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本屋大賞の思い出

いよいよ来週4月14日(水)に発表ですね。

個人的には伊与原新「八月の銀の雪」を推しています。芥川賞を受賞し、本屋大賞にもノミネートされている宇佐見りん「推し、燃ゆ」は若き天才の一筆書きみたいなイメージですが(もちろん実際は気の遠くなるような推敲作業を繰り返したはず)、こちらは漆の地道な重ね塗りという印象を受けました。

著者は天才的な作家ではないかもしれない。でもほとんどの人は天才ではないわけです(何らかの才能を秘めているという意味では誰もが天才とも言えますが)。どこかの段階で「思い描いていた自分」と「現実の自分」のギャップに呆然とし、打ちのめされる。かくいう私も当初の想定ではとっくの昔に作家デビューしているはずでした。

じゃあそこで諦めるのか、自棄になるのか。悟った振りをして他人の夢を嘲笑するのか。あるいは上辺だけ天才の真似をするのか。違いますよね。その答えを見つけるためのヒントが本書に込められています。ぜひ。

ちなみに私が「本屋大賞」と聞いて真っ先に思い出すのは、2008年受賞作の伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」です。

当時の私は尖っていました。「日本の文学はもう死んだ」みたいな。著者のことも「まあ売れてはいるんだろうけど」と見下していました。本作も読みましたが「リアリティがない」という文学賞選考委員みたいな感想を残してレッツ・ブックオフ。

でも後年再読したら、、、メチャメチャ面白かった。伏線回収におけるハプニング性と爽快感が著者の持ち味ですが、それだけではない。また文学賞選考委員の常套句を拝借すると「人間が描けている」のです。

どのキャラクターにも各々の人格があり、各々の積み重ねた道程があり、それらに則った各々の主張がある。その全てを書いていたら作品は終わりません。でも重要なポイントだけを丁寧に記していけば、読み手は頭の中でそれらを連結させてひとつのイメージを生み出せる。落ち葉の中に潜んでいるクッキーの欠片を辿って深い森を抜けるように。

読者の「想像力」をどこまで信頼できるか。そしてその「想像力」を発動させるために過不足のないキーをいかに提示できるか。これらの点で「ゴールデンスランバー」はヘミングウェイの短編と並ぶ最高のお手本だったのです。

巷の書店は今年の「本屋大賞ノミネート作」でフェアを固めがちですが、歴代受賞作や「10年前はこんな感じ」というタイムスリップ企画をやっても楽しそう。なお2011年は東川篤哉「謎解きはディナーの後で」が選ばれています。懐かしい!「お嬢様の目は節穴でございますか?」

うん、だいぶ丸くなりましたね。




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