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読書まとめ『世界史を大きく動かした植物』→人類の歴史は、植物の利用の歴史

『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋

※2023/10/01:リンク先が『世界史を変えた植物』になっていたので、修正しました。本書の文庫版?



一言で言うと

人類の歴史は、植物の利用の歴史



概要

『植物は〈知性〉をもっている』に続いて、植物と人間の関わりに興味が沸き、読んでみました。


世界史の流れの中で、植物がどのような影響力を持っていたかが解説されています。人間は、肥沃な土地を巡って争い、遠方の植物を求めて海を渡り、植物の世話をするために他の人間を奴隷にしてきました。人間の歴史は、植物利用の歴史と言ってもいいのかもしれません。それでも、10億年選手の植物の歴史からしたら、ほんのひと時に過ぎないんですが。

本書の解説の範囲は歴史だけに止まらず、地理、経済、言語、文化、栄養、化学などの視点からも語られています。これらは切っても切り離せない関係にあります。例えば、温暖湿潤な気候条件では、害虫や病原菌が多いため、身を守るために辛味成分やカフェインを持つ植物が見られます。冷涼なヨーロッパではこれらの植物が高額で取引され、安く・安定して入手したいと欲したことが大航海時代やアヘン戦争の一因となりました。

植物は、虫や鳥などを媒介者として繁殖しますが、植物に最も働かされているのは人間なのかもしれませんね。人間は、生態系の頂点に立っているという思い上がりの真っ最中ですが、地球史レベルでは、植物に利用させられているぽっと出のニューフェイスでしかない、と認識させられます。


本稿では、特に興味深いと感じたものを3つ共有します。



① イネ+ダイズは最強ペア

日本人の心の味たる「ご飯と味噌汁」の組み合わせは、完全栄養食だそうです。主食のご飯=イネには、炭水化物だけでなく、タンパク質、ミネラル、ビタミンも豊富に含まれています※。イネに不足しているアミノ酸のリジンはダイズで、ダイズに不足しているアミノ酸のメチオニンはイネから摂ることができます。スタンダードな和食を食べているだけで、栄養面では高評価なわけです。なんというチート民族。

※そもそも、イネだけでもかなりハイスペックな栄養価のようです。玄米だとなおよし。

イネの強みとしては、生産性の高さも挙げられます。現代における、まいた種子に対する収量は、コムギが20倍程度であるのに比べて、イネは110~140倍と言われています。新しい水を引くことで、連作障害を起こさずに毎年栽培することができ、コムギとの二毛作も可能。限られた日本の土地でも、多くの食糧を生産できることになります。

一方、ダイズは、やせた土地でも栽培できます。その秘密は、空気中の窒素を取り込むバクテリアと共生していること。土中の栄養に依存しないので、連作障害も起こしません。稲作に適さない山地・台地でも栽培できるダイズを活かして、武田信玄は信州味噌、徳川家康は三河の赤味噌の生産を奨励しました。

イネ+ダイズの食べ合わせは数えきれないほどあり、日本の食文化に根付いています。ご飯に納豆+醤油、餅にきなこ、醤油を塗ったせんべい、日本酒に冷奴… どんどんお腹が減ってきますね。味だけでなく、栄養面でも注目すべき組み合わせだと感じました。

今後、和食の文化が廃れていったら、日本は長寿大国でいられるのか、とも考えさせられました。私も、朝食はパン、昼食は麺類が多く、ご飯と味噌汁を食べるのは夕食だけ。すっかりコムギに侵略されてます。国民皆保険・医療環境が整っていることは日本の強みではありますが、食生活にも気を遣って医者いらず、でありたいものです。



② カフェインは毒か薬か

世界中で愛飲されているお茶、コーヒー、ココアには、いずれもカフェインが含まれています。お茶は中国・インドから、コーヒーはアフリカからイスラム世界を経由して、ヨーロッパで流行しました。

適量のカフェインには、人間の心を捉えて離さない魔力があります。例えば、紅茶は産業革命後の工場労働者に愛されました。当時、水を媒介にした伝染病の懸念から、農業労働者は仕事中にアルコールを飲んでいたそうです。が、機械を操る工場労働でほろ酔い状態は危険なので、アルコールではなく抗菌作用のある紅茶を飲むようになったんだとか。カフェインによる覚醒効果も認知されていたようです。

カフェインは、動物が生きていくために必須の栄養素ではありません。イネやコムギは活動のエネルギー源となり、コショウも肉を長期保存して厳しい冬を乗り切る助けとなります。耕作に適した土地や遠方の香辛料に比べて、必須ではないカフェインを追い求めるのは合理的とは言えません。

むしろ、カフェインは動物にとっては毒です。植物が害虫から身を守るために作る物質であり、摂り過ぎれば身体に悪影響を及ぼします。カフェインの利尿作用は、毒を排出しようとする身体の反応なんだとか。まさに、毒と薬は紙一重です。

私はただいま、カフェインとの距離感を決めかねています。1日のコーヒーを2杯から1杯に減らして、そのあとカフェイン断ちをやってみて、結局今は1杯に戻しました。毒と薬のボーダーラインは人それぞれだと思うので、引き続きセルフ人体実験をしながら適量を見極めたいと決意を新たにしました。



③ 地球の支配者?トウモロコシ

主要な作物※の中で生産量ナンバーワンを誇るのは、トウモロコシです。その量、約11億トン。トウモロコシは、日本人にとっては野菜ですが、イネ・コムギと並ぶ三大穀物でもあります。メキシコなどの中米では、トウモロコシの粉から作られるトルティーヤが主食として食べられていますね。

※サトウキビの生産量は、トウモロコシを上回る約18億トンですが、サトウキビは主要作物ではないようです。

トウモロコシの驚くべき点は、用途の豊富さです。実は、人間が野菜・穀物として食べているトウモロコシの量はごくわずか。家畜の飼料としての栽培が主流で、日本のトウモロコシ輸入量の65%が飼料用といいます。他にも、コーン油、コーンスターチ、果糖ぶどう糖液糖、難消化性デキストリン、工業用アルコール、糊、ダンボール、バイオエタノールなどなど… マルチプレーヤーすぎます。

私たちは知らず知らずのうちにトウモロコシを食べているので、人間のおよそ半分はトウモロコシでできている、という説まであるそうです。マヤ文明の伝説にも「神はトウモロコシから人間を作った」とあるらしいですが、現代においては半分正解。

トウモロコシは、人間を利用して個体・分布を広げることに成功したと言えます。人間がトウモロコシを育てているように見えて、トウモロコシが人間を操り、育てているのかもしれません。知性を持って、人間には認識できない方法で個体同士がコミュニケーションをとっている可能性も高いです。さらには、トウモロコシの直接の祖先となる植物が判明していないため、宇宙から飛来した説まであります。地球外生命体は、意外と近くにいるのかもしれませんよ…


補足

各種統計データは、農畜産業振興機構より。

世界規模の動向だと、米国農務省の月次レポート:WASDE(World Agricultural Supply and Demand Estimates)を元ネタにしているようです。



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