ブーケ

ジャンルに囚われることなく、私から出てきたもの達を、そのまま束ねて。そんな気持ちで名付…

ブーケ

ジャンルに囚われることなく、私から出てきたもの達を、そのまま束ねて。そんな気持ちで名付けました。 バンドメイド品も、creemaに出品しています。 https://www.creema.jp/c/hikarinobouquet

記事一覧

ミシンで人差し指を縫いました。

ブーケ
1年前
2

還暦までに大人になって、子供から人生を始めたい・・・

ブーケ
1年前
2

暮れによく聴く『第五』の歌詞に、『いろはにほへと』はよく嵌まる。

ブーケ
1年前
2

楽園-Eの物語-エピローグ

 翌年、ルージュサンは男の子を産んだ。  あの不思議な空間で、授かったとしか思えない子だ。  産婆が開かせられなかった拳は、セランが触れるとふわりと開いた。  そ…

ブーケ
1年前
2

楽園-Eの物語-お帰りなさい

 フィオーレが突然立ち上がった。 フィオーレの長い毛の間に、花を挿して遊んでいたトパーズとオパールがのけぞる。  フィオーレはかまわずドアまで走り、振り向いて吠え…

ブーケ
1年前
3

楽園-Eの物語-小龍のキャロ

《腕の良い船頭を乗り継いで夜通し急げば、四日とかからん》  ムンはそう言って、船を手配してくれた。  帰路を急ぐセランとルージュサンには、有難い話だった。  ムン…

ブーケ
1年前
4

楽園-Eの物語-龍のいる洞窟

 二日後、ルージュサンとセランは、洞窟へと向かっていた。  食べては寝る、を繰り返し、驚異の速度で体力を回復したものの、いつもよりずっと、歩みは遅い。  セランの…

ブーケ
1年前
4

楽園-Eの物語-目覚め

「おはよう」  目が覚めたルージュサンの前にあったのは、見慣れた顔だった。 「いつも僕が起こしてもらってるけど、今回は僕が先だったね」 「え?もしかして?」  ルー…

ブーケ
1年前
3

楽園-Eの物語-『歌い女』の行く方

 ムンは山道を駆け下りていた。  もう少しで村に着く。  五日目の朝だった。  昨日の夕方風の向きが変わると、ルージュサンの歌にセランの声が絡まり始めた。 歌声は、…

ブーケ
1年前
3

楽園-Eの物語-声の出会い

 聞こえてくるのは風の音だけだった。  隠された園から戻ると、セランはずっとルージュの歌を探していた。  自分は果物を口にし、水も飲んだ。  それでも腹は減り、と…

ブーケ
1年前
4

楽園-Eの物語-神との会話

 四日目を迎え、ルージュサンは意識が朦朧としてきた。  不眠不休で食べ物もない。  息継ぎの時に、水を口にするだけだ。  目も閉じ、全ての力を歌に注ぎ込んでいる。 …

ブーケ
1年前
2

楽園-Eの物語-秘密の園

 道は意外と平坦だった。  壁面の内側は、光る苔が覆っている。  セランは手燭であちらこちらを照らしながら歩いた。  蝋燭の火は、息が出来る目安にもなる。  こんな…

ブーケ
1年前
2

楽園-Eの物語-洞窟の奥には

 セランはじっと耳を澄ましていた。 けれど、いつまで経っても歌声は届かない。  出口を塞ぐ、大きな石の向こうから、強い風の音が聞こえて来るだけだ。  その音が次第…

ブーケ
1年前
3

楽園-Eの物語-疚しさの変容

 ムンと村長は、耳を澄ましていた。  風向きはお誂え向きだ。  炉を挟んで腰を落ち着けると、間もなくその歌は聞こえてきた。  途端に二人は総毛立った。  文字通り、…

ブーケ
1年前
3

楽園-Eの物語-葛藤

 女達が出ていった後、ルージュサンは呼吸を整えた。  心の中で五回、息を薄く平たく吐くように五回、囁くように五回、抑えた声で五回。  決まり通り『春の喜びの歌』を…

ブーケ
1年前
3

おかん・・・

ブーケ
1年前
2

ミシンで人差し指を縫いました。

還暦までに大人になって、子供から人生を始めたい・・・

暮れによく聴く『第五』の歌詞に、『いろはにほへと』はよく嵌まる。

楽園-Eの物語-エピローグ

楽園-Eの物語-エピローグ

 翌年、ルージュサンは男の子を産んだ。
 あの不思議な空間で、授かったとしか思えない子だ。
 産婆が開かせられなかった拳は、セランが触れるとふわりと開いた。
 そして五つづつ小さな種が、セランの掌にこぼれ落ちた。
「なんだろう。この種」
 セランは首をかしげたが、すぐに嬉しそうに叫んだ。
「あの時僕、他の実も食べてみたいと思ってた!!」
「じゃあ『神』からのプレゼントですね」
 ルージュサンが笑い

もっとみる
楽園-Eの物語-お帰りなさい

楽園-Eの物語-お帰りなさい

 フィオーレが突然立ち上がった。
フィオーレの長い毛の間に、花を挿して遊んでいたトパーズとオパールがのけぞる。
 フィオーレはかまわずドアまで走り、振り向いて吠えた。
「どうしたの?」
 いぶかりながら、ドラがドアを開ける。
 フィオーレは門に向かって駆け出した。
 そして、人の背丈よりずっと高い門を、軽々と飛び越える。
「フィオーレ!?」
 庭にいたナザルとユリアが後を追う。
「「きっとそうよ」

もっとみる
楽園-Eの物語-小龍のキャロ

楽園-Eの物語-小龍のキャロ

《腕の良い船頭を乗り継いで夜通し急げば、四日とかからん》
 ムンはそう言って、船を手配してくれた。
 帰路を急ぐセランとルージュサンには、有難い話だった。
 ムンの言葉通りに三日めの朝、二人は船を下り、馬車を頼んだ。
 ルージュサンが切り揃えた、セラン銀髪が肩辺りでさらさらと揺れる。
 一方、ルージュサンの癖毛は、四方八方、好き放題に跳び跳ねていた。
「花火に頭から落っこちた、入道雲みたいに可愛ら

もっとみる
楽園-Eの物語-龍のいる洞窟

楽園-Eの物語-龍のいる洞窟

 二日後、ルージュサンとセランは、洞窟へと向かっていた。
 食べては寝る、を繰り返し、驚異の速度で体力を回復したものの、いつもよりずっと、歩みは遅い。
 セランの懐には《始めの娘》が持っていたという、石のナイフだ。
 ルージュサンのストールから、こぼれ落ちそうになった三つ編みの先を直しながら、セランが聞いた。
「あの実はなんで、オグにあげたんですか?」
「ごめんなさい。オグならあの実を増やして、村

もっとみる
楽園-Eの物語-目覚め

楽園-Eの物語-目覚め

「おはよう」
 目が覚めたルージュサンの前にあったのは、見慣れた顔だった。
「いつも僕が起こしてもらってるけど、今回は僕が先だったね」
「え?もしかして?」
 ルージュサンの瞳が尋ねる。
「うん。生きてるよ、僕たち」
 ルージュサンは体の感覚を確認した。
 湧き水のように澄み切っていて、空気のように軽い。
 ただ、あまり力が入らない。
 周りに目をやると、ムンの家だ。
「愛してるよ。ルージュ」
 

もっとみる
楽園-Eの物語-『歌い女』の行く方

楽園-Eの物語-『歌い女』の行く方

 ムンは山道を駆け下りていた。
 もう少しで村に着く。
 五日目の朝だった。
 昨日の夕方風の向きが変わると、ルージュサンの歌にセランの声が絡まり始めた。
歌声は、振動という振動を自在に操り、圧倒的な力で、繊細に、ムンと村長の体と心の細胞を奏でたのだった。
 二人は抗いがたい眠気に、夢現の時を過ごしたが、それが、今日の早朝、途絶えたのだ。
ムンと村長は急いで『歌い小屋』に行き、扉を開けたが、中には

もっとみる
楽園-Eの物語-声の出会い

楽園-Eの物語-声の出会い

 聞こえてくるのは風の音だけだった。
 隠された園から戻ると、セランはずっとルージュの歌を探していた。
 自分は果物を口にし、水も飲んだ。
 それでも腹は減り、とても寒い。
 水だけで歌い続けるルージュサンの消耗は、比にならない激しさの筈だ。
 それでもきっと、歌うことを止めはしない。
 村の為に、山の為に、この地方の為に、そして自分の為に。
 ふいに、風の音が止んだ。
 セランは急いで入り口の岩

もっとみる
楽園-Eの物語-神との会話

楽園-Eの物語-神との会話

 四日目を迎え、ルージュサンは意識が朦朧としてきた。
 不眠不休で食べ物もない。
 息継ぎの時に、水を口にするだけだ。
 目も閉じ、全ての力を歌に注ぎ込んでいる。
 止まない風はきっと、この声をセランに聞かせはしない。
 それでも、止めるわけにはいかなかった。
 時折、ふうっ、と、頭に空白が出来る。
 そこに何かが話しかけてきた。
―何故、ここに来た―
―夫が『神の子』の役目をするからです―
―あ

もっとみる
楽園-Eの物語-秘密の園

楽園-Eの物語-秘密の園

 道は意外と平坦だった。
 壁面の内側は、光る苔が覆っている。
 セランは手燭であちらこちらを照らしながら歩いた。
 蝋燭の火は、息が出来る目安にもなる。
 こんな道が続くのであれば、子供でも通れるだろう。
なくもないだろう。 
セランは好奇心と共に、先に進んだ。
 暫くすると、体が暖まってきた。
 歩いた為かと思ったが、やはり空気が暖かい。
 どの位歩いただろうか。
 二人で拉致された時、ルージ

もっとみる
楽園-Eの物語-洞窟の奥には

楽園-Eの物語-洞窟の奥には

 セランはじっと耳を澄ましていた。
けれど、いつまで経っても歌声は届かない。
 出口を塞ぐ、大きな石の向こうから、強い風の音が聞こえて来るだけだ。
 その音が次第に大きくなるのに落胆し、セランは洞窟の奥に戻ることにした。
 蝋燭の炎が揺れているのは、どこからか風が入っているからだ。
そして居なくなる『神の子』。
最初に思い当たった可能性について、セランは調べてみることにした。
微かな風を辿って、祭

もっとみる
楽園-Eの物語-疚しさの変容

楽園-Eの物語-疚しさの変容

 ムンと村長は、耳を澄ましていた。
 風向きはお誂え向きだ。
 炉を挟んで腰を落ち着けると、間もなくその歌は聞こえてきた。
 途端に二人は総毛立った。
 文字通り、頬の産毛まで立ち上がったのだ。
 強い風の音と交ざり合い、けれど紛れることなく空気を揺らす。
 それは鋼の声だった。
 大きな器を叩いたように、薄い板を震わすように、鋭い刃を滑るように。
 高く低く太く細く、 大胆でかつ繊細に。
 自由

もっとみる
楽園-Eの物語-葛藤

楽園-Eの物語-葛藤

 女達が出ていった後、ルージュサンは呼吸を整えた。
 心の中で五回、息を薄く平たく吐くように五回、囁くように五回、抑えた声で五回。
 決まり通り『春の喜びの歌』を歌う。
 そして普通に歌い始める頃には、山下ろしがごうごうと吹き荒んでいた。
―これではセランに届かない―
 ルージュサンは思った。
 今までの『歌い女』は、皆『神の子』の母親だ。
 息子の未来を見る力は、役立ちもした筈だ。
 いつまでも

もっとみる