マガジンのカバー画像

あたしは可愛くなんてない。

18
「その感情が愛でも、憎しみでも、悔しさでも。あたしの、あなたへの感情は誰とも違うのだから」…… 1話5000字ほどの読み切り形式で送る、女性同士の感情シリーズ。
運営しているクリエイター

#百合

エピローグ いつかのあたしたちは

エピローグ いつかのあたしたちは

「サナちゃん!」
 小さな部屋に、ふたり暮らし。
「ねぇ見てサナちゃん、誕生日プレゼント! あ、あとね、遅れちゃったけどハッピーハロウィン!」
 ファンシーな寝間着姿の天野セナは、満面の笑みを浮かべた。
 リボンでラッピングされた袋をひとつずつ、両手に持って。
「どっちが誕生日で、どっちがハロウィンのプレゼントなの?」
「どっちがどっちなのか忘れた! えっへん!」
 セナは何故かドヤ顔だった。
 

もっとみる
君が眩しい

君が眩しい

 夏の終わりはよく、人が死ぬような気がする。
 だから彼はあの日、あの日差しの眩しさが目にしみると言っていたらしい。

 その石には「金城家」と刻んであって、でも、こぢんまりとしていた。

「あ……凜花(りんか)」
 眉の下辺りでぱっつんとしてある前髪。
 でも、プライベートでの彼女はツインテールなんていう幼い髪型なんてしていない。
 当たり前だ、本来の久保田明里というのは聡明な女性である。
「何

もっとみる
どうせ死ぬのに

どうせ死ぬのに

 飄々(ひょうひょう)としているという言い方があるらしいが、彼女はまさにそうだ。
 どうして、私とキスしようなんてことを言うんだろう。

 弓琉(ゆみる)……本名はちゃんと別にあるのだが、彼女はよく分からない。
 女子校にいる女子高生で、私の先輩で、十七歳。
 背が大きいのだが、それ以上に胸がヤバイ。
 一緒にゲームセンターに遊びに行くと、いつも『conflict』っていう曲のフルコンボを狙っては

もっとみる
恋を知らないあなたでも

恋を知らないあなたでも

 私は、姉と血が繋がっていない。
 そんな風に見えないように努力して、ネガティブな自分を吐き出さないようにしている。
 それが、役者でありアイドルである私の仕事だから。
 アイドルユニット、「Lシス」ことLively Sisters(ライブリー・シスターズ)のオファーは、まさしく本領発揮する場を獲得できたというわけだ。
 でも、それを姉は快く思っていない。
 彼女は正直者で、生真面目なのにどこか頭

もっとみる

ライブリー・シスターズ

 あたしは不安だった。
 この物語を読むことに、みんなはどう反応するのだろう。
 自分はこの、染谷くんと佐倉さんのうちのどちらになるだろう、と。
 ううん、それよりも……
 この仕事がもしうまく行ってしまったら、愛するサナちゃんと離れ離れになるのだろうか。
 そんなことを思いながら、舞台袖で台本を握りしめていた。

 うちの事務所は、「アイドルになれば何でもできる」というのをポリシーにしていて、こ

もっとみる
証をください

証をください

 私には何もない。
 若さも、人気も、おっぱいも。
 何もないアイドルなのに、どうして私が選ばれたんだろう。

 芸能界でのキャリアは何年だったっけ。
 私は心が空っぽになるような日をたくさん経験したが、こんなにも……世界がモノクロに見えることはそうそうない。
「藍里ちゃん、お久しぶりです」
「え?」
 その人があまりにも鮮やかだったから。
「あ……朝比奈夏希、さん……ですよね」
「ごきげんよう」

もっとみる
まがいモノ

まがいモノ

 風俗の人間と、芸能人って対して変わらないんじゃないかと、あたしは思う。
 だってさ、アイドルって「偶像」っていう意味なんだって。
 偶像っていうことは、本当の神様ではない。
 本物ではない。
 人間が憧れ、崇め、すがるための存在。
 人間にとって都合のいい存在。
 ……世界を掌握しているのは、神様じゃなくてむしろ人間だろうと思う。

「わぁ……カナタちゃん、いつも本当にそっくりで可愛いよ」
「や

もっとみる