その気になればすぐにでも帰れる。この安心感こそが、この望郷初期症状なのかもしれない。

 灯台もと暗しと言うように、親元を離れて暮らしていても、実家までの距離が近すぎると逆にあまり帰省しなくなる。これはある種のイタズラ心のようなもので、大人になっても抜けきらない反抗期の残り香でもある。
 

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