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松下幸之助と『経営の技法』#75

4/30の金言
 ビューと吹く風の音にでも悟る人がいる。話のよしあしは聞く側の態度次第ではないか。

4/30の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。短いのでそのまま引用しましょう。
 全く同じ話を聞いても、”いい話だった”と感動する人と、”つまらない話だった”と思う人がいますね。ということは、話のよしあしは、その内容より、むしろ聞く側の態度によって決まってくる。聞く側に大部分の責任があるともいえるわけです。ビューという風の音にでも悟る人がいるのですから…。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここで、最初に松下幸之助氏の言葉の意味を確定します。
 話し手に着目すれば、聞き手の反応が悪くても気にするな、と慰めているようにも見えます。もちろん、あまり深刻になるなという意味があるかもしれませんが、氏は他の部分で、適切にメッセージを伝えることの重要性も説いていますので、無責任に喋って良い、話し手に全く責任がない、という意味ではありません。
 したがって、重点が置かれているのは、話し手よりも聞き手の問題とみるべきです。すると、この言葉は、人の話を聞くときには、そこから何か良いものを見つけよう、という意味に取るべきだと分かります。
 これを会社組織に置き換えると、会社(具体的には全ての従業員)が、様々な情報について敏感であるべき、ということと、その情報から有益な意味(耳触りの良い話ばかりでなく、厳しい話もあるべきです)を見出すべき、ということ、が導き出せるでしょう。
 これは、リスク管理の観点から見た場合、リスクセンサー機能の重要性を指摘するものであり、経営の観点から見た場合、ビジネスのチャンスを全従業員で見つけ出そう、という経営体質の重要性を指摘するものと言えます。
 経営問題に関して言えば、トップダウン型の組織体制が強調されることがあります。しかし、「衆議独裁」という言葉が、多くの知恵を集めて決定し(ボトムアップ)、決定した後は一体として戦う(トップダウン)、という意味であるように、単純にトップダウン、ボトムアップの二者択一の問題ではありません。現場の情報なしに新しいチャレンジをすることは、現実的ではありませんので、トップダウン型の経営を志向する場合であっても、現場から情報が上がってくる体質づくりは不可欠のはずなのです。
 要するに、現場の感度を上げよう、という意味で考えれば、(それが全てではないものの)リスク管理上も、経営上も、非常に意味のある言葉になるのです。
 そうすると、どのように現場の感度を上げるのか、という具体的な施策の問題になりますが、この点は、他でも検討されていますので、今日は省略します。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者に求める資質として、人の話を聞ける人、という点が一つのポイントになる、と言えるでしょう。
 もちろん、他人の言葉に振り回されて、主体性も核も無い経営者では、会社の方針も定まらず、経営を不安定にしますが、かといって人の話を全く効かない人も問題です。要はバランスの問題であり、そうすると、何と何をバランスさせるのか、という「対立する利益」の問題になります。
 たしかに、経営は組織をリードするのが仕事ですので、他人に振り回されるような経営者は、リーダーとして問題があります。しかし、全く聞く耳をもたない経営者も問題です。この意味で、トップダウンとボトムアップのバランスが、経営者個人にも求められるのですが(その意味で、ここまでは内部統制上の問題と同じなのですが)、経営者には経営のプロとして特に考慮すべき問題があります。
 それは、経営者の「感性」です。
 もし、本当にプロとして緻密な仕事を重ねてくれば、その緻密な仕事は、例えば職人が手ざわりだけで材質の違いを言い当てられるように、一見するとただの思い付きのようにも見える「感性」に大きな価値が生まれてきます。松下幸之助氏の話のように、他人の話の中に「良い所」があるかどうかを直感的に見極める感性があるからこそ、結果的に瞬時に「つまらない話だった」と結論付けたとしても、裏付けのあることなので、それ自体が悪いことではないのです。むしろ、多忙でやるべきことの多い優秀な経営者にとって、明らかに無益な話の中に、貴重な時間を割いてまで、「何か有益なことがあるはず」という分析を行うことの方が、時間の無駄になるのです。
 このようにして見ると、様々な情報に接したときに、何の根拠もなく情報を無駄として切り捨てるのではなく、かといって貴重な時間や人手を費やしてまで益の薄い情報に拘泥されるのではない、バランスの取れた対応(しかも、経営者の「感性」を活用すること)が、必要となるのです。

3.おわりに
 人の話をつまらなそうに聞く人よりも、興味深そうに聞く人の方が、いろいろな情報を持っています。もちろん、人に振り回されるだけで主体性が無くても良い、ということではなく、また、素直さだけでなく人の話を斜に構えて聞いて、その問題点などを見抜く力も重要です。
 けれども、好奇心と柔軟性は、人間としての魅力や能力を高めます。氏の言葉は、経営学、という以前の、個人の問題としても、大切なことを指摘しているのです。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。



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芦原一郎

Seven Rich法律事務所。日米の弁護士、証券アナリスト、経営コンサルタント。約20年の社内弁護士経験。ブログ:https://ameblo.jp/wkwk224-vpvp、動画の例:https://www.youtube.com/watch?v=SacKcN7qRXk

松下幸之助

「法と経営学」の観点から、松下幸之助の金言を読み解きます!
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