蝶々の採餌 第六話

ここまでの話/「知っている?蝶々には、甘い蜜が隠れている場所がとても美しい色で見えるのよ。」私は銀座の会員制クラブで働くことになった。採用が決まったその日、お店の艶子ママから『白蝶貝のピアス』を貸してもらう。私はまだ気づいていなかったけれど、そのピアスは――

 私は鈴木さんの目の色が白蝶貝のピアスだって思い出せたのがうれしくって、ついついにこっと素の笑顔で返してしまう。

 え、と鈴木さんが驚いた顔をする。しまった、と思った瞬間だった。


「あおいちゃん、君は可愛いね。」


 鈴木さんが佐藤さんや田中さんの話をそっちのけにして言い放った。一瞬の間を置いてどっと全員の注目が鈴木さんに集まったのち、笑いの渦が巻き起こる。


「なんだよー、鈴木さんまだ一杯目だろ。おかしいだろ、急に。」


「今日は鈴木さんのおごりですね!」


「いやだって、おじさんドキドキしちゃったんだもの、こんなのひさしぶりだよー。あおいちゃん、僕のこと、好きでしょう?」


「ストレートに言われたの、はじめてなので私もなんだか嬉しいです。」


 今日はニコニコしてればよいわ、エミリさんのアドバイスを思い出して私も精一杯答えを作る。


「いやー、嬉しいことを言ってくれるね。ほんとに今日デビュー??将来有望だよ。お祝いにシャンパン入れちゃう。フルーツもいいよ。」


「キャー!鈴木さん男らしい!!シャンパンいただきました!!」


 すかさずエミリさんがボーイさんに指示を出す。となりのボックス席のホステスさんたちこちらをちらりと見たのが分かる。


 すぐにボーイさんが良く冷えたシャンパンと、細身のフルートグラスを5つ運んで来る。不思議なことに、運ばれて来たシャンパンのボトルも、鈴木さんの目の色や白蝶貝のピアスと同じ、光の角度によって虹色に見える紫色に光っていた。

 グラスにシャンパンが注がれる。ぱちぱちと、繊細な泡が弾ける。乾杯のために手に持った細身のグラスの中、本来ならシャンパンゴールドに輝くはずの液体が、アメジストのような深い紫色に輝いていた。


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