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#17 都市部からめちゃくちゃ遠い街 ―和歌山県新宮市の産業振興―

はじめに

『J NOTE』第17回は、和歌山県新宮市を取り上げます。

新宮市は、和歌山県南部に位置する人口約2.6万人の市です。新宮市は昔から熊野詣の拠点として栄えた街で、市内には「熊野速玉大社」や「権現山」など、世界文化遺産に登録されている神社や史跡が立地しています。

また、かねてから紀伊山地の豊富な森林資源を生かした林業が盛んであり、製紙業や木材加工業などが新宮市の基幹産業であるといえます。

そんな新宮市は、都市部からは非常に離れた場所にあります。

市街地にある新宮駅までは、名古屋駅から特急電車で約3時間20分、新大阪駅からは特急電車で約4時間20分ほどかかります。また、車でのアクセスについても名古屋からは高速道路と一般道で3時間以上、大阪からは紀伊山地を横断して3時間半以上かかるなど、都心部からのアクセスは決して良くはないといえます。

そのため、新宮市内には輸送時間とコストの問題から大規模な工場や物流拠点などが置かれておらず、新宮市やその周辺の地域産業は衰退の一途をたどってるのが現状です。

そこで今回の『J NOTE』では、立地面で大きなハンデを抱えている新宮市が、どのように産業振興に対して取り組んでいるかについてみていきます。

①豊富な自然資源を生かした産業

新宮市はこれまで農業・林業や漁業などの第一次産業、製紙業などの第二次産業が盛んな街でした。しかし、現在ではいずれの産業も縮小傾向となっており、後継者不足などの問題も年々深刻さを増しています。そのため、市内に有する豊富な自然資源を地域の産業に生かしきれていないのが現状です。

そこで、新宮市では「木質バイオマス発電」を新たな地場産業として打ち出しています。

木質バイオマス発電とは、木材のチップを燃やして発生した蒸気でタービンを回して発電する方法です。木材のチップの原料には主に間伐材が用いられており、森林の保全とカーボンニュートラルが両立できる発電方法として現在注目されています。

新宮市では木質バイオマス発電を通して、林業の復興や森林利用の促進に力を入れようとしています。2022年10月には、新宮港に和歌山県最大級の木質バイオマス発電所が竣工しており、将来的には地元の木材チップの使用割合を増やしていく方針を打ち出しています。

②新たな名産品の開発に向けて

新宮市は、他にも代表的な名産品がないことが大きな弱点であるといえます。

新宮市に隣接する那智勝浦町では、勝浦港で水揚げされるマグロや温泉を名物として売り出しており、新宮市の北隣である三重県紀宝町では、ウミガメの水族館や町独自のブランド米である「飛雪米」の栽培などが行われています。そのため、両自治体では地域ブランドがある程度確立しているものといえます。

しかし、新宮市は名産品の数が少なく、ふるさと納税の返礼品についても近隣自治体との差別化があまり図れていないのが現状です。

そこで、新宮市では2020年に制定した『第2期 新宮市 まち・ひと・しごと創生総合戦略』の中で、熊野川地域の花畑を利用した「フラワーツーリズム」の促進や、新たな観光ルートやメニューの作成を施策として挙げています。

また、市内の徐福寿司で提供されている「さんま姿寿司」は、新宮の名物としてメディアやインターネットサイトで紹介されています。徐福寿司ではネット通販も行っており、ふるさと納税の返礼品としても販売されています。

③学びの場として

新宮市では、地域文化や歴史研究として「熊野学」と呼ばれる学術活動が盛んに行われています。

熊野学は、1990年代ごろから新宮市や熊野地域の自治体で提唱され始めた、熊野地域の歴史文化学や民俗学などを包括した学問です。2005年には市内に「国際熊野学会」が発足され、本格的に研究活動に取り組んでいます。学会のこれまでの活動実績として、明治大学や東京大学大学院などと共同で講演の開催や出前授業を行っています。

また、市内には熊野学研究委員会が発足しており、自然探訪スクールや歴史探訪スクールの開催を通じて地域研究の普及活動に取り組んでいます。

新宮市を含めた熊野地域には大学などの高等教育機関が無いことから、このような研究機関の存在は教育の普及や地域研究を行う上でとても重要であるといえます。

おわりに

ここまで、和歌山県新宮市の産業振興に関する取り組みについてみてきました。

新宮市では立地上のハンデや名産品不足などの問題に対して、様々な施策を講じていることが分かりました。

今後は、新宮市内まで高速道路の延伸開通や新宮港へのクルーズ船の来航数増加が期待されているため、市による産業振興や観光政策がより重要になるのではないかと私は考えています。

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