赤玉ブラン

皆さんの共感性羞恥心を煽る文章を量産しています。皆さん、私と一緒にゾクゾクしませんか?

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最近の記事

愉快な昼下がり

 日曜日の昼下がり、ママチャリで河川敷を行くあてもなくフラフラと進んでいると、前方左手にネットフェンスで囲まれた野球場が見えた。近づいてみると、そこではまさに試合が行われていて、選手たちの体格を見るに、それは中学野球の試合であるらしかった。日曜日ということもあって、ネットフェンスの外側には選手の保護者たちが沢山いて、我が子の活躍する姿を見守っている。私は近くの駐輪場に自転車を停めて、試合を観戦すべく、保護者たちの輪に混じってネットフェンスの外側に陣取った。私が陣取ったのは三塁

    • 太宰治っぽい文章を書いてみた

       どうやら、太宰治の『人間失格』を読むと大抵の人間が「これは自分のことを書いている!」と思ってしまうようで、それは中学時代の私も例外ではなかった。特に、 誰でも、人から非難せられたり、怒られたりしていい気持がするものでは無いかも知れませんが、自分は怒っている人間の顔に、獅子(しし)よりも鰐(わに)よりも竜よりも、もっとおそろしい動物の本性を見るのです。ふだんは、その本性をかくしているようですけれども、何かの機会に、たとえば、牛が草原でおっとりした形で寝ていて、突如、尻尾(し

      • それでもパフェは美味しい

         「ねぇ、それ何読んでるの?」 女はスマホから目を離さず聞いた。  「あっ、これ?小説」 男はそっけなく答えた。テーブルに置かれたホットコーヒーからは白い湯気が立ち昇っては消える。  「小説ね。なんの小説?」  「昔の」 コーヒーの白い湯気が二人の間でゆれる。  「あっそう。本好きなんだね」  「まぁ、多少は」 男がそういったきり、しばらく沈黙が流れた。入口のベルの音がやけにはっきりと聞こえてくる。思えば喫茶店は沢山の音や香りで溢れている。  「真面目なんだね」  「別に真面

        • どんぐりおじさん

           あの日からどれくらいの年月が経ったのであろうか、今となってはもう分からない。知らず知らずのうちに長い年月、美しい夢にも似た恐ろしい呪いの中を彷徨い続けていたのかもしれない。そして、それは今も…。  幼稚園児だった頃、秋になると必ず先生が私たちを幼稚園の近所にある大きな広場に連れて行ってくれて、私たちはそこでどんぐり集めに夢中になった。どんぐりといっても、まんまるで可愛らしいものもあれば、細長くてポークピッツのような形をしたものもあったりと種類は様々で、私たちはその一つ一つ

        愉快な昼下がり

          初恋はお尻の痛みに消えて

           平日の夕方の河川敷は時間の流れが緩やかで、冬の冷たい空気のなかに、優しい陽射しが柔らかな温もりを放っている。そんな緩やかで人も少ない広々とした草っ原の中央に一組の男女がいる。二人は何か言い合いをしているようである。 「俺のお尻を思いっきり蹴ってくれ!」 青年は言った。それは一世一代の愛の告白であるかのように、紛れもなく真剣で、これ以上ない程に思い切ったものだった。 「馬鹿じゃないの。気持ち悪いんだけど!」 彼女は語気を強めて、青年の真剣な願いを退けた。青年は内心狼狽えた。

          初恋はお尻の痛みに消えて

          「浅倉南」になれなかった同志に贈る

           1996年春、浅倉南になり損ねた女がいた。彼女は待てど暮らせど結婚式場にやって来る気配のない婚約者の男の家に向かって、人の目を忘れ、東京の街を白無垢姿のまま夢中で走る。婚約者の苗字は浅倉。女の名は南。結婚式が終わって浅倉と夫婦になれば、晴れて浅倉南になるはずだった。なのに、結婚式場に浅倉がやって来ない。  結婚式まで残り15分。婚約者はやってこない。周りの目が痛い。母親は彼女の肩を揺すって、仕切りに「どうなってるの⁉︎」と繰り返すが、そんなこと私が知りたい。結婚式まで残り1

          「浅倉南」になれなかった同志に贈る

          無意識な交わり 3

          ドラッグストアを辞めたのが今年の3月で、辞めてしまってしばらくの間は固定シフトの束縛から解放された喜びに浸りながら、本来なら店に向かうべく家を出なくてはいけない水曜日の17時になっても自室のベットの上でこんなにも優雅にAV鑑賞ができる素晴らしさよ!なんて思ったりもして、それなりに楽しく日々を過ごしていたのだが、そうした日常もいつしか当たり前のものとなってしまい、ふと冷静になって自分が置かれている現実を鑑みると、青年の前途には終わりの見えない真っ暗なリモート生活が続いており、見

          無意識な交わり 3

          無意識な交わり 2

           この時分の青年にとっての最大の個人的問題は、どのようにして孤独から抜け出すかということであった。今年の3月頃から流行し始めた新型ウィルスにより、大学の授業は全てリモートになり、ただでさえ少ない大学の友人と会う機会すら失われたし、昨年の夏から始めてようやく慣れてきたドラッグストアでのアルバイトも、未知のウィルスに怯えた大勢の人々が一斉にマスクを買い出したために、マスク需要が急騰し、それに供給が追いつかないため、店ではマスクの売り切れ状態が続き、お客からは3分に1回程度のペース

          無意識な交わり 2

          無意識な交わり 1

           川沿いの遊歩道にある古びた木製ベンチの上に置き忘れられた、カバーがはだけて真っ裸の文庫本は、昨夜の雨に濡れて、今にも溶けてベンチに吸収されてしまいそうなほどくたびれてはいるが、純潔な少女が無数の触手に身体中を舐め回されるのに抗うかのように、腐った木と一体化することを拒み、なんとか文庫本としての形態を保とうとする姿からはどこかエロティックな感じを受ける、人気のない静かな昼下がり。青年はその文庫本に触れることはせず、鼻の先を近づけるようにして凝視し、雨にさらされて滲んだ表紙の文

          無意識な交わり 1

          橋本夏子の日記

           蒸し暑さのなかに、時折、夏の終わりを思わせるような冷たい風が吹く8月の終わりのことでした。授業が終わって帰り支度をしていると、お友達の市川さんからお食事会のお誘いを受けました。お話を伺ってみると、そのお食事会には他大学の男性も参加なさるとのことでしたので、市川さんには申し訳ありませんが、私には荷が重すぎるとお断りしようと思いました。初対面の男性方と上手にコミュニケーションを取りながら、楽しくお食事をすることができるほど私は大人の女性ではないと考えたのです。しかし、市川さんが

          橋本夏子の日記

          ビターチョコレート

           8月下旬、大学の夏休みも終盤に差し掛かった頃、サークルで同期の吉岡が、高校時代の女友達を誘い、吉祥寺の居酒屋で男3女3の飲み会が開かれることになった。こちらは同じサークルの同期である吉岡と飯田と俺、あちら側は吉岡の女友達の市川さんと、彼女と同じ大学の前田さん、橋本さんというメンバーだった。吉岡と市川さんがそれぞれメンバーを集め、店も予約してくれたのである。  会は吉祥寺の北口にあるチェーンの居酒屋で行われた。俺ら男メンバーは予約時間の10分前に店に到着し、一足先に飲みの席に

          ビターチョコレート

          愛さずにはいられない

          中学1年時、国語の授業だった。若い女性教師は黒板に大きな円と、その中に非常に小さい円を描いて言った。 「この大きい円が森羅万象だとしたら、その中にある非常に小さな円が私たちの言葉が表現でき得る範囲です」 と。続けて言った。 「私たち人類は長い年月をかけて沢山の言葉を産み出してきました。言葉を産み出すということは即ち、未知のものに名前を付けて一般化するということです。言葉を産み出すことによって我々は未知なものを既知なものにし、意味づけをし、関連づけ、そのなかから法則を見出

          愛さずにはいられない

          浪人生の涙はコーラとオレンジジュースを混ぜた色

           平日の昼下がり。浪人生の木城空斗は予備校の授業をサボって、近所の商店街にあるファーストフード店で、ほとんど氷しか残っていないコップに刺されたストローを咥えつつ、無為に時間を過ごしている。2階の窓際の席に座っている彼は、横目ながらに街ゆく人々の姿をなんとはなしに眺める。季節は夏。外は灼熱地獄で、そこには、額の汗を拭きながら歩く臭そうな小太りの中年男性や、日傘を差しながら歩く若い女性などがおり、どの人も皆、この暑さに大変苦しめられている様子だ。そういった姿を、クーラーの効いた快

          浪人生の涙はコーラとオレンジジュースを混ぜた色

          リニューアル

           最近のマイブームは20年くらい前の恋愛ドラマを見漁ることだ。特に、フジテレビの毎週月曜夜9時の枠で放送されていた所謂、月9と呼ばれる作品群を好んで視聴している。  具体的な作品名を挙げると、『東京ラブストーリー』、『ロングバケーション(ロンバケ)』、『ラブジェネレーション(ラブジェネ)』、『やまとなでしこ』などである。  これらの作品は人気が凄まじく、特に女性たちからの支持は絶大で、月曜日になるとOLたちがドラマをリアルタイムで視聴したいがために仕事が終わったら早々に帰宅す

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          とある不良大学生の就活日記

           昨年の今頃、大学3年になった私のもとにもついに就活という名のビックウェーブが押し寄せてきた。同級生たちは口を開けば、インターンがどうだの、エントリーシート書くのが面倒くさいだの、リクルートスーツを新調しただの、聞いているこっちの耳が腐り溶けるほど不愉快な横文字を連発するようになった。元来、就活というものに対して恐ろしいまでの嫌悪感をもっている私からすれば、その不愉快な横文字を浴びせかけてくることはそれだけで、顔面に糞ぶっかけの刑を執行するに足るほどの悪行であった。  従っ

          とある不良大学生の就活日記

          全裸先生

               若者よ服を脱ぎ捨て街へ出よ      さすれば道は開かれん      神の与えし肉体を      いかでか布で隠さんや      己が肉体剥き出して      世界に向けて叫ぶべし  どこにあるのか、いつからあるのか、それら全てが謎につつまれた赤玉村という小さな村にとりわけ奇妙な中年男あり。本名年齢いずれ不詳。分かっていることは、彼が常に全裸で生活をしているということ、だらしのない肥満体型であるということ、それでいて不思議なことに溢れんばかりの気品を湛えており、村