見出し画像

父に敵わないと思った日(骨折デビューの話)

骨が折れたことがありませんでした。
そんな、頻繁に折れるものでもないですが、
子供の頃から牛乳が好きで、母の作る健康的な料理を食してきた私は、
人一倍頑丈だったように思います。

中学3年生ぐらいだったか、初めてのiPhoneを買ってもらいました。
たしか、iPhone 5sで、今の大きな画面の機種と違って、
日本人らしい、なんなら、日本人のなかでも小さい方の、
私の手のひらに、ぴったりと収まるサイズなのが、好きでした。
(今のスマートフォンはとても大きいです。今も両手で握りしめながら文章を打っているところです。)

厳しい家柄で、ゲームも漫画も買ってもらったことがなかった私は、
初めてのスマートフォンに心が躍り、
例にもれず、TwitterやLINE、パズドラといったスマホゲームに、
みるみるうちにハマってゆきました。

もちろん、それを見た両親は黙っちゃいません。
文字列やゲームに熱中する私から、スマートフォンを取り上げ、
決められた勉強時間の、合間の時間10分くらいしか、さわってはダメだ!と、
新しい「我が家ルール」を制定しました。(なんてことだ!!)
自分でも、あまりにも時間をとられている自覚があったので、(今思うと、依存症のようなものだったと思います。)
両親のいう通り、家にいる間も、休み時間だけスマートフォンを見るようになりました。
家にいるのに休み時間って変ですね。

はじめの頃は、勉強してる最中も、
スマートフォンのことが気になって気になって仕方ありません(好きな子からメッセージが来ているかもしれませんし!)、
勉強なんてやっていられるか!、と言った心持ちでしたが、
人間何事にも慣れてくるもので、いつの日からか、「休み時間制度」も気にならなくなってきました。
常に見れるに越したことはないのですが。

……

ところで、私には弟がいます。
私と違って、格好よくて、友達も多く、楽しい人で、
自由に生きているように見えて(よく、長男長女が末っ子に抱く感情です)、
いつも羨ましく思っていました。
私は、とてもよく、良い子を演じる子供であったので、
何かをやらかすのは、大抵いつも、弟の方でした。(そういった意味でも、少し羨ましくありました。)
……その日もまた、弟がやらかしたのです。

限られた「休み時間」に、スマートフォンを楽しむ私のもとに、
険しい表情で、大股で歩く父が近づいてきます。
何事だろう、と、きょとんとした表情で父を見上げていると、
父は、その大きくて無慈悲な手で、私の、愛しの、マイラブ·スマートフォンを取り上げたのです!
突然のことで、まったく意味がわかりません。

とっさに私は抗議します。
「なんで、取り上げられなきゃいけないの!」(泣いてしまう寸前です、泣いたら負けなので泣きませんが。)
「ゆうきが、遊ぶからだ!!!」
…ますます意味がわかりません。私のスマートフォンですよ?
「私となんの関係があるの!!」
「ゆうきが、ゆみのスマートフォンで遊ぶからだ!!!」
「ロックかけてるのに?!」
「ゆうきはロックを開けられるからダメなんだ!!!」(なぜ!!!!!!)

……納得できません、言いたいことは山ほどあります。
なぜ、弟が遊ぶという理由で、私がスマートフォンを没収されなければならないのか、
なぜ、弟は、私のスマートフォンのロックが自由自在に開けれてしまうのか、(父曰く、ロックの番号を変えても意味がない)(実際、意味がなく、ロック番号を変えても開けられてしまった)
なぜ、休み時間しかさわらず、良い子として生きてきた私が、こんな仕打ちをうけているのか!!!!!!

ちょっとのことでは怒らない私も(長女なので。)、
突然の上、理不尽極まりない理由での、
キューティー·ラブリー·アイラブユー·スマートフォン(なんて小さくてかわいらしいボディーなんでしょう!)の没収に、
怒りのゲージはあっという間にMAXです!!!!!!!

握力では勝ち目がないので、奪還はひとまず諦めましたが、
あまりの理不尽に、怒りを露に立ち上がり、
全身全霊、渾身の力を込めたキックを、
父の「ムコウズネ」にお見舞いしてやりました!!!!!

(「ムコウズネ」が人類最大の弱点であることは、某有名小学生名探偵アニメで履修済みです!)
そのまま、同じ部屋にいるのが耐えられなくなった私は、
抗議を込めて、体重が5倍になったぐらいの、大きな足音をたてながら、
二階に続く階段をあがり、自室へと引きこもったのでした。

……

なんで没収されたのだろう、Twitterのみんなは元気かな、好きな子からLINEが届いていたらどうしよう(中高生特有のアレです。)、今日の素材(ゲーム)集めたかったのに……
悔しかったり悲しかったり、いろんな感情でぐちゃぐちゃの私は、
布団の中にとじこもって、ぐすぐすと泣きました。
もう弟とも、父とも、口なんぞきいてやるものか!!!

……

……何時間たったでしょう。
ずっと部屋にこもって泣いたり怒ったりしていたものの、
人間なのでお腹がすきます。お風呂だって入りたいです。
負けたみたいだから、下に降りたくはないなぁ……。
でも、一度お腹がすいたと思いだすと、今度は空腹や生理現象ばかり気になって、
やけに冷静になってきます……


なんで、あんな機械ごとき(嘘です、中高生にとっては死活問題です。)にムキになって、怒ってしまったのだろう!!!
急に恥ずかしくなってきてしまいました。
ますます、家族(特に父!)と顔を合わせたくありません。

そのときです。ふと、右足がズキリ、と痛みました。
さっきまで、怒りで我を忘れていたので気になりませんでしたが、
今までで経験したことがないほどに、右足が痛いのです!
布団から出て恐る恐る右足を見てみると、
右足の、こうの真ん中あたりが、赤紫色に腫れています。
これは大変だ、下に行って治療しなければ!!
下に降りたかったけど素直になれない時に、ちょうど良い理由ができたと思って、
踏みしめるとあり得ないくらいに痛い右足をかばうように、
あがってきたときとは真逆の、とても静かな足音で、
家族の待つリビングへと降りていったのでした。

……

リビングでは、母が暖かい料理と温かいお風呂を用意して待っていました。
弱っているときに優しくされると、涙が出そうになります。
でも、父も弟もいる手前、涙を見せるわけにはいかない私は、
表情を引き締め、できるだけ冷静を装った声で、母に、母だけに向けて、
「足があり得んくらいに痛い」旨を伝えます。

「すごい腫れてるわね、ひとまず、冷やしておきましょう」
そういうと母は、冷凍庫から、足のこうに、ちょうど良いサイズの保冷剤を取り出して、
(実家は、別名、「訳がわからないくらい多種多様な保冷剤がある場所」です。)
慣れた手つきで私の足に巻き付けます。
「ひとまずこれで様子をみましょう」
母はそういうと、夕飯の席へと私を促しながしながら、
「ところで、なぜ、そんなところが腫れているの?」

……痛いせいで忘れていましたが、確かになぜ、こんな場所が腫れているのでしょう?
足の端っことかであれば、どこかでぶつけたのだろうくらいに思いますが、
足の真ん中です。足のこうです。足の中指の付け根が痛いのです。
少し前までの自分の行動を思い返してみます。


「…………あ。」
思い出しました。
この、今までの足史上、
一番痛い痛みの原因は……


です。


……

私は昼間、全身全霊、パワー全開、目一杯の力を込めたキックを、
父の「ムコウズネ」にお見舞いしました。
……原因はそれです。
私の人生史上、最も強烈だったはずのキックは、
私の足史上、最強の痛みを、足の中指の付け根に残していったのでした。
(必殺技には自らの負傷が付き物ですし。)

……

一方、必殺技をお見舞いされた側(父)はというと。

……無傷です。

あんなに力を込めたのに!アザひとつ、痛がる素振りすらありません!
なんてことだ!!悔しい通り越して、唖然です。本当に人間か?!!
人類の最大の弱点、ムコウズネをねらったのに!!!コナンくんのバカ!!!!!!!
(嘘です、コナンくんは天才ですし、コナンくんアニメもマンガも大好きです、次の劇場版も楽しみにしてますね。もうすぐ100巻、おめでとうございます。)(しかも、これを言ってたのは、確かコナンくんじゃなくて、阿笠博士のクイズに答えたあゆみちゃんですね。)


こうして私は父の偉大さ(物理)を思いしりました。
私も、娘に足を蹴られてもアザひとつ残らないような(むしろ、怪我を負わせるような)、
健康的で強靭な足を手に入れたいものです。
なお、娘と言ってますが、結婚の予定はありません。

……

後日。いくら安静にしても、いっこうに痛みがひかないため、
母につれられて病院にいくと、
レントゲン写真には、ひびが入り曲がってしまった、私のかわいい右足の中指の骨が写っていました。

「ひびが入ってしまったようです。」と、先生。
……まさか、父の足を蹴って骨折デビューするとは。恐るべし、父の足。
でも、せっかく骨折したのなら、ギプスしたりしてみたいな、
初めての骨折(ひび)に若干うれしくなっている私です。
「ですが、時間がたって、もうくっつき始めています。特に処置の必要はなさそうですね。」
先生がそういったので、憧れのギプスデビューならず。無念。

「ところで……」
先生はこちらを向くと、私を見つめて言いました。
「どうして、そんな場所を骨折したのですか。」

私は一瞬、母の顔をうかがって、先生から目をそらし、うつむくように言いました。
「柱を…………蹴りました。」


今でも私の右足中指は曲がっているので、
気になる人は見に来てください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?