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ハードボイルド書店員が「2025年の大河ドラマ」に思うこと

再来年の大河ドラマの主人公は、あの蔦屋重三郎(蔦重)です。

ざっくり言うと彼は「耕書堂」という書店の経営者で、かつ本を作る版元も兼ねていました。出版物の企画を考え、喜多川歌麿や葛飾北斎といった作家を見出して育てるプロデューサーの顔も持っていました。

現代における本屋は日々入ってくる大量の本や雑誌を並べ、売る役割のみを担っています。現場の最前線に身を置き、お客さんの声を直に聴ける立場なのに、それを出版に活かせない。そのもどかしさがずっとあります。

付け加えると、週末や祝日、ポイントアップデーに薄利多売して凌ぐビジネスモデルに倦んでいます。商売繁盛はありがたい。でも仕事量と利益が吊り合っていない。

品出しや問い合わせ、電話対応、レジ接客などで目まぐるしく働き、心ないことを言われ、もらえるのはほぼ最低時給。それが非正規書店員の実態です。正社員も同様。手取りを労働時間で割ったら私よりもたぶん低い。

忙しいのは大歓迎。しかし正当な報酬をもらえぬ業界では夢がない。新しい人も入ってこない。お金がすべてではないけど、むやみに軽視すべきでもありません。

本屋をもっと魅力的な働き場所にしたい。どうすればいいか?

青山ブックセンターは3年前に写真集「発酵する日本」を出版し、話題になりました。

出版社から仕入れた本を売った際の本屋の利益は2割程度。これを改善するのが難しいなら、自ら斬新な書籍を作って売り出す。かつて蔦重がやったように。たとえば少し前に現役書店員が芥川賞を獲りましたが、その店で働く人の書いたエッセイや小説を本にしても面白いですよね。

TSUTAYA及び蔦屋書店を経営するカルチュア・コンビニエンス・クラブは、蔦重と直接的に繋がりのある会社ではないようです。でも確実に何か仕掛けてくるでしょう。他の書店も負けじとアイデアを絞り、業界を活性化させてほしい。大した権限もない末端の身ですが、私も考えてみます。

最後に、蔦屋重三郎に興味がある方へオススメの本を紹介させてください。

江戸時代へタイムスリップした主人公が蔦重から商売のコツを教わっていくストーリーです。小説仕立てのビジネス書といった方が正しいかもしれない。著者が「江戸料理文化研究家」ゆえ細部のリアリティも抜群。当時のたくわんを食べたくなりました。

もう一冊。

こちらの蔦重はロックそのもの。人生で大きな選択を迫られた際は、必ず面白い方を選ぶ。史実を見る限り、彼には確実な売り上げの見込める商材を重んじる手堅い商売人と権力を挑発する粋なアイデアマンが同居している印象を受けます。本作は主に後者へフォーカスした痛快な娯楽小説です。

「蔦屋」の方は残念ながら新刊書店で買うのが難しいようです。おそらく大河ドラマの放送が近づいたら復刊されるはず。ぜひ頭の片隅に入れておいてくださいませ。

2025年がいまから待ち遠しいです。

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