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『ラークシャサの家系』全26話

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オレたちは鬼なのだ・・・2000年以上の長きにわたり、その時代の統治者のもとで、秘密裏に関係を築いてきた人と鬼。令和の今も、誰にも知られることなく人の生活に溶け込む鬼たち。埼玉県… もっと読む
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記事一覧

『ラークシャサの家系』第1話

◇「キダと七瀬」 けっこう待たされるんだな。 住民票の転入届を出そうと、市役所の分所のようなところへ行ったのだが、本所へ行ってほしいと言われて来てみれば、  そんな時、 「お前らー!ちゃんと働いてんのかー!!」 ”ガッチャーン” ”キャー!” なんだ?!丸坊主の男・・・老人?が暴れている。 「俺をこんなに待たせやがってっ!俺を誰だか知ってやってんのか!?」 誰だよおっさん。まぁ怒りたい気持ちは分かるけど、役所の職員や来ている人に当たってもね。しかも、確か、オレよりも後に来た

『ラークシャサの家系』第2話

◇「指宿と3人のヴァイシャ」 今回のオレの勤め先、武蔵ダイカスト工業(株) 社員数36名、アルミ製自動車部品の製造販売、いわゆる典型的な中小企業っていうやつだ。主な取引先は自動車メーカーの「Tier 2」である。地理的な関係から、どうしてもH社系列に偏りがちだが、近郊にはN社やM社、S社向とかなり手広くやっている無系列系の「Tier 1」があり、時折そこからも注文がある。技術力はそこそこあるようだが、先代社長があまりにも技術にこだわり過ぎて、会社を傾かせてしまった。そこで政府

『ラークシャサの家系』第3話

◇「オレたちのお仕事」  オレは技術部開発課に配属された。比較的、時間が自由なこと、あの3人のヴァイシャも同じ職場ということが理由らしい。開発なんてガラではないが。 ”キダさん、外線4番です、キダさん、外線4番です” 「ほーい!4番、4番ね。はい、お待たせしました、キダです。」 「七瀬です。」 「・・・なんだ・・・あんたか・・・携帯でいいだろ?」 「ちょうど指宿さんにも用事があったので、こちらのほうが効率が良くて。早速ですがお仕事の話です。少し前に寄居であった事件なんですけ

『ラークシャサの家系』第4話

◇「彼女との接点」 楽しそうに仲間と一緒に写っている6人の被害者たち。よく見ると死亡推定時刻の数時間前に投稿されている。おそらくここに写っている誰かが自身のSNSに投稿したんだろう。悪さばかりしていた連中だが、こんなふうにして見ると、多少なりとも可哀そうに思える。まだ若いし、こいつらの寿命は短い。勿体ないことをしたものだ。 「キダっち、何か気付かない?」 「えっ? えっと・・・」 「これ、合成だよ」 「えっ?そうなんだ・・・」 「ほらっここの部分の輪郭が不自然でしょ?ここは影

『ラークシャサの家系』第5話

◇「アニオタとドルオタ」  ”ドーン・・・シューッ! ドーン・・・シュッシューッ!!・・・”  溶けたアルミ合金を、注射器のようなピストンで金型へ押し込む。しばらくすると、金型がホットサンドメーカーのように開いて、固まったアルミ合金の製品が出てくる。秒単位で制御された機械は、同じ動作をひたすら繰り返す。ダイカストマシーンの前には、出来立てほやほやのアルミ製オイルパンがどんどん増えていく。 人間が”やめろ”と指示を出すまで永遠に・・・  さて、鴛海がビンゴと騒いでいた”す

『ラークシャサの家系』第6話

◇「還暦のベーシスト」 翌日の朝、会社の正門で待ち合わせ。今日は井村明子の聞き取り再挑戦。 オレは少し早めに来て、車の中で待っていた。 ”ボボボボボ・・・バウンッ!ボボボボボ・・・” 今日もB16Aは絶好調。直4らしからぬ低音を奏でている。 「すみません。お待たせしましたか?」 「いや、さっき来たところだ。ところで昨日の夜、メールで送ったあのトレーナーの件、話聞けそうか?」 「えぇ、一応、プロダクションとはアポがとれました。」 「それならまず浦和か?」 「えぇ、ちょっとルー

『ラークシャサの家系』第7話

◇「県警の七瀬」 最近整備されたばかり綺麗な大通りと、新旧入り混じった閑静な住宅地。近くには、大手チェーンの回転寿司や焼肉レストランが立ち並ぶ。今では、全国どこでも見ることができる、埼玉県発のファッションショップもある。ずいぶんと住みやすそうだな・・・これが最初の印象だ。あの残虐なアチュートが、隠れているような街には思えない。  さて、まずは桜区西堀10丁目8X−XX、斉藤和也のほうだが・・・ ”ガチャ、バーーン”  また、そんなに強く閉めなくても・・・ ”ガチャ、バン

『ラークシャサの家系』第8話

◇「井村家」 桜区10丁目から中央区大戸6丁目の上野が住むアパートまでは、直線距離で500mほど、車では1分とかからない距離だった。七瀬に、なぜ斉藤に上野との関係を確認しなかったのか?と聞いたが、それだから素人なんですよ、と鼻で笑われた。  七瀬が言うには、あひるっ子トレーナーに応募するぐらいの熱心なファンで、しかも近所に住んでいて、そんな環境でお互いを知らないはずがない。逆に上野の名前を出せば、変に警戒させて捜査に支障が出るだろうと、それでなくとも、おそらく斉藤から上野へは

『ラークシャサの家系』第9話

◇「バラモンのラークシャサ」 ”バラモン”。最高階級のラークシャサ。その個体数は極端に少ないと言われている。オレだって実物を見たのは初めてだ。  オレたちクシャトリヤは、どちらかと言うと体力重視の鬼なのだが、バラモンは、身体能力こそヴァイシャ並みであるが、魔法のような特殊な呪文を使う。そしてその呪文の攻撃力は、オレたちの戦闘力をはるかに凌ぐ。また、バラモンのもう一つの特徴は、未来を予見する力だ。一般的には占いに近いレベルと聞いているが、中にはとんでもない的中率の者もいるらし

『ラークシャサの家系』第10話

◇「レーダー探知機」 明子は知っていた。この事件に2体の鬼が関わっていることを、そして、その鬼たちがとても凶暴であることを。  ”バラモン”である母親 みどりの能力、予言や予知のような能力を、単純に引き継いだとか・・・まぁ普通に考えると、そんな感じだろう。  そもそも半鬼というもの自体が珍しく、その特徴に関しては、オレたちもよく知らない。 「先ほどお話ししましたように、明子は、バラモンの私と、人間の夫の半鬼です。まずは、半鬼の特徴からお話ししましょう。」  みどりは明子に軽

『ラークシャサの家系』第11話

◇「バラモンの姫」 井村明子を、この捜査メンバーに加えるって、簡単に言いますけど、素人で女子高生でお嬢様、半鬼といえども、人間扱いの個体をどうやって?  ねぇ、みどりさん? 七瀬さん?  翌朝、武蔵ダイカスト工業、応接室。 「あなたが井村明子さんですね?昨晩、七瀬さんと一ノ瀬さん、それとメ、いや、お母さまのみどりさんから連絡がありました。私がこの会社の責任者で指宿と申します。」 「はじめまして、井村明子です。よろしくお願いいたします。」 「今、何人か紹介したい方々がいるので

『ラークシャサの家系』第12話

◇「上野村の道人さま」 武蔵ダイカスト工業の現場は3直2交代の操業。各班が4日出勤して2日休む。それを3班で巧みにずらしながらシフトを組む。そうすると現場は休みなく連続操業となるが、働いている人たちは、ちゃんと2日休めるという訳だ。昼勤と夜勤の間は無人になってしまうが、そこは残業で対応したり、自動運転で対応したりしている。とても合理的なやり方だ。こんな仕組みになっているなんて、実際に工場に勤務しないとわからない。  やはり山崎正の線で調べたほうが良いのか?  上野英、斉藤和

『ラークシャサの家系』第13話

◇「かくしごと」 オレも一応クシャトリヤ。一周目の若造だが、それでも戦士の端くれだ。近くに鬼がいることぐらいはわかる。 「明子ちゃん大丈夫?ほら!キダさん気を付けてよっ!」 緊張感のない七瀬の声。鈍感な奴は幸せだ。 「七瀬さん、キダさん、大丈夫です。離れていきました。」 「私たちに気付いたのかな?ほら!キダさんどうなんですか?」 あいかわらず緊張感がない七瀬。 「あぁ、なんとなくだが気づいたのかもな。ただ、相手に戦意はなかったような気もするけど。」 「私もそんな気はしましたけ

『ラークシャサの家系』第14話

◇「連携プレイ」 その日の夕食は、上野村の食堂で蕎麦を食った。オレは、蕎麦には少々うるさいほうだが、この店の、田舎切り、乱切りの蕎麦は、歯応え良し、香り良しの逸品だった。上品な更科ではなく、蕎麦の風味が引き立つ挽きぐるみでオレの好みだ。鳥取の溝口に住んでいた時、同じような蕎麦をよく食った。蕎麦ツユは、カツオ、昆布、それと、なんだろう?サバか?あと椎茸の僅な香りもあって複雑でキレのある風味だ。総じて水が良いところの蕎麦は美味い。様々な要素の連携プレイも、肝心な水が悪いと台無しだ