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辞書で寄り道回り道


翻訳者にとって、必須アイテムの1つである辞書。

「プロの翻訳者なら、単語は全部頭の中に入ってて、辞書は使わへんのやろ?」と誤解される。いやいや、何をおっしゃいますやら。「辞書は絶対に必要やし、よう使うでー」と答えると、「え?!そうなん?」と驚かれる。

そうやねん。

辞書がないと、翻訳者は仕事にはなりませぬ。漁師さんにとっての網のようなもの、と言えば分かってもらえるだろうか。無防備な素手では、翻訳海峡は渡れませぬ。

1日中、PC画面とface-to-faceでひたすらキーをカチャカチャと打っていく翻訳作業。効率アップ&使い勝手の良さから、PCにインストールしたデジタル辞書、オンライン辞書、自作辞書をメインに使っている。

インストールしているデジタル辞書は、通常の和英・英和・英英辞典から、自分の技術分野(電気・電子・通信・情報・機械)の専門辞書まで、ザッと30冊。

辞書を引くための専用ソフトを使えば、1回の単語検索のみで、インストールしている辞書を一括で横断して検索できる。この『串刺し検索』機能のおかげで、時間短縮&効率アップにつながる。

デジタル辞書は、翻訳者にとっては強力な助っ人。非常に便利なのだが、個人的には紙ベースの辞書も捨てがたい。紙ベースの辞書は、仕事のためだけではなく、自分の楽しみのためにも使っている。

紙の辞書をパラパラとめくる時の、あの指先の感覚が何とも心地よい。調べたい1つの単語を探すまでに、このページでもない、こっちのページでもないと、指先と視線が行ったり来たりする。その、行きつ戻りつの中にこそ、楽しさがあるのだ。

紙の辞書で調べたい単語にたどり着くまで、行きつ戻りつを繰り返す間に、色んな単語や例文が目に入ってくる。これら色んな単語や例文こそが、『辞書での寄り道』。

寄り道単語の意味や定義を読んで、

 “へぇー。この単語、①の意味ではよく使ってたけど、③みたいな意味でも使えるんや。”

“なるほどー。この単語をこの例文のように使えば、単語の居心地がよさそうやな。” 

“この単語の同義語って、これもアリなんや。初めて知ったわぁ。同義語も見てみなあかんわ。”

という調子で、最初に調べたいと思った単語にたどり着くまでに、小さな寄り道をする。その小さな寄り道が、またさらなる寄り道につながったりもする。

奇跡的に、調べたい単語に1回でたどり着く場合もある。そんな時は、あえてそこで寄り道をする。その単語の周りにある単語を、寄り道単語として眺めながら、フムフムと楽しむのだ。

辞書でのちょっとした寄り道が、思いがけない発見に結びつく。

自分では知っていると思い込んでいて詳しく定義を読んだことのなかった単語が、実はもっと広義で使えることが分かり、イイ意味で期待を裏切られたり。自分ではあまり使ったことのない単語でも、その定義を読んで意外にもフレキシブルな単語だから、今度から積極的に使おう、と思ったり。

 
何度も歩いたことのある道を散歩していて、ふらりと、脇道や小道に入ってみた時の感覚と似ているかもしれない。小さな発見があると、1人でムフフと喜ぶ。

まっすぐ歩くよりは時間を必要とするけれど、あえて寄り道や回り道をしながらワクワクして楽しむ感覚、これからも大事にしていきたい。

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