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掌編/短編小説

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基本的に連作ではない小説をまとめています。日常から一歩だけ外れた世界、そこらへんに転がっている恋、病とふだんの生活、鬼との友情なんかを書いています。
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#恋愛

【掌編】 ズルはダメだよ

【掌編】 ズルはダメだよ

「ズルはダメだよ」

先日、同僚の茉莉から借りた漫画で「ズルはだめだよ」というセリフがあったことをふと思い出した。サダキヨと言う少年はいつもお面をつけていて、小学校時代のケンジくんに言うのだ「ズルはダメだよ」と。

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金曜日、朝6時半。東京の下町にある1DKの狭いキッチンに立って、横溝さんのためにお弁当を作っている。半袖シャツの上にエプロンはつけない。長いストレートの髪を頭の高い部分でき

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ショートショート「蝉の背中」

ショートショート「蝉の背中」

ミヤさんの二の腕はふくふくしている。
それを指摘すると、今ダイエットしてるから秋には痩せるよと言っていーっと歯を見せて鼻に皺を寄せる。子供か。

ミヤさんというのは下の名前ではなく、苗字である二宮から取られたあだ名だ。

彼女は職場では良い子ぶってるけど、良い子ぶっているのはバレバレで、俺と話す時にはそこそこ口が悪い。
彼氏がいるのにすぐ男と寝るという噂がまことしやかに流れているが実はそうではなく

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ショートショート「真夏の夜の匂いがした」

あの日、彼女から花火大会に誘われた夜、最寄駅から自宅まで歩いているとき、はっきりと真夏の夜の匂いを感じた。
懐かしいなにかの匂いに似ているけれどそれがなにか思い出せなかった。

いま、開けた窓からは同じく真夏の夜の匂いがする。そしてさっきまで抱いていた彼女の首筋からは甘酸っぱい汗の匂いがする。同じシャンプーで洗ったから髪の毛は俺と同じ匂いがする。赤の椿。

「二宮さん、ほんとは彼氏いるんでしょ?

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ショートショート「ナイトフィッシング ソー グッド」

ショートショート「ナイトフィッシング ソー グッド」

開始のあのとき、あなたの手がわたしの服にするすると入ってきて片方の指でブラホックとぱちんと瞬時に外されると、あ、やばいハズレ引いてしまったと非常に残念な気持ちになる。

モテなさそうに見える割りに意外とモテてきたんだね。これまでどれだけの女を抱いてきたんだろう、どれだけの体位を知っているんだろうどれだけの人間を泣かせてきたんだろうと頭の中で勝手にかつての恋愛遍歴を妄想して、そしてちょっと萎える。

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小説「透明でまっとうな新しい日々」

小説「透明でまっとうな新しい日々」

昨年の夏に書いた掌編小説を加筆修正のうえ、再掲致します。
主人公の2人はそれぞれにハンデやコンプレックスを持っていますが、彼らなりにコミュニケーションを駆使して、優しくも満たされた生活を送ってゆく物語です。

「ちょっとの工夫で困難は回避できる」という言葉は私の小説のベースとなる考えであり、私自身が生きる上でのモットーでもあります。

もし、いまあなたの目の前に救いようのない障害があったのなら、形

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【聴く小説】透明でまっとうな新しい日々

聴く小説 第3弾 は「【掌編小説】透明でまっとうな新しい日々」 です。

再生時間は約15分です。


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「透明でまっとうな新しい日々」

岩波アラタの綺麗な弧を描く後頭部が私は好きだ。
彼の髪は重たくて黒い。

部屋でふたりソファーに並んで眠たい映画のDVDを観ている時、私はおもむろに彼の髪を優しく撫でる。寝たい、の合図。それから彼のコットン100%のシャツをゆっく
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【小説】透明でまっとうな新しい日々

【小説】透明でまっとうな新しい日々

昨年の夏に書いた掌編小説を再掲致します。
主人公の2人はそれぞれにハンデを持っていますが、ハンデをハンデとせずにコミュニケーションを駆使して生活を送ります。

「困難は工夫と回避でなんとでもなる」というのは私の小説のベースとなる考えであり、私自身のモットーでもあります。
長い梅雨が明けました。もし、いまあなたの前に何か障害があったなら、この小説に目を通してくださると嬉しいです。
あなたが、アラタや

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