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息子と私と6年目のサンタクロース

「さあ、今年は何が欲しい?!
良い子にしてたら一つだけ
サンタさんから欲しいものがもらえるんだよ。
言ってごらん!!」

11月も終わりかけだと気がつき
慌てて6歳の1人息子に迫る母。

いつもクリスマスが近くなると思い出すことがある。

息子を妊娠したとわかったのは
クリスマスだった。

仕事も何もかもキレイさっぱり辞めて私は
ヨガを極める。ヨガの人になる。
だから年末年始の休みを利用して
本場インドへ修行に行く。
そう決めて荷物をまとめている矢先だった。
産婦人科の先生は
「産むのなら、インドなんて行くんじゃない。
酷い下痢になると赤ちゃんが流れてしまうことがあるのだから。」と言った。

そうして私のインド旅行と、ヨガの人になる夢は
まだ1センチ前後の小さな命の代わりに、
あっさり流れた。

結婚もしてなかったし
もともと子供なんて好きじゃなかったし
産みたいかなんて、子供が欲しいかなんて
正直わからなかった。

でも、降ろすのが嫌だと言うことだけは
はっきりわかった。

そして引っ越して籍を入れて息子を産んだ。

_____________________________________

息子がサンタクロースを知って
初めてのクリスマス。
2歳のクリスマス。

一緒にお風呂に入っていた時だった。
湯船の湯の中に立ち、小さなコップにお湯を汲んではひたすらに壁にかけて遊ぶ息子に

「クリスマス何が欲しい?息子は良い子だから、一つだけ欲しいものをサンタクロースがくれるんだよ。」
と言うと
目を輝かせて息子は即答した

「しーう!あんぱんまんしーう!」

びっくりした。
そうかシールが欲しいのか。
なんて可愛いんだろう。
大人と違って欲がなくて、本当に可愛い。
と痺れた。

「そっかシールか。わかった。サンタさんに言っておくね」
世の中に存在する、できるだけ多くのアンパンマンのシールを全力でプレゼントしよう、そう思った時

「なあに?おかーしゃは、なにもあう?」

息子は、ニコニコ可愛いほっぺを紅潮させながら
私の顔を覗き込んできた

びっくりした
考えてもいなかった。
そうか、欲しいものが一つだけ貰える。
私も??
でも

「お母さんは、もらえないよ。良い子じゃないから。」

咄嗟に、吐き捨てるように、
そう答えていた。


当時、仕事復帰してもう1年も経つと言うのに
ワンオペ育児と容赦なく増える仕事とに追われ
疲弊しており、いつもヘトヘトで
夜仕事で不在の夫に常にイライラしていた。

息子は目に入れても痛くないほどに可愛い。
しかし

仕事にしても育児にしても
やってもやっても報われない、終わらない
誰も私の頑張りを認めてはくれない
やってもやっても、まだまだ!ぜんぜん!
そう言われてる気がして
常に行き止まり感を感じ、
なんだか濁ったモヤモヤに包まれ
上手く息ができない。そんな期間だった。
うっかり油断すると、息と一緒に
「こんなはずじゃなかった!本当は、、、」
なんて絶対に口に出してはいけない言葉を吐き出しそうで、きっと
常に気を張っていた。

世の中の全てに、
可愛いはずの息子にさえイライラしていた。

まだ言葉を喋り始めたばかりの息子に
八つ当たりのようにキツく叱ることや
怒鳴ること、泣くまで怒る、
みたいな酷いことをしてしまっては
夜、布団の中で1人ひどい自己嫌悪に陥ったり、メソメソ悔しくて悔しくて泣いたりしていた。
孤独だった。
限界だった。
いや、
とっくに限界なんて超えていたと思う。


そんな私は
どー考えても
自分がいい子だとは思えなかった。

優しくおおらかな母親でも、
賢く我慢強い妻でも、
母感を感じさせず産前と変わらずバリバリ働くキャリアウーマンでも、
夢を追いかける情熱的な女性でもなく。

むしろ、そのどれもが上手くできず
全てが理想とかけ離れていた。

ゆえに、イライラして
やればやるほど
頑張れば頑張るほど
もっと惨めで、勝手にもっと孤独になっていた。

そして、一番大切で
可愛くて仕方ないはずの
幼い息子に
強めに当たってしまう
自分が大嫌いで仕方なかった。
情けなかった。
だから、ふいに出た
「お母さんはもらえないよ。いい子じゃないから。」
そんな自分の言葉には自分でもびっくりした。
だが
息子を見ると
私よりももっとびっくりしていた。
それは、もしかしたらすごくショックを受けていた顔だったのかもしれない。

そして息子はこう言った

「だーじょぶ。だじょぶ。もあえうよ。いいこ。なにもあう?」

そう言って、もう一度ニコニコして
私の顔を覗き込んできた。

それはきっと
私がずっと欲しかった言葉だった。

たぶん涙が出ていたと思う。


この子はきっと知っている
全てを見ている
そのまっすぐな心と目で
もしかしたら、生まれる前から。

私の、仕事も家事も育児も、夢も。
何もかもが
上手くできない葛藤と、至らなさと
もしかしたら、その頑張りを。
そして、そんな私を、ただただ
肯定してくれている。


ごめんね。
ありがとう。
優しいね。
ありがとう。
息子は本当にいい子だね。
お母さんも貰えるかな
何もらおうかな。

そう言って一生懸命笑いかけると

「しーう?おかしゃんも、しーう?」
とニコニコ。
当時の息子にとってシールは世の中で一番魅力的で価値のあるものだったのだろう。

そだね、お母さんもアンパンマンのシールにしようかな、シールは良いよねー。お母さんもシール大好き。と
涙を誤魔化しながら笑って答えた。


あの時からもう4年。

仕事は転職した。
息子は6歳になった。
コロナがあり、夫の働き方も変わった。
置いてけぼりにした夢は、だいぶ形を変え、まだまだ夢のまま。

息子はもう
アンパンマンのシールが欲しいなんて言わない。
それにもっと上手におしゃべりが出来ようになり「サンタさんは子どもにだけプレゼントをくれるんだよ!大人はもらえないよ!」
と生意気なことをいうようにもなった。
クリスマスが近いからと、やたらお手伝いしてみたり(いい子アピール笑)と知恵もついた。

でも
優しくて、ニコニコがデフォルトのご機嫌ボーイであることは昔とちっとも変わらない。

あの時のことはもう覚えてないみたいだけど。
それでも
私はあの時確かに
この子の優しさに救われた。

息子は覚えていなくても
私だけはずっと大切に覚えておこうと思う。

そしていつか
彼がもっと大きくなり、
ふいにどうしようもない
行き止まりにハマってしまった時、
まっすぐ淀みなく笑顔で伝えたい

「大丈夫、大丈夫、何度でもやってごらん。
あなたは絶対、大丈夫だから。」

そう言う母親でありたいと願う。



「さあ、今年は何が欲しい?!
良い子にしてたら一つだけ
サンタさんから欲しいものがもらえるんだよ。
言ってごらん!!」
と息子に聞きながら

「ありがとうサンタさん」
と心の中でもつぶやく6年目。



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