Annaの日記 ハイリスク妊婦の末路⑬最終回
どうしても退院日に仕事の都合で来れなかった夫は、前日に片付けたスーツケースを持って帰っていた。そして、スーツケースを置いていた場所に真新しいベビーカーを置いていった。
退院日は、海外旅行の最終日、パッキングを終えて、空港までの迎えの車がくるまでのホテル待機のような時間だった。色々な旅行の出来事を思い出して、そして無事帰国出来るかソワソワの時間。
忘れ物はないか何度も洗面台や金庫を確認したが、もうすべて空っぽで時間が潰せられない。
11日もいると、小さな引っ越しのような感じもした。引っ越し業者がかえって、引き渡し業者がくるまでの、何もないぽかんとした部屋。
しなくていい掃除をしてみたり、見飽きているはずの窓越しの景色を眺めたり・・
あんなは朝一番から最後の検査のために別室にいた。
出産してから4日間。子供と別室だった事で時間をもてあそばせていたのもあり、この一連の出来事を将来あんなに伝えようと
Annaの日記 を書いていた。
この時は、このnoteに書こうと頭になく、主語は「ママ」で子供がグレた時に、こんなに大変だったんだぞという事を書きたく、手紙調に書いた。
同室になってからも、寝不足で疲れているのに
どうしても続きが書きたくなり、子供が寝ている間はPCに向かっていた。
最後のピースが残っている・・・
そう、この時はまだ「結末」が書かれていなかった。
一緒に退院出来るのか、
小児科病棟に再入院になるのか・・・
リュックにしまったPCを取り出し、「結末」を書くことにした。
どう書こうかしばらく手が止まってしまったが、
願いを込めて、
無事一緒に病院を出たんだよ!
と締めくくり、PCを閉じた。
そこから間もなくして、小児科の先生が入ってきた。
先生の表情で、答えがわかった
「おめでとうございます!一緒に退院できます。良かったです!」
続けて
「今回のこの病気(縦隔気腫)については、今後後遺症とか喘息になるとか、そんな心配はないので、もう忘れちゃって大丈夫ですからね!」
と、私の心配言う前に、安心する一言を添えてくれた。
同じタイミングで看護師さんがコットに入ったあんなを連れてきた。
「授乳と着替えが終わったら、清算して帰ってください。頑張ってね」
先生らが部屋を去ったあと、
あんなと二人になった。
一番泣いた。 声をあげて泣いた。
もう、なんの感情かわからない。
嬉しい、安堵、達成感・・・
感情が溢れに溢れて、せっかく久々にした化粧が崩れるほど泣いた。
ハイリスク妊婦の末路は・・・
花丸で終わった!
色々あったけど、というか今からが大変だけど、とりあえずハイリスク妊婦生活は100点、いや150点だ!
私もあんなも、そして夫も犬もみんな頑張った!!ありがとう!!
そんな涙だったのかと思う。
11日ぶりの外の世界はすっかり冬で空気が冷たかった。
あんなにとっては初めての外の世界。
寒くて眉間にしわがよっていた。
家までのたった30秒の初めてのあんなとの
「デート」
慣れないベビーカーでゴトゴト言わせながら、雲一つない空を見上げた。
やっと終わった・・・
やっと始まる・・・
家につくと、リモートで仕事をしていた夫と、私の帰りを中堅ハチ公のように待っていた犬が私とあんなを迎えてくれた。
犬はもう私が一生帰ってこないんじゃないかと思っていたくらい、驚きと興奮で飛びついて顔中をなめまわした。
初めての赤ちゃんと犬の対面。正直、我が家の「子供」が犬だったため、上手にやっていけるか心配していた。
犬は、なんなんだこの生き物は?といわんばかり体中の匂いを嗅ぎまくり、ベビーベッドにいってもずーーーっと張り付いて動かない。
あんなが泣くとすぐにオロオロと私のところに来て泣いている事を伝えに来る。
すっかり「兄」になっていた。
今から始まる4人の生活。
高齢夫婦の子育て・・・
不安もたくさんあったが、
このトツキトイウカと+14日間
あんなが私を少しづつ「母」にしてくれた。
あんな
こう呼べる日が来た奇跡に感謝した。
~おしまい~
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