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#2「”当たり前”を考える」 ~あなたたちがやっていることを、 あなたたちは本当に選んでいるの?~

はじめに


”あたりまえ”だと思って着ている服、日常での振る舞い、選ぶ進路…それらは、自分で選んでいるようで、社会から選ばされているのかもしれない…。そう思うようになったのは、トランスジェンダー女性のエリンさんと、パートナーのみどりさんとの出会いがきっかけだった。


プロフィール

エリン・マクレディ

米国オハイオ州生まれ。青山学院大学英米文学科教授。オレゴン大学在学中に日本に留学。留学後も日本に戻り、日本のロックの音楽シーンに関わる。その際にみどりさんと出会い結婚。結婚の約18年後に米国にて性別を変更をするも、日本では女性であるみどりさんと結婚をしているため、性別変更が認められていない。声をあげられないセクシャルマイノリティの方々のためにも、社会を変えていくために国や自治体に対して訴訟を起こすなどして活動をしている。



もりたみどり

美術家。イベントオーガナイザー。大学教授でトランス女性の妻と、3人息子との5人家族。妻と妻のパートナーの3人でアートコレクティブ「MOM」を結成。多様性とフェミニズムを掲げたクラブイベント「WAIFU」、セックスポジティブでオープンマインドなレイブ「SLICK」などを主催。

「あなた方がやっていることをあなたたちは本当に選んでいるの?と言いたい。」
これは、みどりさんとの打ち合わせのときに出てきた言葉。私たちは、知らず知らずの内に社会が決めた規範や男性像・女性像に自分を重ね合わせて自分自身を形づくっているのかもしれない。エリンさんやみどりさんの、誰かや何かの意見や物の見方に自分のあり方を決められることなく、自分自身の手で自分のあり方を選択し生きている姿は、多くの人を解放するのではないか。私たちもまた、二人のあり方に鼓舞され、枠を超えて生きる自由な二人の姿をより多くの人に届けたいと思うようになっていった。


Life History

☆【結婚、そしてカミングアウト】

エリンさんとみどりさんが結婚をしたのは、2000年。エリンさんは元々、幼い頃から自身のジェンダーに対して違和感を持っていた。そして結婚から18年後、エリンさんは様々な悩みや葛藤を経て、みどりさんや子どもたちに、トランスジェンダーであることを明かした。


☆【性別変更】
そして2018年10月、エリンさんが故郷のテキサス州で性別を男性から女性に変更をする。しかし、性別転換が日本の区役所では認められなかった。もしエリンさんが日本で女性と認められた場合、みどりさんとの結婚は同性婚状態になってしまうため、区役所から突きつけられたのは「二重性別か家族解散」。書類上、米国政府が発行しているパスポートや在留カードには公式に”女性”と表記されているが、日本での住民票や健康保健証は”男性”のままという、一人の人物が場面によって異なる性別として認識されるという状態が起こっているのである。エリンさんが現在の日本で女生として認められるためには、女性である妻のみどりさんと離婚をする以外に手立てがないというありえない状況。なぜ、国や政府によって家族をバラバラにされなければならないのか…。こうした疑問と怒りから、二人はアクションを起こしていく。

☆【国と区への訴訟】
2021年6月、エリンさんとみどりさんは、国・目黒区・大田区に対して、国家賠償を請求する訴訟を起こす。お二人のアクションは、個人的な問題に留まらず、現状の日本の結婚や性別変更などジェンダーに関する時代遅れで非人権的な制度を変革していく一歩であり、多くの声をあげたくてもあげることの出来ないセクシャルマイノリティの人々やその家族にとっての希望である。また、日本社会におけるジェンダー問題を解決していくムーブメントを起こしていくためでもあるのだ。


☆【WAIFU】
「ジェンダーやマイノリティ、人種、年齢などに関わらず、オープンで他者と寄り添う気持ちのある人が安心して楽しめるセイフティスペース」をコンセプトとして掲げた、誰も取り残さない、誰も差別しないことをポリシーとしたWAIFUというパーティーをお二人が主催として活動を始められた。

WAIFUのフライヤー

私たちも、実際に2021年12月29日に行われたWAIFUのイベントに参加。
至るところに、下の写真のような差別禁止の張り紙が貼られていた。


最初の出会い

【It’s just our family上映会】

-家族って何?トランスジェンダーの青山学院大学教員とその家族が語る-

「人間はみんな自由で好きなことをしていい」

そもそも、Art Lab Philiaとお二人との出会いは、7月に青山学院大学で開かれた、エリンさんとみどりさんの講演会兼、お二人のドキュメンタリー映画の上映会に参加したこと。
ここで、お二人の生の声と生き様、ハッキリと意見を伝える姿勢に刺激と影響を受け、自分自身が縛られていた見えない社会の習慣や、「こうあらねば」という刷り込みが可視化されたような気がした。どこまでも自分自身であるということを大切にして、枠や制限を超えて生きる道を選択されているお二人の姿は最高に格好よく、こうありたいと思わせてもらえるものだった。
また、『It’s just our family』というお二人のドキュメンタリーでは、エリンさんとみどりさん一家に迫った映画だった。家族の中で、”父、母の立ち位置とはなにか、父と母とは一体何か”について考えさせられるひとときだった。

『It’s just our family 』




”当たりまえ”って、なに…?

世の中には、沢山の”当たり前”があるけれど、それらは本当に”当たり前”なのだろうか。私たちが考える、ジェンダーに関する社会の”当たり前”を可視化させてみた。

改めて考えて見ると、「男だから/女だから」という概念によって、私たちの行動や価値観は限定され、一元的な男性像・女性像が社会の中に根強くあることが分かる。
だが、実際は性の在り方は人それぞれで、その種類も多様。他者に恋愛感情を抱かないアセクシャルの人や、全性愛と訳すことのできるパンセクシャルの人など、LGBTQ+の中の、Q(クィア)や+に当てはまる人もいる。
それぞれが、自分がありたい姿で生き、性別に関係なく自分の道を選択していくことが実現できる世の中にしていきたいなと、改めて思う。





お二人と話し、私たちが思うこと


エリンさんとみどりさんとお話をしていると、いつも自分自身の中にある様々なバイアスや社会から知らず知らずの内に埋め込まれていた”常識”に、自分自身が縛られていたということに毎度新鮮に気づかされる。
社会制度や、規範、世の中の”ふつう”といったあらゆる枠の在り方自体から疑い、その枠をのびやかに超えて、自分自身が考えてそう在りたいと思うように生きているお二人は、内側から輝いていて、とても美しい。

自分自身で思考し、自分なりの哲学を持った上で自分の道を選択し、生きていくこと。

ときに社会の波に揉まれ、周りから壁を作られてしまうこともあるかもしれないけれど、それでも自分が自分である道を選んでいきたいと心から思うようになった。
お二人の生き方は、セクシャルマイノリティの方々のみならず、多くの人を
エンパワメントし、解放させていくと思う。
私たちはそんなお二人の姿を、社会におけるジェンダーやセクシュアリティの問題と真摯に向き合いながら、多くの人に届けていきたい。
これからも、ZINEや映像制作、アートプロジェクトの実践などを通して活動を続けていく強い決意をしている。
個を輝かせて生きている方々の生の姿を伝えることで、誰かの居場所になれるような作品を作っていきたい。


Art Lab Philia


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