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OECD 加盟 38 か国中30 位──日本の労働生産性が低い理由

日本の生産性が低いということをご存知でしょうか。

2022 年の日本の「時間当たり労働生産性(就業 1 時間当たり付加価値)」は、52.3 ドル(5,099 円/購買力平価(PPP)換算)。

OECD 加盟 38 か国のうちでは、なんと30 位です。
なぜこれほど日本の生産性が低いのか?
今回は私の体験を含めて考察してみます。


労働生産性が低い=労働力をうまく利用できていない


2022 年の日本の「時間当たり労働生産性」は、52.3 ドル(5,099 円/購買力平価(PPP)換算)、日本の「一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)」は、85,329 ドル(833 万円/購買力平価(PPP)換算)でした。

日本生産性本部「労働生産性の国際比較(2023)」

アメリカの6割弱にとどまっています。

労働生産性とは、労働者1人または時間当たりの労働で得られる成果を数値で表したもの。仕事によりどの程度の利益が得られたのかを知ることができます。

労働の効率性を計る尺度であり、労働生産性が高い場合は、投入された労働力が効率的に利用されているといえます。つまり、労働生産性が低いということは労働力がうまく利用できていないということ。

なぜ日本は労働生産性が低いのでしょうか。
労働生産性が低いサービス業が多いからと言われますが、産業別の比較でもアメリカのサービス業のほうが生産性が高いのです…。
それはやはりサービスの価格が高い(適正)なのですが、他にも理由がありそう。

考えるきっかけとして、私が前職で経験したことについて書こうと思います。

社員総出でDM封入を行うという謎

私が新卒で入った出版社は、出版だけでなくビジネスセミナーも開催していました。
時には大規模な展示会も開催していたのですが、そのDMを社員が総出で封入するというイベントが年に数回あったのです。

DM封入作業は、時に1日がかり。大規模なイベントだと3日間ぐらいかかる。
確か数万通というDMを出していたと思います。

基本的にはアルバイト(ほとんどいませんでしたが)や若手社員が行いますが、中堅以上も仕事が差し迫っていなければ参加しなければなりません。

もちろん中堅は忙しいので1日ずっとというわけではないのですが、それでも数時間は手伝います。
そして、封入作業に時間を取られてできなかった自分の仕事は、残業して終わらせるのです。

私はこれが本当に理解できなかった。
辞めるまで、最後まで、意味がわかりませんでした。

なぜ、正社員の貴重な就労時間をDM封入という単純作業に費やすのか?
DMなぞ業者に頼めばいいのではないか?
臨時にアルバイトを雇うのではダメなのか?
そもそも紙のDMって今どき見ます? ゴミ箱行きでは?

時給2,500円の社員にDM封入作業をやらせている

1日8時間労働として、社員の時給を計算してみましょう。
※ボーナスがほとんど出ていなかったので、ボーナス抜きで計算

1年目だと、だいたい1,300円ぐらい。
10年目だと、約1,900円
20年目だと、約2,500円

…DM封入って時給2,500円の人にやらせる仕事でしょうか?
しかも、取締役や社長も混ざってやっている(彼らはそれが「フラット」だと思っていたようです)。
取締役の時給はいくらでしょうかね?

それでは、DM封入の付加価値はどうか。
紙のDMにどれくらいの効果があったか、担当ではなかったので正確にはわかりません。
が、世の中にはメールという便利なものがあるんです。
しかも、メールは一瞬で送信できる。送料もかからない。
ならば、だんだんとメールDMに移行できるように考えたほうがいい

封入作業を外注する費用はどのぐらいか、送料なしで計算してみると…。
あまり詳しくないのですが、封入点数が多かったので、1通9円ぐらい?
トータルで25〜30万円ぐらいのコストになるとします。

作業に駆り出される社員の平均時給が仮に1,900円だとして、1日8時間×3日間行った場合、1人当たり45,600円のコスト。
7人に作業を行わせたら、外注した方が安いという計算になります。

…まあ、トータル7人は軽く超えていたと記憶しています。
外注した方が安く上がるでしょう。
または、営業活動で10万円の売り上げを3つ立てればペイできます。

時給1,900円の人がやることは、
・紙のDMにどれだけ効果があるか、費用対効果を試算する
・送り先を精査する
・メールDMにシフトしていく方法を考える
・より効果的な宣伝方法(SNS含む)を考える
・封入作業が得意な人と苦手な人との間で生まれる効率の差について考える
ことだと思うんですよ。
何時間もDM封入に没頭することでは決してない

手作業でDMを封入するのは精神修行?

では、会社の取締役たちはなぜ社員にDM封入作業をやらせたのでしょうか。理由を考えてみました。

①残業代を出さないから
私が新卒で入ったこの会社は、残業代を一切出さない会社でした。
平均で月60時間は残業していたのですが、残業代はゼロです。

いわば「パケ代定額」みたいな会社だったので、
封入作業により残業が発生しても、特にコストはかからないのです。

すごいセコい発想だなと思いますし、なんというか視野が短期的。

無理な働き方をさせた結果従業員が辞めたとしたら、その人を雇うのにかかった経費や教育にかかった費用が無駄になるわけです。
そこに考えが至っていない。

②企画のためのブレストをさせたい&社員同士の交流を図りたい

DM封入作業をしながら雑談して、そこで企画のヒントを得たり、若手と先輩社員が交流する場にしたいのかもしれません。

間違いではないのでしょうが、目的とするなら効果測定をしなければならないですよね。

・どのくらいの企画が生まれ、売り上げにつながったか
・交流した結果、売上げは向上したのか。あるいは何らかの業務改善があったか
・なぜ会議ではダメなのか

会社は仲良しクラブではないので、常に費用対効果を考えて社員を動かさなければなりません

ブレストもコミュ促進も全否定する気はないのですが、どちらも、できる人はこういうイベントがなくてもできる。できない人はイベントがあってもできないと思います。

③心を込めてDM封入作業をすることで、DMに宇宙の力が宿る(笑)

これはどうかわかりませんが…。
ただ、掃除やお茶入れなどの瑣末な作業を「心を込めてやる」ことは意味がある、あるいは従業員に何らかの精神修行をさせたいと考える経営者はたくさんいそうです。

神秘の力が宿りそう

日本企業は瑣末な作業を利益度外視で大切にするという伝統がある

いかがでしょうか。
私の前職の例は、日本の労働生産性が低い理由が詰まっていると思います。

・生産性が低い仕事を長時間にわたって行う
・社員の時給と労働生産性を計算できない
・費用対効果を軽視する
・短期的なスパンでしかコスト計算ができない
目の前の仕事に追われてしまい、業務改善に着手できない
・効率の話をすると「仕事は効率ばっかじゃねぇ」と反論される
・効率と生産性の違いが理解できていない
・瑣末な作業に精神的な意味を見出す
・社員同士の「」を過度に評価する
・根付いてしまった悪い慣習に固執する
・生産性よりも「がんばり」を重視する

そもそも「労働生産性って何それおいしいの?」みたいな経営者は日本の中小企業にたくさんいると思います。

ただ、「これはおかしい」と思う従業員は必ずいる。
そういう人が声を上げられること、その声が採用される環境であることが大事。

そのために、いかに風通しの良い会社を作れるかが第一歩になるのかなと思います。







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