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【発達障害】輝く星の物語

 だれしもが温かい気持ちになり、心を揺さぶられてしまう物語がある。
すなわち「発達障害/コミュニケーション障害というハンディキャップを抱えながらも、そうした障害を持つ人ならではの鋭い感覚を活かして仕事に就き、自分らしく働いている」という物語だ。

御田寺圭「ただしさに殺されないために 声なき者への社会論」より

 先日、御田寺圭さんの著書「ただしさに殺されないために 声なき者への社会論」を読了しました。この本を通じて、自身が発達障害の当事者であり、ピアサポーターとしても活動していることについて考えるきっかけとなりました。

 自分は発達障害のある当事者として「ピアサポーター」としての役割も持っています。ピアサポーターとは、ピアという「同じ立場にある仲間」という意味から、障害のある人生に直面し、同じ立場や課題を経験してきたことを活かして、仲間として支えることを指します。

 ピアサポーターとしてよく使うものに「リカバリーストーリー」というものがあります。「リカバリーストーリー」とは、ピアサポーター自身が障害がある中で自分の人生を取り戻していった過程を言語化して整理したものです。
 この「リカバリーストーリー」を他の当事者や支援者の前で表現することで、障害を抱えた人がどのような思いを持ち、それを聞いた人がそれぞれに自分の経験等を照らし合わせながら考えてもらう機会にもなります。

 自分のリカバリーストーリーは、発達障害を自覚せずに適応障害を経験し、その後は自己理解と治療に努め、新しい職場で作業療法士として働いている過程をまとめたものです。

 著者は、何らかの社会的困難あるいは弱者性を抱える当事者がクローズアップされるドキュメンタリー番組は、ハンディキャップに苦しみ葛藤を抱えながらも挫けずに努力を重ねる人物が取材され、懸命な努力の末に社会での居場所を見つけ、「その人らしく生き生きと輝く美しい物語」が採用されると指摘しています。

 そこには、当事者たちが同じ境遇を見て鼓舞されるのではなく、何不自由なく暮らす普通に人びとこそが、とりわけこうした物語を歓迎し、その理由は普通の人々 マジョリティにある種の「赦し」を与えてくれることだとしています。
 様々な障害や弱者性を抱える人が、この社会の片隅で、立派な社会の一員として、自分の特性を活かして生きていることを伝える物語は、世間一般の人びとにとって実に好都合であり、自分たちが作り上げた社会が、社会的弱者を排除したり疎外しておらず、居場所も活躍する機会も、さらには生きがいも提供して、自己実現を後押しし、社会的に包摂する度量も余地も残しているという確証を与えてくれると皮肉っています。

 一方で著者は、物語の主人公と同じようなハンディキャップや弱者性を抱える当事者は、こうした心温まる物語を、世間一般の人々と同じように共感的あるいは肯定的に見ているとは限らないとしています。むしろ内心では苦々しい思いを隠していることさえあり、そこには影の表情があると指摘しています。
 それはすなわち「なんらかの困難や弱者性を抱える人は、努力を重ねて卓越した存在とならなければならない」といった社会的メッセージが含まれてることを危惧しています。

 確かに発達障害者が一般的な健常者には持ちえないような鋭敏な感性、あるいは特異な感覚を持っていることは少ないかもしれないが、そうしたステータスがみな社会的に評価しうる特技につながるとは限らず、世間的な関心領域と整合的であることは極めて稀だとしています。ましてや生業として経済力を獲得し、自立した社会生活を成り立たせる事例ともなると、できる人はごく一部に限られるのではと述べています。

 障害特性が向社会的・経済合理的な方向で相性よくかみ合う幸運は、ほとんどの人に望むべくもなく、むしろ多くの場合は「感覚過敏」や「挙動不審」、「認知のゆがみ」といったネガティブな記述を伴う特徴として顕在化してしまいます。

 「発達障害者やコミュニケーション障害者が、きらりと輝くなんらかの才能によって社会的に適応する」という美しく心温まる物語が多くの人に支持されればされるほど、自らのある種の特性や傾向性を「きらりと輝く才能」にうまくアジャストすることのできない人びとは、社会的にも精神的にも、さらなる苦境に立たさせることになってしまうと著者は警鐘を鳴らしています。

 自分のリカバリーストーリーは、「輝く星の物語」の属性を持っていると感じています。その「輝く星の物語」は、苦境に立っている障害当事者にとっては、アンデットを光属性の力で闇を焼き払うような輝きで、それは悪意なきを攻撃性を秘めているかもしれません。

 「自分でもできた」は、ある意味では加害性を伴う側面もあると感じます。そのため自分の物語は聞かれない限り口にしないことも品性の一つに思えます。

【参考文献】


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