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「書店員は単調でつまらない」&「非正規雇用の育成強化」論

沢木耕太郎さんの新刊「夢ノ町本通り―ブック・エッセイ―」を読了しました。

最も心に残ったのは「書店という街よ、どこへ?」でしょうか。1973年の冬、のちに「深夜特急」として結実するユーラシア大陸への旅に出る直前に書かれたもの。舞台は当時日本で最大の売り場面積を持っていた「紀伊國屋書店・梅田本店」です。

なんと記事を書くために、同店で数日間販売員として働いたとか。

興味深かったのはレジ打ちの様子。以下、沢木さんの話した部分だけ引用します。

「六百七十円になります」「千円おあずかりいたします」「サ番、千から、六百七十!(レジに)」

状況にもよるけど、基本的には「~円でございます」が望ましい。もっと気になるのは最後です。「ひとりで何を言っているの?」と感じませんか?

おそらく当時の紀伊國屋書店には親レジと子機があったのでしょう。販売員が各々の子機で金額を打ち、後ろに控える親レジへデータを飛ばし、お金をカルトンに載せて運ぶ。そして親レジ担当が確認しておつりを出す。

私が働き始めた頃は、まだこのシステムが残っていました。親レジを打つのはだいたいベテラン。お客さんと話すのが苦手な人に任せるケースも見られました。

「サ番」は沢木さんが使った子機の名称でしょうか? 私のいたお店では子機が1~6まであり「1号、クレジット、二千円」みたいに伝えていました。

時代を感じます。

一方、50年経っても変わらないものも見えました。たとえば、ある女性店員のこんな嘆き。

「好きな本はちっとも売れなくてね」
「誰もが知ってるっていう本より、知る人ぞ知るっていう本が、結局はいいんだけどね」

しかし書店員の仕事は単調でつまらない(!)と述べる沢木さんに対し、従業員の多くが「そんなにつまらなくもない」「販売業務が単調であっても仕入れには『なにか』がある」と返したそうです。

レジ業務はリアルタイムの生きた情報に触れるチャンス。目的意識を持たずに惰性でこなしていればつまらない。その辺に関しては、さすがの沢木耕太郎も若かった。ただここで重要なのは、書店員にとって最もやりがいのある仕事は仕入れの判断だという点です。

ほぼレジに入るだけのアルバイトもお店には不可欠。軽んじる気はありません。しかしいまは人手不足ゆえに商品知識を持った従業員も接客に忙殺され、選書まで手が回らない。仕入れの何たるかを学ぶ時間を取れない。

アイドル歌手がプロデューサーから作詞や作曲の術を学び、やがて独り立ちを果たすように、書店ももっとベテランが意欲的な後輩に棚作りの心得を伝え、育てるべきです。正社員だけではなく非正規雇用に対しても。

私はたまたま上司に恵まれ、折に触れて教育を受けることができました。しかしほとんどの非正規雇用は自己流というか、売り上げデータを見ながら何となくで返品や注文をしています。もう少し「選書眼を養う」「気概を持った非正規雇用を棚のスペシャリストに育て上げる」という意識が会社側にあってもいい。

ぜひご一読を。

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